週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

2013年、夏の主役・松井裕樹徹底分析〜前編・野球太郎ライターが語る松井裕樹とは

センセーショナルな奪三振ショーから1年。松井裕樹(桐光学園)は停滞することなく、さらに進化した状態で最後の夏を迎えようとしている。今年の高校野球界、ドラフト戦線の主役になりそうな松井の真価について、野球太郎ライター陣と専門家の動作解析によって掘り下げてみよう。



松井 裕樹 Yuki Matsui
桐光学園(神奈川・3年)
投手/174cm74kg/左投左打

1995年10月30日生まれ、神奈川県横浜市出身。小学6年時にベイスターズジュニアに選出され、12球団ジュニアトーナメントに出場。中学では青葉緑東シニアに所属、小柄ながら球威のあるストレートとタテのカーブを武器に3年夏にシニア全国大会で優勝。
桐光学園進学後は1年時から登板し、1年夏は県大会準優勝。2年夏は準々決勝の横浜戦以降、3試合連続完投で甲子園切符をつかむ。甲子園初戦の今治西戦では10者連続を含む22奪三振の大会新記録を樹立。続く常総学院戦でも19奪三振を記録するなど、4試合で68奪三振(歴代4位)をマークし、一躍脚光を浴びた。
最速147キロのストレートにタテのスライダー、カーブ、そして3年春にチェンジアップをマスターして幅を広げた。2013年ドラフト戦線の中心人物になることは間違いない。


野球太郎ライター陣が見てきた松井裕樹

流しのブルペンキャッチャー
安倍昌彦

2年の秋、松井裕樹の真価を見た


 夏の甲子園の松井はたいしたものだった。奪三振の新記録ということは、松井のボールはバットに当たらないということだ。つまり“魔球”である。投げるボールの質の高さでは、大阪桐蔭・藤浪晋太郎(阪神)を上回っていただろう。しかしそこには“勢い”というものもあったろうし、よく語られる“甲子園でしか出ないアドレナリン”の効果もあったはずだ。

 その真価は“秋”だと思った。しかし、一方で松井に“秋”はないとも考えていた。神奈川の予選からほぼ1カ月以上投げっぱなし。夏の「激投」が、まだ2年生の彼の心身をガタガタに破壊するだろうと心配していた。

 それが、涼しい顔で投げていた。

 その屈強さに恐ろしさを感じた。およそ半年経ってこの5月。関東大会と九州への招待試合が毎週続いた桐光学園。夏に向け、最も追い込んだ練習を積みたい5月に、グラウンドでの練習が週の半分もできないハンデ。正直、夏は楽じゃない。

 さあどうする、松井裕樹。投手の仕事はタイミングを外すこと。知恵と工夫で最後の夏を乗り越えろ!

浪速の先読みシロー
谷上史朗

松井裕樹と聞いて浮かぶ2つの顔


 松井を考えるといつも2つの顔が浮かんでくる。1つは工藤公康氏(元西武ほか)。それも32年前、名古屋電気(現愛工大名電)のエースとして、長崎西相手にノーヒットノーランをやってのけた時の工藤氏だ。

 何より衝撃だったのはカーブ。工藤氏のカーブは音をつけるなら「ギュイン」。急ブレーキをかけながら、力強く、鋭く、速く曲がってきた。松井のカーブも、やはり「ギュイン」。そこに三振奪取率の高いスライダーが低めに消える。この先、プロの世界ですぐに勝っていけるかどうかは、他の投手にない軌道の球を持っているかがポイントになる。ダルビッシュ有(レンジャーズ)や田中将大(楽天)、松坂大輔(インディアンズ3A)のスライダー、工藤氏のカーブがそうだった。

 工藤氏と並び浮かぶのは小谷正勝氏(ロッテコーチ)の顔だ。青葉緑東シニア時代、松井がその指導に触れる機会があったと聞く。小谷氏と言えば、現在のプロ球界でも投手指導において屈指といわれる人物。しかも、現役時代はカーブに特徴を持っていた。松井のフォーム形成、オリジナルな変化球の曲がりに、小谷氏のエッセンス…。まぎれもなく本物だ。



中学野球からの現場主義ライター
大利実

急成長導いた指揮官との相性


 今の松井の活躍ぶりは、実はちょっと嬉しい。2012年7月発売の『野球小僧』で、一芸に秀でた選手として取り上げたからだ。タテスラが最大の武器として紹介した。ここまで怪物化するとは予想外だったが。

 初めて見たのは中3夏の全国大会。タテ割れのカーブを投げていて、「カーブがいいな」という印象を持った。桐光学園の野呂雅之監督はピッチングよりも、直観的に「俺に合うかも」と思ったそうだ。

 細かいフォーム指導をあまりしない。ピッチャーは育てるものではなく、育つもの。そのためのサポートをする。1年夏は「ストライクを取ればいいから」と送り出した。2年夏は二塁牽制が課題だったことはわかっていたが、「一度にたくさんのことを言うと高校生は混乱する」と、あえて目をつむった。

 3年春、野呂監督は「予想していた以上に成長している」と称えていた。スライダーだけではなく、チェ ンジアップで空振りを取れるようになった。臨機応変に配球を組み立てられるようにもなった。「引き出しが増えている」と松井も手ごたえをつかんでいる。最後の夏、どんな松井に出会えるか、今から楽しみだ。

元テレビ神奈川アナウンサーライター
久保弘毅

「押し引き」感じる松井の受け答え


 力投派は取材での受け答えが単調だったりする。マッチョ志向に走ると、洞察力や自己分析がおろそかになる傾向がある。

 その点、松井は心配ない。全力で投げていた昨夏の時点で、受け答えに余裕が感じられた。大勢の大人に囲まれても、必要なことだけ淡々としゃべる。適度にはぐらかす術も知っている。「松井は本当のことを言わない」と嘆く新聞記者もいたが、会話の中でも「押したり引いたりができる」と言った方がいいだろう。事実、この春は力の抜き方を覚えて、ストレートが格段にグレードアップした。本格的に使いだしたチェンジアップも効果的で、幅が広がった。

 昨夏の大会前に、塩脇政治部長が「チェンジアップも使えよ」と言ったところ、松井は「秋までチェンジアップは封印します」と返したという。「自分たちの代で甲子園に行きたいから」というのが理由らしい。実際には昨夏の甲子園で少し投げてはいたが、大人を相手にそういう発言ができるところが「松井らしさ」か もしれない。

 これからさらに脱力と駆け引きを覚えて、 プロで活躍する姿を見せてほしい。将来は河本育之(元 ロッテほか)のようなリリーフタイプに育つと思う。



記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方