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息子との初めてのバッティングセンター〜前編(第45回)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。

古いパソコンに眠っていた記念日の日記


 古いパソコンのデータをハードディスクに移す作業を先日おこなったところ「野球日記」というフォルダーが目に留まった。開けると2003〜2004年頃に書き記したワード形式のファイルがいくつも入っている。当時、野球にまつわるエトセトラ的なエッセイ(?)をインターネット上でアップしていたのだが、その元原稿が出てきたのだ。

 その中に「初めてのバッティングセンター」と題されたファイルを発見した。日付は今から9年前の2004年8月21日。クリックすると、現在、高1の長男が小1の時に初めてバッティングセンターに行った日のことが記されていた。

 読み進めると、その日の記憶が鮮明に蘇ってきた。

(よっぽど嬉しかったんだろうな〜おれ。今では当たり前のように行ってるバッティングセンターに行っただけで、こんなに何ページも書いてるんだもんな。もしも、当時「野球育児」の連載があったならば、間違いなくこの日のことは書き記していただろうな)

 そこで、今回は9年前の夏に記した原稿から抜粋、加筆したものを掲載したいと思います。「息子との初めてのバッティングセンター」前編です。


※画像はイメージです。

長男の口から発せられた予期せぬ申し出


「パパ、バッティングセンターに連れてってほしいんだけどな」

 今年、小学校にあがり、初めての夏休みの真っ只中にいる、長男ゆうたろうが突然私に向かってそう口を開いた。
「お、おお! いいで! 明日いこか!」
「うん! いこういこう!」

 今年7歳になる長男坊。野球狂の親の思いとはうらはらに、もうひとつ野球にのめりこんでこない。かといって、まったく野球に対して、ぷいっと顔をそらす訳ではなく、私がトスして打つような遊びレベルの野球は3歳頃から大好きだ。

 ただ野球のルールを知ろうとか、どのチームにどういう選手がいるなどといった探究心はゼロといってよく、球場観戦に行ったり、家でテレビ観戦をしていても、残念なことに親子の会話はまったくといっていいほど弾まない。

 私に気を遣ってか、野球のチャンネル権を近頃は極力譲ってくれるようになったのが、彼なりの成長の証か。

 息子の予期せぬ申し出は嬉しかったが、いったいなぜ突然そんなことを言いだしたのだろう。

 長男の発言を妻に伝えるところ「なおちゃんがバッティングセンター行って、5ゲーム打ったんだって。たぶんそれを聞いたからじゃないかなぁ」と言う。

 なおちゃんとは同じマンションに住む長男と同じ小学1年生の女の子。幼馴染のなおちゃんとは、この4月から同じクラスになったこともあり、学校の行き帰りも一緒。お兄ちゃん二人が熱心に野球をしていることもあり、なおちゃんは近頃野球に興味を持ちまくっているらしい。

(ま、何はともあれ、自発的に自分の意思で言い出したことには変わりないよな。よしよし、いいじゃないか、いいじゃないか…)

いざ、バッティングセンターへ!


 約束どおり、次の日に妻、長男、5歳の次男、そして私の4人とで家から車で10分ほどの場所に位置するバッティングセンターへ。

 さて、どの打席で打つべきか。

 妻が、なおちゃんの母親から入手した情報によると、なおちゃんは60キロの打席でデビューを果たしたらしい。ところが、この店のスタッフによると、一番遅いスピードは85キロだという。

「ないよ〜! 60なんてないやん、ここ!」

 なおちゃんと同じ条件でやりたいのか、はたまた既に気後れしているのか、憤慨するゆうたろう。

 やや苛立った私は「おまえは男の子やろ? 85キロで勝負してみい!」と長男の背中を手で押しながら強引に移動。上原浩治(当時巨人→レッドソックス)が画像に現れる右打席専用ゲージを選択し、まずは父親である私が最初に手本を見せることに。

 1ゲーム20球。キャッチボールをするかのような85キロの上原の球を父親の威厳を保つため、空振りだけはしないように気をつけながら、右打席からはじきかえしつづけた。

 打席の後ろを振り返ると、長男坊がかぶりつくように私のバッティングを凝視している。

(いつもなら、俺が打ってるところなんて全く見ないくせに、次に自分が打つとなったら、あれかよ…)

 初体験の出来事に立ち向かう際に長男がよく見せる、びびり感いっぱいの表情が全開。なんだかおかしくなり、こみあげてくる笑いを抑えつつ、20球を全て打ち終え、長男坊にバトンタッチだ。

「パパ、どのバットで打ったらいいの?」

 打席の端には4種類のバットがたてかけられていたが、一番軽そうなものでも、長男には一目見て荷が重そうなシロモノ。

「あ〜そうか…、ここは子供向けのバットはないなぁ、そういや…。ゆうくん、これがとりあえず一番軽そうやから、これをな、思いっきり短く持って打ってみ」

「短くって?」

「ん? 上の方を持つねん。バットの真ん中辺握るくらいにしてみ、こうやって…」

 言われるがまま、往年の阪神の名セカンド、榊原良行も真っ青な短さでバットを握る長男坊。

 ヘルメットも用意されていることに気付き、少しサイズが大きいかなと思いつつ、「危ないからこれもかぶっとき」と長男の頭に乗せた。そして、ゲーム開始のボタンを押そうとした、まさにその時、ホームベースにまたがるように立ち、上原が出現する画像パネル付近を見据えるゆうたろうが視界に入った。慌ててボタンから人指し指を離す。

「おいおい! そこは立つ場所ちゃうぞ! そこにボールが来ますよ、ってことやで!? はよさがれ!! 危ない!」

「え…!?」

 慌てて後ずさりするゆうたろう。

(あんなにさっきかぶりつくようにおれのバッティングを見てたのに、いったい何を見とったんやあいつは…?)

 すると今度はびびってしまったのか、三振覚悟で試合の終盤に打席に入るセ・リーグのピッチャーのごとく、打席後方の位置で構えている。

「おーい、確かに下がれって言ったけど、それじゃあぜんぜんバットが届かないなぁ…。もうちょっと前に行きなよ」

「これくらい…?」
「いや、もっと」
「これくらい?」
「いや、もっと…」

 3センチ刻みでおそるおそる前進し、ようやく定まった打席の位置。息子がケージに入ってからかれこれ2分近く経過している。

 私の人差し指によって「低速」ボタンは押された。数秒後、上原浩治が息子の前に立ちはだかった。

 私、妻、そして5歳の弟に見守られながら、めでたく長男のバッティングセンターデビューだ。

    (後編へ続く)


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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