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祝・野球太郎育児発売!「親が躍起になったところで、子どもはなるようにしかならない」

●「野球太郎育児Vol.1」発売!

 3月7日に発売された、野球太郎シリーズのニューフェイス、「野球太郎育児Vol.1」。コンセプトは「わが子を野球でたくましく育てたいと願う保護者に贈る球育本」。野球を通じて幸せになれる家族を増やし、ひいては野球界の発展につながっていけば、という願いが込められた渾身の一冊だ。本の構想は数年前から立ち上がっており、この連載コラムもその布石の一環だった。


 「野球太郎育児Vol.1」では、筆者もいくつかの記事を書かせていただいたが、取材対象者で強く印象に残ったのは「サッカーから学ぶジュニア育成のヒント」という特集ページで登場いただいた、ジュニアサッカー育成の第一人者、京都サンガFCの育成・普及部長、池上正コーチだ。

 小学生年代を指導して36年目の育成のプロフェッショナル。競技は異なれど、野球育児の参考になる部分は少なくないはずという予想は当たり、興味深い話のオンパレードだった。

 そこで今回のコラムは、池上コーチのページで載せきれなかった印象深い話を一部紹介していきたいと思う。

●成功者のマネをする発想の危険性

 保護者からの悩みに池上コーチが答えるコーナーで多かったのが「子どもをプロの選手にしたいと思い、幼少時代からやったほうがいいと思うことをいろいろと勉強し、やらせるようにしているのですが、肝心の子どもにその気がなく、やる気も手ごたえも感じられない」といった内容の保護者の嘆き。

 保護者のそんな声をぶつけると、池上コーチは自らの幼少時代の話を始めた。

「私は幼少時代からサッカー一筋だったと思われがちですが、実は中学3年間は水泳部でサッカーを始めたのは高校からです。最初はリフティングが3回しかできず、それがとにかく悔しくて。毎朝早く学校に行って、一人で練習してたら、一週間で100回できるようになった。でも小学生時代は、走るとビリだったし、鉄棒にぶら下がったら、そのまま動けずぶら下がりっぱなし、というような子どもでした。そんな子どもがこんな大人になるんですから、わからないものですよ、といった話を講演などでよくするんです」

 「指導の世界に長くいるので、いろんな子どもたちの成長過程を見てきた」と池上コーチ。

「小学生の時にあれだけ学年で突出していた子が、中学生、高校生になったら、ごくごく普通の選手になっていたりするケースも多いです。つまり親が躍起になったところで、子どもはなるようにしかならない、というのが私の基本的な考え方なんです。だとしたら、子どもがやりたいようにやらせてあげるのが、親の協力の本当の意味ではないかと。いくらプロになってほしいと思っても、なれるもんじゃないし、プロになんてならなくていいのに…なんて言ってるとなっちゃうかもしれない。実際はそんなものです」

 池上コーチは、プロ選手の親が書いた本などを「わが子をプロにするためのバイブル」のように崇め、育て方をマネしようとする保護者たちの姿勢にも疑問を投げかけた。

 「子どもをプロ選手に育て上げた保護者が語ったら、すべてが正解になってしまうわけですから。たまたまその子にだけ当てはまるやり方だったかもしれないのに、『同じように育てたらわが子もプロの選手になれるかも!』と考えるのはどうかと思う。成功者の裏では、圧倒多数の失敗者が世の中には存在するわけです。失敗者の人たちの中には、成功者のマネをしたから失敗したケースだってあるかもしれない。でも、そういった声は表にはでてきませんから。成功者の声は参考にするのはいいとしても、『これさえやっておけば我が子だって!』という考えに至るのはどうかと思う」

 池上コーチによると、アメリカには成功できなかったケースばかりを扱う、失敗例専用のケーブルテレビチャンネルが存在するのだという。

「何を言っても正解になってしまう成功者の声に耳を傾けるよりも、失敗者から学ぶことのほうが多いという考えなのかもしれませんね」

●言い方を少し変えるだけで効果は劇的に変わる

「なんでできないんだ!」

 親の期待通りに子どもが物事を遂行できないときに、大人がついつい言ってしまいがちなセリフだ。野球の現場においても、指導者の口から飛び出す代表的なフレーズのひとつといっていいかもしれないが、池上コーチは「この言葉からはなにひとつ前向きなものは生まれない」と断言する。

「『なんでできないんだ!』って言われても、その理由を一番知りたいのは言われた子どもですよ」

 池上コーチは「大人の言い方を『なんでできないんだ!』から『できないのはなんで?』に変えるだけで、言われた子どもの気持ちは全く変わってくる」という。

「そう言われれば、子どもは『ぼくはこう振ろうと思ってるんだけど、うまく打てない』といった自分の思いを出せるものなんです。そういった言葉を聞ければ指導者だって改善策を出しやすいですよね。

『そうか、そうやろうとしていたのか。でも実際のスイングはこうなっているぞ?』
『じゃあどういうイメージで振ればいいんですか?』

といった会話に発展していけばこれは大人と子どもの立派なコミュニケーションです。『なんでできないんだ!』が大人からの一方的なワンウェイコミュニケーションだとしたら、『できないのはなんで?』という聞き方はツーウェイコミニュケーションにつながる。ほんのちょっと言葉のかけ方を意識するだけで、子どもの気持ちも反応も大きく変わってくるということを保護者や指導者の方々は理解しておいてほしいです」


 この春、高3と高1を迎える息子をもつ筆者にとっても参考になる金言が満載だったインタビュー。池上コーチの特集ページは「野球太郎育児VOL.1」にて6ページにわたり掲載されています。池上ワールドが気になった方はぜひ!


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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