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第2回 河原井正雄監督(青山学院大)〜『野球太郎No.003 2013春号』の取材より

 不定期連載「野球太郎取材こぼれ話」。前回に引き続き、現在発売中の『野球太郎 No.003 2013春号』の記事から、全体の構成上どうしても入れることができず、やむなく外した取材のこぼれ話を紹介します。
 今回は青山学院大・河原井正雄監督が登場。なにやら、本編より力が入っているのでは? という内容です。




●取材前のやり取り
 2012年12月某日──。
 その日は朝から寒雨だった。神奈川県相模原市の青山学院大(以後青学大)・相模原キャンパス。敷地内にあるグラウンドにはさすがに誰もおらず、迎えに出てきてくれたマネージャーの案内で、少し離れた棟の監督室に入る。
 背筋を伸ばして挨拶をした際に応じた河原井正雄監督の最初の表情は笑顔だった。だが、すぐに少し複雑な表情に変わる。
「今回の取材はちょっとなぁ。正直、断ろうかと思いましたよ。だって、テーマがなぁ…。ウチの野球部にとってマイナスにならねぇか?」
 私の心はにわかに凍りついた。

 『野球太郎No.003』を読んでもらえるとわかるが、「青学OBはこんなもんじゃない!」の記事は、青学大出身のプロ入り選手の戦績を振り返った内容だ。とくに焦点を置いたのは、2001年にヤクルトに入団した石川雅規以前の選手と、その後にプロ入りした選手の活躍の度合いが大きく変化している点である。
 石川より後の選手は明らかにプロで苦戦している。この要因は何なのか? 東都大学リーグで第一線を維持し続けているため、あまりそれが見えてこないのだが(多少は思うところはある)、青学大野球部の中で何か変化したものがあるのだろうか? 選手の傾向、指導方針などを中心に関係者の話を聞いてまとめようというわけだ。

 となれば、ドラフトと大学野球に接点を持つスカウトの取材は必須として、やはり本山である河原井監督にも話を聞かねばならない。しかし、こんな取材テーマをぶつけてまともに対応してもらえるだろうか? そんな不安がついて回った。ところが、思い切って取材を申し込んでみると、マネージャーからあっさりOKの返事が来たので、少しホッとしていたのだが…。
 実際に現場に訪れた際の最初の言葉が冒頭の「テーマがなぁ…」である。聞けば、監督御本人は取材の媒体と日程だけしか知らされていなかったとのことだった。内容については今日になって、それも、ついさっき確認したのだという。さすがにこれから向かっている者に対して「こんな取材は受けない!」とは言えなかったわけだ。

 とはいえ、後で考えたらこれは幸運な展開だった。リーグ戦の時期などであれば、本当に急遽門前払いもあったかもしれないが、シーズンオフであったことが幸いしたと思う。河原井監督も言葉では難色を示していたが、年末ということもあるのだろう。その表情はかなり緩んでいた。
 実際、最初の渋った物言いにより、当初からの不安が再燃していた私は少しの間、その場で立ちすくしていたのだが、河原井監督は応接用のソファに先に座ると、すぐ横の席を指して「まあ、ここへ座れよ」と促してくれた。そして、企画の趣旨に則ったコメントを約1時間半に渡って話してくれたのである。

●誌面に掲載できなかった青学大OBの話
 今回の「青学OBはこんなもんじゃない!」の記事は、河原井監督の他にも、東都大学リーグを長年見てきた今成泰章スカウト(日本ハム)や、青学大出身の高山健一スカウト(広島)にも話を聞いた関係で、取材時の情報量がページ数に対して完全に飽和状態になってしまった。記事として掲載された内容はそのごく一部、三者のコメントの中で一連のつながりをもたせられる共通した内容だけを引っ張って結びつけたに過ぎない。
 そのような事情により、河原井監督のコメントについては、特に歴代OBプロ選手の個々の話を割愛せざるを得なかった。掲載された文章で、ある程度まとまった内容を紹介した小久保裕紀(元ソフトバンクほか)、井口資仁(ロッテ)、前出の石川雅規に高市俊(元ヤクルト)以外にも話してもらった選手について紹介したいと思う。

高須洋介(楽天)の話
「高須は井口の1つ下なんだけど、入ってきた時にセカンドが固定できてなかったんですぐにセカンドに入れたんですよ。でも、最初は井口のスピードに全然ついていけなくてね。6-4-3のゲッツーのときに二塁に入るのが遅れて井口の送球が捕れなかったの。ところが、それが何日か経ったらちゃんと入ってキレイにゲッツーを決められるようになった。口数が少なくて何を考えているのかわからないところもあるけど、このときはスゴイと思いましたよ」



奈良原浩(元西武ほか)の話
「奈良原の場合は、これはとにかく守備だけでプロでいける、と思った。後の井口のような大型ショートとはまったく正反対のタイプとしてね。ただ、問題はバッティングでね…」
 そこまで言いかけたところで、私が思わず「でも、東都では首位打者を獲ってますよね?」と、思わず言葉を挟むと、河原井監督はこの日何度か見せていた苦虫を潰すような表情になってこう言った。
「だからさぁ。そこは、色々と(練習や指導を)やらせて、そこまでになったってことですよ。もちろん、本人の努力もあるけどな」

南渕時高(元ロッテほか)の話
「おお、ブチ! あいつはショートで小さいくせに自信満々でね。風を切って歩ているような生意気なヤツでしたよ。時代が時代だったからシゴイたよ。それでも、向かって来たなぁ」
 南渕氏については、私が個人的に長年取材の協力を頂いたこともあり、以前から青学大時代の河原井監督とのエピソードについて色々と聞いていた。同氏は今でも機会を見つけては河原井監督の元へ挨拶に行くことがあると話していて、当時を偲ぶ話のときは、もちろん今だからこそという部分はあるだろうが、いつも楽しそうに話していたことが思い出される。
●今の選手に対する見解についてのウラ話
 こうした1990年代の歴代選手の話がある程度出た頃になって、私は「最近の出身選手についても、景気のいいコメントはないですか?」と、本題への方向転換を促した。
 すると、河原井監督の表情が即座に歪む。ほんの一瞬の時間ではあったが、次に何を言うか反射的に予想が立ち、ほぼ予想通りの返答が後をついた。
「だからさぁ! それは、さっき話したとおりでね。この企画のテーマに無理があるんだよ。(その後の選手は)活躍してないんだから」
 とは言いつつも、選手に対する思い入れが変わることはない。今現在、プロでプレーしている選手たちも、オフなどに会ったりして、色々と話をしたり相談に乗ったりしているそうだ。すでに文字量がかなりの量になってきたため、その詳細はまた別の機会があったときにでもするが、誌面記事にて紹介した大?雄太朗(西武)以外にも、横川史学(巨人)、小窪哲也(広島)、井上雄介(楽天)、小池翔大、山室公志郎(ともにロッテ)久古健太郎(ヤクルト)、そして、今季から広島でプレーする下水流昂などについて、本人とのやり取りや、彼らの性格、そして、これからの見通しについて色々と話してくれた。
 中には、とても活字にできそうにない辛辣なものもあったが、それも彼らの将来を心配してのもの。特に、今回の記事はスカウトのコメントも絡める内容であることは取材の際に伝えているせいか、その立場の違いについて強調していたのが印象的だ。
 私が、今成スカウトの取材で得たコメントを引用しながら、「チームの戦力の中で必要な補強ポイントに一致していれば、プロは獲得に動く、という話でしたから、最近の青学大の選手もその意味で魅力があるのでは?」と問うたときのことである。少しでも、今の選手をいい方向に持っていきたいがゆえに発した質問に対し、河原井監督はすぐにこう切り返した。
 「それは、プロの側からすればそうでしょう。でも、そのかわり、活躍できなかったら数年で見限ってしまうのもまたプロなんですよ。個人の幸せとしたら、どうなんだ? と。特に社会人に進んでからプロにいきたいという選手には、(プロで長年やっていくのは)正直、厳しいと思う者もいた。そのまま会社に残った方がいいんじゃないのか? すべてを捨ててプロにいって、2、3年でクビになったら、その後どうするんだ? とオレは言うんだけど、(ドラフト指名の)可能性が出てくると本人も、また家族とか周囲の人も『いきたい』、『いかせたい』ってなるんだよな。中には少し考えてから『やっぱりやめます』という選手もいるけど、それでもいくって言うなら、もう頑張れと言うしかない」




●共通した空気を持つ東都の名将たち
 このような話を聞きながら、私は不思議と東洋大の高橋昭雄監督や中央大の高橋善正前監督を取材したときのことを思い出していた。河原井監督と両氏の話しぶりの中に何か同じ“匂い”のようなものを感じたからだ。
 それはおそらく、監督が教え子を思う母性ならぬ「父性」がにじみ出ている点にある…と私は見ている。一見、知らんぷりをしているようでいて実はマメに教え子の様子を気にしているところ、また、教え子たちもそれを薄々理解しているのか、折を見て恩師の元へきちんと挨拶に来るという関係。選手の育て方や、リーグ戦での戦い方、取材で話す内容はそれぞれ全然違うものの、こうした関係によって生み出される空気感は共通している気がしてならない。

 「戦国東都」という恐々としたキャッチフレーズや、エース級投手の連戦連投といった過酷な戦い方だけを見ていると、ともすれば「勝つためには手段を選ばぬ非常な世界」と取り違えがちだが、その本質は極めてハートフルである。その実態は「戦国」ならぬ「愛国東都」と称してもいいくらいだ。
 私はこれまで、10年近くにわたり編集者、またはライターとして記事を企画し、取材の手配をして現場に同行してきた。東都大学リーグのチームにおいても、東洋大をはじめ、亜細亜大、國學院大、中央大、立正大、専修大などの取材現場に立ち会ったことがあるが、東都の監督は名将と呼ばれるに相応しい人ばかりで、取材では緊張感はありつつも、退屈のない楽しい経験をさせてもらっている。
 それは、たとえ観客の少ない平日の神宮であっても、常にエキサイティングな雰囲気を発しているリーグの空気と無関係ではないように思う。閑散とするスタジアムから何か熱いものが込みあげてくるあの異空間の正体は、名将たちの愛的な情熱によるところが大きいのではないか。その情熱がリーグを維持し続け、将来の名選手を生み出すことに一役買っているに違いない。
 今回の河原井監督の取材を通して、それを再確認できたことが一番の収穫であった。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

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