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カウント3-0(スリーボール)から打たせる? 激しい議論を生んだ『野球太郎育児』覆面座談会

●「野球太郎育児Vol.1」発売!

 3月7日に発売された、野球太郎シリーズのニューフェイス、『野球太郎育児Vol.1』。コンセプトは「わが子を野球でたくましく育てたいと願う保護者に贈る球育本」。発売後、少年野球の指導者時代に知り合った方々からも「野球育児、あれ面白いねー!」といった声が届くのは嬉しい限りだ。

 特に親コーチ経験者たちからの反応が大きかったのが、「指導者が本音激白『こんな親は嫌われる!』ベテランから若手まで5名の指導者が集結して激論を展開」というタイトルがついた少年野球指導者覆面座談会。

 5名の指導者のうち、4名が親コーチ経験者ということもあり、「こんな保護者はイヤだ」というテーマに対する座談会の盛り上がり方が、現場を知る者にとってはあまりにもリアル。熱い指導者が5名集まっての座談会だけあり、保護者の話から脱線し、お互いの指導論の話に及ぶこともしばしばあるのだが、それがまた親コーチ読者勢にとっては面白いらしい。

●カウント3-0からは打たすべき?

 先日、同時期に親コーチとして、少年野球の指導者を務めていたSさんとお酒を飲みにいった。Sさんはビールジョッキ片手に「あの、『カウント3-0(スリーボール)から打たせるべきか否か』っていう激論、面白かったですねぇ」と切り出した。

 座談会に登場するベテラン指導者Aさんと中堅指導者Dさん間で熱い激論が繰り広げられる展開が座談会中にしばしば訪れるのだが、「カウント3-0から打たせるか問題」も両者の間で勃発。

「うちの6年生チームはカウント3-2でも『待て』のサインが出るくらい勝負に徹底したチーム。僕は低学年ではまだ早いと思うので、振らせます」とDさんが言えば、Aさんが「低学年といえども、3-0は振っちゃダメでしょう。俺は絶対に振らせない。『待て』のサインを出す。それが野球のセオリーだからね」と応戦。

 そこからの両者のやり取りをまとめてみる。

D「3-0からの甘いボールじゃないと打てない子がいる。成功体験をさせてあげたいから、僕は振らせたい」
A「じゃあ、その状況で空振りしたら?」
D「それはダメ」
A「そんなの難しいよ。4年生くらいだとストライクゾーンの見極めができない子が多いんだから」
D「『バットに当てられそうなボールは振れ』と教えている」

A「ピッチャーゴロでアウトになってもいいの?」
D「いいです」
A「俺は絶対にダメ」
D「6年生チームが伸び伸びとプレーできていないので、自分が現在担当している低学年の子らには自由に打たせたい」

A「じゃあ自分がトップチームの監督になったら?」
D「振らせません」
A「それはおかしい。チームが一本化されていないもん」

 このやりとりが掲載された囲み記事を読み終わったSさんは「こんなテーマを1つとっても、いろんな考え方があるんだなぁ、としみじみ思った」という。


●筆者が所属していたチームの場合

「服部さん、そういう意味でいくと、僕らが所属していたチームも、ほかのチームから変わってるなと思われたかもしれませんね」
「そうかもなぁ」

 私とSさんが親コーチとして7年間お世話になったチームは3-0から打たすか否か、という問題の前に、そもそも「待て」のサインが存在しなかった。

「でも、待てのサインがなくなったのって、服部さんがヘッドコーチになってからですよね?」
「そうだった。そう言えば、おれがなくしたんだった」
「最初は一部の人にいろいろ言われたって言ってましたよね」

「言われた、言われた。『そんなことしたらボール球に手を出す子が増えて、その分、チームのフォアボールも減って、勝てる試合も勝てなくなる』ってね。でも、『〜〜するな!』っていう縛りサインはどうしても作りたくなくて。待つべきかどうかは子どもとはいえ、選手たち自身に判断させたかったんだよなぁ。時には大人から見たら『なんで!?』ということがあったとしても、試合や状況を子どもなりにきちんと自分で考えられる選手が育つ少年野球チームにしたくて」

「でも、ぼくがチームに入った時には、『きっちりと甘い球を仕留められる選手に育て上げる土壌は少年野球から!』という空気がチームの指導者たちの大半にありましたよ」

 野球ライターとして、取材を重ねるごとに強くなっていったのは「野球はレベルが上がれば上がるほど、バッターにとっては甘い球がこなくなる。上のレベルで一流と二流の差を大きくわけるのは甘い球をきちんと仕留められる能力が備わっているか、否か」という思い。

 取材の場においても、高いレベルでプレー、指導している人ほど「甘い球に手が出なかったり、ファウルにしてしまう選手は上に行けばいくほど結果が出なくなる。少年野球の頃から『これは打てる!』と思えるボールにどんどんバットを出していける環境にいる子の方が当然、好球必打の能力は備わっていく。子どもの頃は『甘い球は1球たりとも目の前を通過させない! 全部振っていけいけ!』くらいの環境でプレーできることがいいバッターを生む源になる」と力説する。

 しかし、待てのサインを作ってしまうと、甘い球が選手たちの目の前を通過する状況を増やすことにつながってしまう。「さっきのあの甘い球ならヒットにできたのに、監督が待てのサインを出したから見送らざるを得なかった。結局追い込まれて、厳しいボールに手を出さざるを得なくなったて凡退した」。そんな言い訳を選手に与える余地を1ミリたりとも与えたくないという思いもあった。

●カウント3-0における決め事とは

 しかし、カウント3-0からの方針をどうするかについては私も悩んだ。低学年を担当していた頃は、そのカウントにおいても、制約なしでどんどん打たせていたのだが、その状況で手を出し、凡打に終わると、低学年の試合であっても、試合の流れが相手チームにどんどん傾いてしまうことを肌で痛感した。カウント3-0に限っては、手を出して凡打に終わることのリスクも含めて指導するべきなのかなという思いがどんどん強くなっていった。

 とはいえ、待てのサインは意地でも作りたくない。カウント3-0からでも打っていい、という自由を選手から完全に消し去ることなく、むやみに3-0から手を出す選手を生まないようにするにはどうしたらいいか。

 悩んだ挙句、最終的には「『3-0から打ってもいいよ!』というサインは作るから、その時は思い切り振っていけばいい。凡打しても全然オッケー。仮に打っていいのサインが出ていなくても3-0から手を出すのは自由。でも、そのときは二塁打以上の結果を残すこと。シングルヒット以下ならどんな主力選手でも即交代」という決め事を作った。Sさんが続けた。

「『少年野球の場合、3-0からフォアボールになる確率は相当高い。相手投手の球数を減らしてまで打ちにいってるんだからフォアボールと同じシングルヒットなら割に合わない』というのがその決め事の根拠でしたよね。チームに入って初めてその決め事聞いたとき、びっくりした記憶がありますよ」

「まぁ、強引な屁理屈みたいな感じになっちゃうんだけどね…」

「このボールは絶対に二塁打以上にする自信があるなら、わざわざ見逃さず、振っていいぞ、という理屈になるわけですけど、子どもらにしてもなかなか勇気入りますよね。実際、この条件下で3-0から手を出した子ってどれくらいいたんですか」

「結局2人だけだったね」
「たった2人ですか……。いや、2人も、というふうに言ったほうがいいのかな」

 一人はN君。見事にエンタイトル二塁打を放った。ベンチに戻ってきたNくんに心の内を取材したところ「この球なら絶対にホームランにできると思って振りました。あんな球をむざむざ見送るのはいやだなと。それでも勇気は要りましたよ〜、二塁打になってよかった〜! 代えられるのは嫌ですもん!」との回答。

 そんなNくんは現在高校1年生。思い切りのいい打撃を買われ、強豪校のレギュラーをつかみかけている。

 もう一人は、なんとうちの長男。5年生時のとある練習試合で3-0から手を出し、セカンドゴロ。長男をベンチにひっこめるべく、交代を球審に告げた後、長男に「二塁打以上が打てると思ったから振ったんだろ? その勇気は買う。でも仕留められなかったから約束は約束な。次は仕留められるように練習しろ」と伝えたところ、あまりにも意外すぎる言葉が長男から返ってきた。

「その決め事、うっかり忘れてた……」

 ベンチにいた全員が吉本新喜劇のようにずっこけたのは言うまでもない。


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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