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第九回 ありがとう2013WBC! そして4年後へ…(終)

<はじめに>
 世界中の野球ファンを熱狂させた国際野球の祭典・2013WORLD BASEBALL CLASSIC。日本時間3月20日に行われた決勝戦でドミニカ共和国がプエルトリコを3-0で破り、世界的な一大イベントは幕を閉じた。
 2月よりWBC関連情報をレポートしてきた「侍JAPAN×2013WBC完全攻略法」のコーナーも今回で最終回。様々な「野球ドラマ」を通じ、日本の野球ファンのみならず、世界の野球ファンを魅了してくれた2013 WBCだが、最終回では「国際大会ならではの話題」を個人的観点でベスト5にまとめて、今大会を総括したいと思う。
<過去の記事>
◎ 第一回 2013WBC日本代表メンバー発表とみどころ
◎ 第二回 コメントで振り返る、WBC初戦&第2戦レビュー
◎ 第三回 3.6キューバ攻略大作戦!<ベスト5>
◎ 第四回 3.6キューバ戦の光と影〜明暗分かれたキューバと日本〜
◎ 第五回 WBC東京ラウンド中間報告
◎ 第六回 いざアメリカへ! 日本代表が1位通過で決勝ラウンドへ
◎ 第七回 待ったなし! いよいよ決勝ラウンドがスタート
◎ 第八回 世界は広い! 侍ならば潔く負けを認めるべし!!
◎ 第九回 ありがとうWBC2013! そして4年後へ…(今回)



第5位:元NPB所属選手たちとの再会!

 各国代表選手のメンバーには「どこかで聞いたことがある名前だな…」という選手が多かったのではないだろうか。第1回、2回と比べてNPB経験選手が格段に増えた第3回のWBCだったといえるだろう。
 第1ラウンドで戦ったブラジル代表には金伏ウーゴ、ラファエル・フェルナンデス、松元ユウイチ(ともにヤクルト)の他、元ヤクルトに所属していた佐藤二朗、曲尾マイケと思わず応援したくなる選手が勢揃い。中国代表にも呂建剛(元中日)、朱大衛(元西武)らがいた。オーストラリア代表にはオクスプリング(元阪神)、トーマス(元日本ハム)、ブライト(元巨人)、ヒューバー(元広島)と日本で知った顔がズラリ。カナダ代表にはマシソン(巨人)、モルケン(日ハム)、メキシコ代表はカリーム・ガルシア(元オリックス)、エドガー・ゴンザレス(元巨人)、ルイス・ガルシア(元楽天)など挙げていくとキリがない。
 第2ラウンド組ではオランダ代表のバレンティン(ヤクルト)、A.ジョーンズ(楽天)は東京ドームで大歓声を浴びていたが、特にチャイニーズ・タイペイ代表は現役のNPB所属選手が大会を盛り上げてくれた。リン・イーハウ(巨人)、ワン・イーゼン(横浜)、ヤン・ヤオシュン(ソフトバンク)、陽岱鋼(日本ハム)と馴染みの選手が代表選出され、日本以外の対戦国との試合でも活躍をみせてくれた。
 他にもイタリア代表はマエストリ(オリックス)、セラフィニ(元オリックス)、スウィーニー(元日本ハム)らの投手陣を擁し、プエルトリコ代表ではロマン(ヤクルト)、ジャンカルロ・アルバラード(元横浜)、バルデス(元ダイエー)らが準優勝に貢献するなど、日本のプロ野球で活躍した選手たちの勇姿を世界大会で見ることが出来たのは嬉しい限りだ。

第4位:恐るべし欧州勢。4年後はさらに要警戒!

 今大会で特筆すべきはイタリアとオランダ両国に代表される欧州勢の活躍だろう。イタリアは第1ラウンドでカナダとメキシコに勝利し、第2ラウンド進出一番乗りを果たした。バッティングコーチを務めるのが野茂英雄の女房役として日本でも馴染みあるマイク・ピアザ。その指導法が功を奏したのか、強力打線は世界レベルであることを実証してくれた。失策がきっかけで決勝ラウンド進出を逃したが、投手陣の整備と守備力のレベルアップが果たせれば4年後はさらに驚異的なチームになるだろう。
 日本とともに決勝ラウンドに進出したオランダは欧州勢として初の4強入りを果たした。代表チームの28選手中、半数がキュラソー島の出身。オランダが17世紀に入植した、カリブ海に浮かぶ人口約14万人の小さな島で、ベネズエラや、ドミニカ共和国、プエルトリコも近い。当然、野球が盛んな土地柄であることから、今後も有望な選手が育つ可能性は非常に高いといえるだろう。国際野球界の勢力図が大きく変わろうとしていると実感した大会であったことは間違いない。

第3位:「送りバント」大流行!

 第1、第2ラウンドはもちろん、決勝ラウンドでも多用された「送りバント」。日本の作戦としては何ら違和感はないが、欧米国でも確実にランナーを進塁させる作戦として浸透してきた印象を強く受けた。しかしながら他国には失礼だがやはり「ヘタ」に見えてしまった。普段やり慣れていない選手のバント姿ほど切ないモノはない。
 日本代表も第1ラウンドのキューバに敗れた試合で、松井稼頭央(楽天)が送りバントを失敗する場面があった。このミスで一気に流れがキューバに傾いたように、短期決戦では「諸刃の剣」のような作戦といえる。しかし先制点を取られたあとの重圧は嫌というほど味わった今大会の日本代表のように、短期決戦の国際試合だからこそ、送りバントが重宝される時代になってきたような気がする。
 メサ監督によるとキューバ国内ではバントを活用するメサ監督の采配に批判の声もあるというが、監督自身は送りバントの重要性に気付いており、気にせずバント練習に時間を割いていたそうだ。4年後の出場各国は相当、バント練習を積んでWBCに臨んでくるかもしれない。




第2位:「行けたら行け」は流行語大賞を狙えるか?

 タイトルの通り、日本中の野球ファンを話題をさらっていった「行けたら行け」。もはやあの場面の説明は不要だろう。途中で止まった井端弘和(中日)が悪いのか、二塁走者の動きを確認しなかった内川聖一(ソフトバンク)が悪いのか、果ては選手任せにした首脳陣が悪いのか…と、日本のマスコミは「戦犯探し」に勤しんだ記事を争うように書いていたが、ちょっと待って欲しい。
 第2ラウンドのチャイニーズ・タイペイ戦、9回2死から鳥谷敬(阪神)の単独スチールも「行けたら行け」のサインだったらしいが、あの場面で刺されていたら鳥谷や首脳陣が叩かれていただろう。さらにはその前にあっさり初球を打ち上げセンターフライに倒れた長野久義(巨人)が責められていただろう。しかし鳥谷が盗塁成功し、続く井端が同点タイムリーを放ったから、首脳陣も鳥谷も長野も叩かれずに済んだわけだ。
 つまり野球の作戦には常に「失敗する」リスクが伴うわけで、プエルトリコ戦についても作戦が「裏目」に出てしまっただけ。誰の責任か、誰のミスかというレベルの低い話をしているだけでは日本野球の実力はレベルアップしない、つまり次には繋がらないだろう。選抜高校野球も始まりプロ野球も開幕を迎えるこの時期だからこそ、今シーズンはプエルトリコ戦と同じケースに遭遇した場合、ベンチとランナーを注意深く見てみようと思っている。




第1位:3月8日の語り継がれる名勝負!

 個人的に強く1位に推したいのは、やはり3月8日に東京ドームで行われた第2ラウンドの日本vsチャイニーズタイペイ戦だ。今大会のなかで最も印象深い試合だった。打線が爆発して大勝したオランダとの試合も日本の戦力が余すところなく発揮され、スカッとした試合ではあった。しかし日本の野球の素晴らしさ、世界に誇れる日本の野球は決して「打ち勝つ野球」ではないと思っている。
 例えばプエルトリコ戦でみせた前田健太(広島)の投ゴロ処理。機敏な動きでゴロを捕球し、素早いターンで走者を刺す。しかも送球は相手が取り易い「胸の位置」に寸分違わず投じられる。こういったプレーは少年時代から厳しく指導され、何度も練習を重ねてきた結果であり、これぞ世界に誇れる「日本野球」の素晴らしさではないか、と感じたプレーだった。
 そこでチャイニーズタイペイ戦だ。鳥谷の盗塁は日本で野球を経験してきた者であれば誰でも知っている「ランナーは常に次の塁を狙う」という、当たり前のセオリーを叩き込まれてきたからこそ実現したプレーだったと思うし、その次の井端のライト前ヒットにしても「投球を出来るだけ引きつけて、右打者は右方向に打てばミート率があがる」といった打撃の基本中の基本を幼い頃から教え込まれてきたからこそのタイムリーだったように思うのだ。
 こういった小さなことが積み重なって形になる「日本野球」は、ホームランで勝敗が決する大味な野球よりレベルが高いと自負している。相手に点を易々と与えない前田健太のフィールディング、相手のスキを突く鳥谷の盗塁、長打を狙わず「繋ぎ」を重視した井端の打撃…。これぞ「日本野球」であり、それこそ世界にあまり類を見ないような「貴重な野球」ではないだろうか。もちろんホームランが悪いとは言っていない。しかし国際試合だからこそ「世界の野球には日本のような野球もあるんだなぁ」と世界の野球ファンに知ってもらいたい。そういう意味では今大会の日本vsチャイニーズタイペイの一戦はまさに世界に誇れる、これぞ「日本野球」というのに相応しい試合ではなかっただろうか。




そして日本野球の挑戦は4年後へ続く…

 優勝したドミニカ共和国、決勝で敗れたプエルトリコらのラテンアメリカの野球は良い意味で単純明快。打者はヒットを打てばベース上で大喜び、投手は抑えればマウンド上でガッツポーズ、ベンチは逆転すればお祭り騒ぎ…。世界の野球界で最高峰の選手たちのパフォーマンスを見ることが出来るのは大変貴重であり、本当に勉強になった。
 もちろん日本の「侍」たちも感情豊かな野球をみせてくれた。世界ベスト4は立派な成績だと思うが、個人的にはやはり優勝して欲しかった。終わったことを悔やんでも仕方がないので、4年後の大会では是非とも「世界一」を奪還してほしいと思う。前述した前田健太や田中将大(楽天)、坂本勇人(巨人)ら、1988年生まれの「88世代」の4年後は28歳。心技体ともに野球選手としてベストパフォーマンスを発揮できる年齢ではないだろうか。今大会の経験を活かして、自分たちが野球少年だった頃から積み重ねてきた「日本野球」に誇りを持って、世界大会で大暴れして欲しいと期待は膨らむばかりだ。
 最後になるが、このコーナーを読んでいただいた読者の皆様、並びに関係者の方々にはお礼を申し上げたい。今大会を通じて自分にとっても「野球を見る目」がさらに養われたと感じているし、人生のなかでも想い出に残るこの半月あまりだった。2015年の「プレミア12」と第四回WBCでも国際大会をレポートすることが出来たら幸せに思う。


<過去の記事>
◎ 第一回 2013WBC日本代表メンバー発表とみどころ
◎ 第二回 コメントで振り返る、WBC初戦&第2戦レビュー
◎ 第三回 3.6キューバ攻略大作戦!<ベスト5>
◎ 第四回 3.6キューバ戦の光と影〜明暗分かれたキューバと日本〜
◎ 第五回 WBC東京ラウンド中間報告
◎ 第六回 いざアメリカへ! 日本代表が1位通過で決勝ラウンドへ
◎ 第七回 待ったなし! いよいよ決勝ラウンドがスタート
◎ 第八回 世界は広い! 侍ならば潔く負けを認めるべし!!
◎ 第九回 ありがとうWBC2013! そして4年後へ…(今回)


■プロフィール
イラスト=ながさわたかひろ/ヤクルト芸術家。昨年のほぼ全試合、ヤクルト戦をイラストに起こした。それが1冊にまとまった『プロ野球ぬりえ2012全記録集』を作成。ブログ、Twitterアカウント→@t_nagasawa

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。東京ラウンド初戦の「東京ドーム滞在14時間伝説」は一生の思い出になるだろう。Twitterは@suzukiwrite

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