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フィナーレは「家族の物語」!2013年の甲子園“事件”ベスト5

文=鈴木雷人

 今年も日本の夏を盛り上げてくれた甲子園が終わった。前橋育英が延岡学園を4-3で破り、1999(平成11)年の桐生第一以来、14年ぶりとなる群馬県勢の優勝で大会は幕を閉じた。

 今週の高校野球ジャーナルでは今大会期間中に起きた“事件”ついて、取材班の“独断と偏見”で検証してランキング形式でまとめてみた。今大会の合計入場者数は85万4000人と、昨年に比べて何と4万5000人も増加。一体、この盛り上がりは何だったのか、その要因はなんだったのか、読者の皆さまと一緒に考えていければと思う。

第5位 大会序盤の本塁打量産! 飛ぶボールとは本当だったのか?


 大会序盤を盛り上げたのは壮絶なるアーチ合戦。大会4日目までの15試合でなんと19本もの本塁打が乱れ飛び、大会終了時には70本の本塁打が量産されるペースだった。「NPBと同じく、高校野球でも飛ぶボールを使用しているのでは?」と囁かれた。しかしながら、全48試合中37本で打ち止め。昨年の大会で記録された56本と比較すると19本も減少した。


▲今大会2本塁打の内田靖人(常総学院)
 今大会に限っては「飛ぶボールは使っていなかった」といえそうだ。しかしながら、1949(昭和24)年の第31回大会では実際に“飛ぶボール”を使用していた事実がある。大会の使用球は審判員が立ち会いの下、重量・大きさ・弾み具合を確認する。通常は13フィートの高さから大理石の上に落として4フィート6インチ跳ね上がるのが標準だったが、その第31回大会では5フィート2インチも跳ね上がるボールを使用。これが要因となって第31回大会は多くの打撃戦が展開。本塁打は第30回大会の4本から9本と増加したのだった。

第4位 台頭する若手監督たち! 1980年代生まれの監督たちが甲子園を面白くする


 悲願達成まであと一歩だった延岡学園を率いた重本浩司監督は1981(昭和56)年生まれの31歳。さらに富山県勢40年ぶりのベスト8に進出した富山第一の黒田学監督は1980(昭和55)年生まれの32歳と、番狂わせが多かった印象のある今大会の立役者はズバリ“若い監督たち”ではないだろうか。

 一昔前の甲子園では、若い監督がチームを甲子園に導くも、強豪校に対しては「胸を借りる」「精一杯ぶつかって勉強させてもらう」といった謙虚なコメントをすることが当たり前であった。

 しかしながら、今大会はその若手監督たちのパフォーマンスが積極的で、良い意味で「攻撃的」な印象を受けた。例えば、初戦で秋田商を5-0で快勝した富山第一の黒田監督は試合後「投手を中心とした守りの野球が富山県の伝統であり、文化だった。でも全国はそういう時代じゃない」と言いきる。さらに次戦の木更津総合も8-0と快勝し「野球王国の千葉に対して劣等感を持つ時代を終わらせたい」と試合前のコメント通りの結果を見せてくれた。

 また延岡学園の重本監督は、準決勝で花巻東を破って県勢初の決勝進出を決めた瞬間、両拳を握りしめて天に向かって絶叫した。かつてここまで派手に、甲子園ベンチ内でド派手なガッツポーズをみせた監督がいただろうか。

 重本監督と同じ1981年生まれの沖縄尚学・比嘉公也監督や1983年生まれの作新学院・小針崇宏監督はこの年代の監督としては一歩先に台頭し、今大会も出場にこぎつけ、更なる経験を積んだはず。こうした「次世代監督」たちが来年以降の甲子園大会でどんな野球を見せてくれるか、楽しみにしたい。

第3位 触れないわけにはいかない!? 悲劇のカットマン・千葉翔太選手の悲劇


 “事件”として触れない訳にはいかないであろう、花巻東のカットマン・千葉翔太選手の大粒の涙。延岡学園との準決勝戦に敗れた直後は20分も泣き続け、取材では絞り出すように「ファウルで粘って出塁するのが自分の役目なのに、それを止められてしまった。今までの野球人生で一番悔しかった試合でした」とコメント。議論の中心は、千葉選手のカット打法への禁止通告のタイミングだった。

 準々決勝の鳴門戦で板東湧梧投手に合計41球も投げさせ、1安打4四球で全打席出塁した千葉選手。この試合後に大会本部は花巻東の佐々木洋監督と流石裕之部長に「バントの定義」を説明。ここで「ファウル打ち禁止令」が突きつけられた。



 しかしながら千葉選手は初戦の彦根東戦でも2打席目に四球を選んでおり、13球粘ったうち7球をファウルするなど、鳴門戦の第1打席と同じ球数で粘った末の四球だった。大会本部が注意をするのであれば、この彦根東戦の後でも良かったのではないだろうか。

 取材終了後、千葉選手は過呼吸を起こして車椅子で搬送されたという。千葉選手は準々決勝の8回、二塁ベース上での不審な動きで“サイン盗み疑惑”で球審から注意を受けていたが、その件もあって、準決勝ではどんなプレーをして良いのか悩んでいたという。準々決勝までの3試合で打率7割、出塁率は脅威の8割を記録していた身長156センチの“存在感抜群”の高校球児。残酷すぎる結末については、後味の悪さが残ってしまった。

第2位 甲子園勢力図が変わった!? 東北勢の大躍進が目立った大会


 その花巻東を含めた東北勢の活躍も、今大会を盛り上げてくれた要因として見逃せない“事件”だ。6校中5校が初戦を突破し、花巻東と日大山形の2校がベスト4入りを果たした。東北の2校が4強入りするのは実に24年振りで、春夏合わせて初出場の弘前学院聖愛は2勝をあげてベスト16入りを果たした。そのベンチ入りメンバーは全て青森県出身であり、県外出身者からなるチーム構成で甲子園に挑む学校が多いなかで「リンゴっ子」たちが一石を投じたことは間違いないだろう。

 その弘前学院聖愛の原田一範監督は、自軍の応援団に「リンゴの唄」を演奏してくれとリクエストしたそうだ。親しみやすい曲を甲子園中に流すことで観客を味方につけ、初舞台を踏む選手たちの緊張を和らげる狙いがあったのだろうと個人的には推測する。ベンチ内では明るい笑顔を振りまいていたが、相当「したたか」な監督ではないだろうか。また、エース・小野憲生や主将・一戸将など全国的にはノーマークだった選手が大活躍。「全国にはまだまだ知られていない好選手がいる」ことも実感した。こういった未知なる監督や選手が全国の舞台で大活躍することが甲子園の魅力であり、こういった学校がもっともっと出てきて欲しいものだ。

 過去の実績やその校名だけで勝ち進めるほど甘くない、甲子園大会は以前にも増して「厳しい大会」になった。前述した若手監督の台頭についても同じようなことがいえるが「群雄割拠」化は確実に進行している。

第1位 あっぱれ前橋育英! 親子鷹で頂点を極めた家族の物語


 最後はやはり優勝校を褒め称えよう。初出場初優勝の快挙を成し遂げた前橋育英は2年生エース・橋光成(こうな)を中心とした「守り勝つ野球」で頂点に立った。橋投手以外にも好守備を連発した内野陣など、見所の多い好チームを作り上げたのは荒井直樹監督だ。ユニフォームのモデルにもなっている社会人野球のいすゞ自動車で都市対抗に7度出場。サッカー部に続いて野球部の強化を図った同校にコーチとして招かれ、監督に就任した際には「理想のチーム作りに協力してくれ」と妻・寿美世さんを寮母に。さらに息子2人とも同校の野球部に入部し、指導者の父と寮母の母という両親ともに、荒井一家は野球中心の生活を送ってきた。


▲前橋育英・荒井直樹監督
 決勝戦では7回表、荒井監督の次男でもありチームの主将でもある荒井海斗選手が結果的に決勝点となった勝ち越し打を放って、見事、親子鷹が頂点を極めた。ウイニングボールは息子から父親の手に渡り、息子の手で父親を胴上げ。優勝インタビューではアルプススタンドで声援を送り続けた母親に、息子は甲子園のグラウンドから感謝を述べた。まさにドラマのような、野球を愛し続けた「家族の物語」で、今年の甲子園大会は最高のフィナーレを迎えたのだった。

 大きな波紋を生んだ、第3位の千葉選手の問題。来年といわず既に開催されている各地の秋季大会でも「ファウル打ち」の定義を徹底すべきだろう。さらにはサイン盗みについても、疑わしい動きに対して審判はどのように判断するか、全国でそのルールを統一化すべきだろう。ルールに則った判断で高校球児たちを導くのも、大人たちの仕事ではないだろうか。

 明るい話題をあげるならば、優勝投手の橋光成をはじめとした2年生に“逸材”が多いことがあげられる。今大会で155キロを記録した安樂智大(済美)の他、岩下大輝(星稜)、飯塚悟史(日本文理)といった投手たちはその片鱗をみせてくれたし、野手では甲子園で特大の一発を放った高濱祐仁と高打率をマークした浅間大基(ともに横浜)、春夏連続して甲子園で本塁打を放った繻エ樹(常葉学園菊川)ら好打者も活躍してくれた。日本の野球を支える“大いなる可能性”のある選手たちに対して、大会本部や審判団、監督や部長、そしてマスコミを含めた大人たちは“ふさわしい”態度を見せなくてはならないだろう。

■プロフィール
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

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