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「ボール球を打ってはいけない」いやいや子どもの頃こそ「ボール球も打つべき!」(第48回)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。


公園で遭遇したある親子の打撃練習風景


 先週の日曜日、朝の8時頃に家の近所の公園のそばを通ったところ、小学校低学年とおぼしき男の子と父親がバッティング練習に興じているシーンに遭遇した。

 5メートル程度の距離で、父親が下手から投げたボールをひたすら打つ練習。打っても音がほとんどせず、飛距離もでないところを見ると、使っているボールはスポンジボールだろうか。

 公園のベンチに座り、親子の練習の様子をしばしの間、見ることにした。

(懐かしいよな〜。うちもあの子くらいの年齢の頃は、この公園で同じような事やってたな〜。ついこないだまで、同じような事やってた感じだけど、もうあれもかれこれ6、7年前のことか…)

 そんな回想にひたっていると、突如、父親が声を荒げた。

「だからなお前、ボール球は振っちゃダメだって何回言ったらわかるんだよ!?」
「今のボールだった…?」
「ボールだよ! 低いよ!」

 しばしの間、観察していると、息子がボール球に手を出すと、父親が烈火のごとく怒鳴ることが判明した。打撃フォームなどに関し、細かいことはいっさい言わないのだが、ボール球に手を出したときだけはとにかく口調が荒くなる。

(この父親、打者がボール球に手を出す行為が相当、嫌いみたいだな…)

「そういう球に手を出してもヒットにはならないし、相手投手を楽にしてるんだよ!」
「バッターが一番してはいけないことはボール球に手を出すことなんだ!」

 父親の言葉は間違いではないだろう。しかし、少年のスイングにはまったく思い切りが感じられないことが気にかかった。少しでもストライクゾーンを外れたボールに手を出すと、ものすごい剣幕で叱られるのだから、無理もないか…。

 父親に怒鳴られないことが主目的になっているかのような、スケール感の乏しいスイングを繰り返す少年が次第に見ていられなくなり、私は公園を後にした。

打撃のいいチームに共通する発想とは?


 私自身は、少年野球チームの指導者を務めていた際、選手たちには、「打撃練習の際はバットが届く範囲の投球は全部スイングしよう」と伝え続けた。もちろん「ストライクのみ振る」というシチュエーションの打撃練習も別に行うのだが、基本的な考え方として、「練習時はすべての投球に対してバットを出す」という決め事を作っていた。

「練習ではボール球もどんどん打ちにいくべし」

 この考え方は野球ライターとして、取材を重ねる中で気づかされたものだった。

 打撃のいいチームを取材すると、小、中、高といったステージに関係なく、「練習時から少々のボール球もしっかり打っていく」、「バットが届くところはどんどん振らせる」という方針を導入しているチームがやたらと多いことに気づいた。

 ボール球を打つことの効用としては
「バットの操作能力向上する(特に神経の発達が目覚ましい幼少期にやると効果が高い)」

「全ての球にしっかりと反応すべく、始動が早くなり、タイミングを上手に合わせる能力が自然と備わっていく」

「どんなボールでもバットに当てられるという自信が身につく」

「投球に対しての対応力が増すため、カウントを追い込まれてからの打撃の質が向上する」

「練習時に全ての投球に反応していく中で、自分にとってヒットになりやすいボール、なりにくいボールを体で覚えられるようになる」

 といった点が挙げられる。

ストライクしか打てない打者にならないために


 取材を通じ知り合った、ある少年野球指導者は言う。

「練習でストライクばかり打ってると、結局ストライクしか打てない打者になってしまうと思うんです。実際の試合でピッチャーたちはカウントを追い込むと、ストライクに見えるボール球をガンガン投げてくる。そういったボール球をバットに当ててファウルにできるかどうかだけでも、打撃成績というものは大きく変わってくる。

 それに、打者はカウントを追い込まれたら、味方ベンチから『ボール気味でもくさい球は手を出していけよ!』という声がお約束のように飛びますが、じゃあ実際に練習でボールくさい球をどれほど打ってるんだと言いたい。そんな準備を練習でしてもないのに、試合でいきなりくさい球に手を出すなんて芸当を要求するなんておかしいでしょ?

 よく『ボール球ばかり打っているとフォームが崩れる』なんて人がいるけど、ボール球を打ったくらいで崩れるフォームなんざ、そもそもたいしたフォームじゃない。野球というスポーツはレベルが上がれば上がるほど、『あえて自分のフォームを自分から崩す』能力が大切になってくる。でも、練習でストライクしか打ってない選手には、そういった反応力が備わってこないんです」

 その言葉を聞いて私は決心した。「もしも、自分が指導者をする日がやってきたら、もしも自分の子どもが野球をする日がやって来たら、絶対にボール球をガンガン打たしまくろう!」と。



打撃の職人・篠塚和典氏が贈る言葉


 首位打者を2度獲得した経験をもつ、篠塚和典氏(元巨人)の著書にもボール打ちを奨める内容が書かれている。一部を抜粋し、紹介したい。

「練習中からストライクしか打たないようでは、試合でもストライクしか打てなくなり、結果としてヒットの確率を上げることには繋がりません。

 まずはどこに投げられてもバットに当てられるという自信を持つことです。その自信を得るためには、打撃練習でさまざまなボールを打つことが一番の近道です。私は練習中、体に当たりそうな内角球も、ショートバウンドになりそうな低めの球でもお構いなしにバットを出していました。

 子どもたちに打撃を教えるときも、打ちやすいところに投げる必要はなく、むしろ打ちにくいところに投げてあげて、子どもたちには『どんなボールであっても当てにいけ』と指導してください。顔に当たりそうなボールでもバットを当てにいくことで、自在なバットの使い方を体が覚え、体が自然と反応するようになるでしょう。そして早いうちから『どんなボールにも当てられる』という自信が芽生えれば、試合でもヒットを打つ確率は上がりますし、野球がもっと楽しくなります。

 子どもたちには『ボール球を打ってはいけない』と考えさせるのではなく、『ボール球でも打っていい』と考えるように持っていった方が、気持ちにゆとりが生まれ、打撃の幅もはるかに広がるのです。

 ボール球を打ってはいけないというルールなどありません。特に少年野球では『打てる!』と思ったボールはすべてバットを振るくらいの積極性が必要だと思います。バットの届く範囲を体で覚えられますし、そのくらいの気持ちを持っている子どもの方が、打撃に対する柔軟な考えが身につきやすいため、上達は早いのです」

 この言葉、まずはあの公園の親子に届けたくて仕方がないのですが、余計なお世話かなぁ…?


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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