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第16回『野球しようぜ!』『天のプラタナス』『ラストイニング』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
打撃では、脳を経由する「反応」よりも、無意識に身体が動く「反射」のほうが重要。捕手は、巧みなリードで相手打者を惑わせ、「反射」を「反応」に変化させることが仕事である。

《寸評》
イチローは「打ちたくない球を、勝手に打っちゃうとき」(※15)があるという。頭ではバットを止めようと思っても、身体が「打てる」と判断してしまうらしい。打撃の真髄が、いかに「反射」にあるかがわかる。作中では、その「反射」をもっとも妨げる行為こそ、「迷い」だと解説されている。

※15・『夢をつかむ イチロー262のメッセージ』(ぴあ)より

《作品》
『野球しようぜ!』(いわざわ正泰/秋田書店)第8巻より

《解説》
鷹津高の小鳥遊天は、野球を知らずに育った一年生捕手。彼の活躍によって、同校は神奈川県大会を勝ち進む。決勝戦の相手は、ともに超高校級の二年生、エースの国東影と四番の藤堂正宗を擁する西京学園。試合は序盤から西京学園が7点差を付ける。
五回表、打席には二打席連続ホームランの藤堂。試合を諦めない小鳥遊は、タイムを取ったり敬遠を装ったりしながら、巧妙にカウントを整えていく。西京学園の壬生監督は、ベンチの国東たちへ「バッティングに重要なのは何だと思う?」と問いかける。
「『反応』か? 『反射』か? 投手から打者まで0.5秒以下 理論的には『反応』では間に合わない」
打撃の大部分は「反射」が担うという壬生監督。「迷い」が生じると「脳で論理的に考える分」だけ「反射」が「反応」に変わるとも。
「そして…… そうさせることこそが キャッチャーの仕事!!」
老将の視線の先には、素人同然の小さな捕手がいた。


★球言2


《意味》
ヒジがよくしなり、球離れが遅い投手のボールは、打者にとってタイミングが取りにくい。差し込まれたり、手打ちになることが多いため、ボールを重く感じ、打球があまり飛ばなくなる。

《寸評》
ボールが重い≠るいは軽い≠ニいう感覚は長い間、投手がボールにかけたスピン(=回転数)によって説明されることが一般的だった。この作品では、タイミングをハズされることによって打者が自分でボールを重くしている、という視点に立っているところが面白い。

《作品》
『天のプラタナス』(七三太朗、川三番地/講談社)第4巻より

《解説》
中学時代、仲間を気持ちよく打たせることで、チームに勢いを付けてきた天才打撃投手≠フ海原夏生。浜鹿高に進学した彼は、女性監督の天木美朝と出会い、チームのエース兼四番を任される。
北東京ナンバー2の紅鏡学園との練習試合でのこと。連打を浴びた夏生は、自ら「投げ方を変えていいですか?」と提案。相手に打たせてばかりの打撃投手≠卒業しようと、決意を見せる。
夏生の新しい投げ方は、ヒジを思い切りしならせるフォームだった。紅鏡学園の須藤監督は、すぐにその恐ろしさに気付く。
「そういうことか・・・・!? ああしてヒジをしならせ 球離れが遅いと バッターにとっては 見た目以上にタイミングが取りづらい!! 差し込まれたり 逆に振り遅れまいと肩が開き 急ぎ打ちの手打ちとなって 球が重く感じ 打球が飛ばない!!」
生まれ変わった夏夫のピッチングで試合は拮抗し、思いも寄らない決着へと向かっていく。


★球言3


《意味》
100試合をやった結果が勝率9割9分でも、決勝戦で1つ負ければ甲子園には行けない。一方、勝率0割8分でも最後にトーナメントを8連勝できれば、甲子園に辿り着くことができる。つまり、勝率と甲子園出場は関係ない。

《寸評》
この格言のキモは、本気で甲子園を目指すチームに求められるのは総合力≠ナはない、という点にある。たとえチーム全体の力が劣っていても、ここぞという試合を勝ち切り、トーナメントを連勝できる能力があればいい。一発勝負力≠磨くことこそ、甲子園への最短ルート。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第1巻より

《解説》
舞台は埼玉県の古豪・彩珠学院。独自の練習方法で野球部を鍛える新監督・鳩ヶ谷圭輔に対し、OB会長の大宮は激しい不満を抱えていた。
「あんなことしてて 強ぇチームが作れると思ってんのか?」
スゴむ大宮に、鳩ヶ谷はあっさりと「ムリでしょうね」と答える。怒鳴り声を上げる大宮。一歩も引かない鳩ヶ谷。
「必ずしも強いチーム(※16)が甲子園に行けるってワケじゃないんですよ、OB会長…」
自分の意図をわからせようと、鳩ヶ谷が問題を出す。
「公式戦と練習試合 合わせて年間に100試合あったとします…… 勝率何割なら甲子園に出場できるでしょう!?」
鳩ヶ谷は言う。「8勝92敗」でもトーナメントで連勝すれば甲子園に行けるし、「99勝1敗」でも決勝で負ければ甲子園には行けないと。
「つまり…… 勝利9割9分のチームにも、0割8分のチームにも 甲子園出場の可能性はあるってこと」
思わず言葉を失う大宮だった。

※16・作中では「強いチーム」に傍点。


文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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