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第25回 『ラストイニング』『ドカベン』『BLACK OUT』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!


★球言1



《意味》
味わった快感がクセになり、身体をボロボロにしてしまう麻薬。投手にとっての三振は、まさにこの麻薬と同じ。奪三振の気持ちよさを追えば追うほど、試合の後半、身体に効いてくる。

《寸評》
元祖怪物・江川卓は、「27球完全試合」を常に目指していたという。1球もムダにしない勝利こそ、究極のピッチングと考えていたのだ。三振を欲しがると、どうしても球数が増える。力が拮抗している試合こそ、投手はラクに打たせて取ることを考えるべきかも。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第15巻より


《解説》
夏の埼玉県予選三回戦。彩珠学院と春日野大栄の一戦は、五回表を迎えて2対0。先攻の彩珠学院が、数少ないチャンスを得点につなげていた。
この展開に業を煮やしたのが、春日野大栄の前監督・熊谷勝英。スタンドで観戦していた彼は、応援団のもとへ駆け寄り、ベンチと連絡を取ることを要求。しかし、伝達行為は禁止のため、反対に口論となってしまう。
「何のために春日野大栄で野球やってるんだ?(中略)俺たちゃあ、勝たなきゃ意味がねぇんだ‼ 結果が全てなんだよ‼ あいつは負けてもいいなんて これっぽちも思ってねぇぞ‼」
彩珠学院・鳩ヶ谷圭輔監督へ視線を送る熊谷。彩珠学院の選手たちは、たとえ三振に終わっても、打席で必死に揺さぶりをかけていた。
「あの男は 三振ですら利用している。(中略)投手にとって三振は 何より気持ちがいい。だがその快感を追えば追うほど ボディーブローのように効いてくる……麻薬だよ」


★球言2


《意味》
捕手が小さく構えれば、相対的に前へ出したキャッチャーミットは大きく見える。制球力のある投手は、ミットの中心を目がけて投げるため、小さく構える捕手のほうが狙いやすい。。

《寸評》
投手を自分のミットに集中させる技術も、捕手のリードのうち。最近は、捕球面と外周のカラーが別々になったタイプのミットも、よく見かけるようになった。そのうち捕球面に、投手の好きなイラストや、捕手からの熱いメッセージなどが描かれるように……ならないか。

《作品》
『ドカベン』(水島新司/秋田書店)第11巻より


《解説》
鷹丘中を卒業し、明訓高への進学を決めた山田太郎。夏の予選抽選会が行われる日、彼が学校のグラウンドへ足を運ぶと、同じ一年生の里中智が、先輩の大川とモメていた。
「先輩ていどのスピードならザラにいます 変化球投手のぼくですら 先輩ぐらいのスピードは出ます」
歯に衣着せぬ里中の物言いに、大川は怒り、「エースの存在をはっきりさせるため」の勝負を申し出る。
一球勝負の結果は、大川が空振り。里中はピッチャー返し。軍配は大川に挙がったかに思えたが、里中はすぐさま捕手を「山田くんに変えてほしい」と願い出る。
「見ろ あれだ あれなんだ あのでかい体をあんなに小さくして そしてミッドだけが やたら大きく見える コントロールに自信のあるおれには 小さくかまえればかまえるほど投げやすい」
山田の待球姿勢に満足した里中は、ダイナミックなフォームから渾身のストレートを投げ込むのだった。


★球言3


《意味》
ある程度のレベルで投げていた投手が、昔と同じ感覚で投球を再開すると、頻繁にボールが上ずる。ブランクで股関節が固くなり、リリースポイントが上にズレるからである。

《寸評》
本格的なトレーニングを積んだ投手ほど、下半身の粘りで投げるフォームが身についているため、空白期間が生じるとボールの抑えが利かなくなりがち。草野球で初顔合わせの助っ人投手が、いきなり初回から炎上してしまうケースの約7割がこのパターンであるとか違うとか。

《作品》
『BLACK OUT』(朝基まさし、キサラギリュウ/講談社)第1巻より


《解説》
甲子園のマウンドでチームメイトを殴りつけるという、前代未聞の事件を起こした黒木仁。母校・相模北高の野球部を対外試合禁止に追い込んだ彼は、学校を離れ、川崎にある工場で働いていた。
ある日のこと。喫煙場所を兼ねた工場の空きスペースで、2人の工員がピッチング練習をしていた。
「今日も 球 走ってんな」
「あったりまえよ! 俺ぁ 元県大会ベスト4投手(※25)だぜ?」
彼らの会話を横目に、喫煙所のイスに腰をかける黒木。隣り合わせた別の工員との雑談にも、素っ気のない答え。ところが、先刻の練習ボールが飛び込んでくると、咄嗟に素手でキャッチ。俊敏な反応を見せる。
黒木は投手側の工員に近寄っていき、「股関節が固くなっている」と指摘。「昔と同じ感覚で投げると 足が開いてない分、リリースポイントが上にズレるんだ 興奮して力むと 球が上ずるから気をつけな」とアドバイスを与えた。

※25・作中では「投手」に「ピッチャー」のルビ。


文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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