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「野球詩人」サトウ・ハチローを再発見する

 雑誌『野球太郎』の連載でも御馴染み「伝説のプロ野球選手に会いに行く」の「週刊版」。現在、文庫版“伝プロ”も絶賛発売中!


 前回からの続きで、今回は、詩人サトウ・ハチローと野球の関わりを見ていきたいと思います。

 僕自身、サトウ・ハチローの名前だけは小学生の頃から自然に知っていました。家の本棚に『おかあさん』という詩集が置いてあって、それが1巻から3巻まであって目立っていたのです。読んでどうだったかはほとんど憶えてないのですが、カタカナで書かれた名前が印象に残りました。

 『ちいさい秋みつけた』をはじめとする童謡、『リンゴの唄』をはじめとする歌謡曲の作詞家でもあり、小説家でもあると知ったのは大人になってから。野球をテーマにした詩も書いていたことを知ったのは、ライターとして『伝説のプロ野球選手』の取材をするようになってからです。

 最初に読んだ「野球詩」は、青田昇さん(元巨人ほか)に捧げられた、その名もずばり『青田昇』。以前に当コーナーで掲載した自伝『ジャジャ馬一代』にも収録されていますが、ここで全文を紹介しましょう。

武士は武士でも野武士でござる

貧乏どっくりが枕でござる

ケンカとござればお手伝い致そう

流儀はござらぬ

柳生も新陰も学びは致さぬ

刀を抜いたら度胸でござる

振り回しているうちに

敵をなぎ倒してお目にかける

あいやお立ち会い

ホームラン正宗の居合抜きを

お見せ申そうか



 野武士、ケンカ、ホームランという言葉から、青田昇という野球選手のイメージがパッと頭に広がりました。現役時代のプレーを観たことがない自分にとって、取材前にその野球人のイメージをつかめるのは大変ありがたいことなのです。

 残念ながら、青田さんはそのときすでに亡くなっていたため、生前に関わりのあったメディア関係者の方に思い出をうかがって記事にしました。そのなかで、サトウ・ハチローの野球詩をもうひとつ知ったのです。歌謡曲の歌詞で、『ホームラン・ブギ』という題名。

 戦後間もない昭和20年代前半、大下弘(元セネタースほか)の出現によって、プロ野球界にホームラン・ブームが発生しました。『ホームラン・ブギ』は昭和24年に発表されていますので、サトウ・ハチローがブームを表現したものと言っていいでしょう。

 歌詞は9番まであって、その3番に、当時の日本を代表するホームランバッター、青田さんと川上哲治さんの名前が出てきます。しかもラルフ・カイナージョニー・マイズと、メジャーリーグのホームランバッターの名前も登場。
 現地からの情報は多くなかった時代、アメリカ野球にもしっかり目を向けていたことがうかがえて、サトウ・ハチローはかなりの野球通だったのだと思いました。

 もっとも、それからすぐにサトウ・ハチローの野球詩を収集するほどハマったわけではなく、「野球詩人」のイメージが植え付けられて十数年後。仕事の関係で昭和20年代の野球雑誌を調べているとき、『青田昇』は「詩になるベスト・ナイン」と題された詩集の一編であることを知りました。

 そして、ほぼ時を同じくして、金田正一さんへの三度目の取材。サトウ・ハチロー直筆の野球詩に出会ったことでスイッチが入り、自分のなかで“ハチロー・ブーム”が起こり始めていました。


▲サトウ・ハチロー再発見のきっかけになった直筆の野球詩。[400勝投手]金田正一さんに捧げられたものだ。


 「詩になるベスト・ナイン」が載っていたのは、毎日新聞社発行の『別冊1億人の昭和史 日本プロ野球史』(1980年4月)。目次を見て「これか!」と思ってページを開くと、著者の顔写真にまず惹きつけられました。

 サトウ・ハチローの顔を見るのはこれが初めて。50代の頃の写真でしょうか。丸みを帯びた黒縁眼鏡をかけ、厚い下唇の口周りに髭を生やし、微かに笑みを浮かべて太い眉が下がったその風貌には、無骨さと茶目っ気が入り交じったような印象を受けます。

 肝心の「ベスト・ナイン」を見ると、トップバッターはまさに『青田昇』でした。さらには苅田久徳、千葉茂と、僕が過去に取材した選手も詩になっていて感激…。しかし、これらはあくまで『日本プロ野球史』掲載用に再現、編集されたもので、原典は別物であることが判明したのです。
(次回につづく)

▲カバー写真は青田昇さん。宇佐美徹也氏をはじめ、生前に関わりのあった方々の証言を収録している。



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文=高橋安幸(たかはし・やすゆき)/1965(昭和40)年生まれ、新潟県出身。日本大学芸術学部卒業。雑誌編集者を経て、野球をメインに仕事するフリーライター。98年より昭和時代の名選手取材を続け、50名近い偉人たちに面会し、記事を執筆してきた。昨年11月には増補改訂版『伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明期編』(廣済堂文庫)を刊行。『野球太郎No.003 2013春号』では中利夫氏(元中日)のインタビューを掲載している。
ツイッターで取材後記などを発信中。アカウント@yasuyuki_taka

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