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外野フェンスといえば佐野仙好(元阪神)。ファイト溢れる命がけのプレーが後世に伝えたものとは

外野フェンスといえば佐野仙好(元阪神)。ファイト溢れる命がけのプレーが後世に伝えたものとは

 まるで神隠しにでもあったかのように、福留孝介がボールの行方を捜していた。

 6月23日、広島対阪神(マツダスタジアム)の1回裏、1番・田中広輔がレフトに放った打球は、そのままラバーフェンスの破れたところに飛び込み、ボールが消えた!? と、見ている者を驚かせた。

 これまでのプロ野球の長い歴史のなかで、この外野フェンスは様々なトリックを仕掛け、私たちの目を欺いてきた。

 この打球を放った田中も2015年9月12日の対阪神戦(甲子園)で、本塁打をフェンス直撃のインプレーとして誤審され、フェンスのトリックに欺かれた一人だ。

 トリックではないが、外野フェンスにまつわる話となると、忘れてはならない一人の外野手が阪神にいる。

 佐野仙好。

 元阪神の外野手で、現在は阪神の統括スカウトを務めている。1985年の日本一に貢献した虎戦士の一人だ。

頭蓋骨陥没骨折に至るファイト溢れるプレー


 1977年4月29日、川崎球場で行われた阪神対大洋(現DeNA)の一戦で歴史に残る大事故が起こった。

 阪神が7対6と1点リードで迎えた9回裏、1死一塁の場面で左翼を守っていた佐野は打球を追い、コンクリート製のフェンスへ向かってダイビング。飛び込んだ勢いのままに、頭からフェンスに激突したのだ。

 ボールはグラブに収まっていたが、中堅・池辺巌は佐野の様子が尋常ではないと判断、インプレー中にも関わらず、ベンチに向かって盛んに手招きを繰り返した。

 このとき、一塁走者がタッチアップ。捕手・田淵幸一が「ボールを返してこい!」と盛んに池辺に指示するも、池辺は「野球どころではない」と言わんばかりに、ぴったりと佐野に寄り添っていた。それが事の深刻さを物語っていた。

 この後、救急車がグラウンド内まで入り、佐野を乗せて場外に運び出す模様は、テレビで生中継されていた。野球ファンにとってショッキングなシーンとして記憶されている。

 佐野は頭蓋骨陥没骨折。この事故をきっかけに、選手の身を守るために、球場のフェンスにラバーを張ることが義務づけられることになる。

 佐野が重症のリスクを負ってまで、ファイト溢れるプレーでフェンスに飛び込んだことが、後世の選手たちの安全を確保したことを思うと、少しは救われた気持ちになるといえなくもない。

佐野と掛布の熾烈なレギュラー争い


 佐野は1973年のドラフト1位で中央大から阪神に入団、同年のドラフト6位で入団した掛布雅之(現阪神2軍監督)と熾烈なレギュラー争いをしたことは、多くのオールドファンが知るところだろう。

 1975年、吉田義男監督は守備では三塁で佐野と掛布で競わせ、打撃では8番という気負いなく打てる打順で勝負させた。相手投手が左のときは佐野、右のときは掛布を先発で使い分けたのだ。

 当時、甲子園球場のレフトスタンド後方付近の道路沿いには、球団の独身寮「虎風荘」が建っていた。佐野も掛布も入団時から入寮。誰よりも早く球場入りし、練習の虫となった。

 筆者がまだ子どもの頃の話だが、虎風荘から球場入りする佐野にサインをお願いしたところ快く応じてくれた。しかし、試合前の緊張した顔つきからは、戦場に向かう戦士の闘争心のようなものがうかがえ、掛布とのポジション争いに取り組む必死さが、ひしひしと伝わってきた覚えがある。

 佐野は後に、三塁は掛布に譲り渡したものの左翼手として活躍。1985年、2度目の就任となった吉田監督の下、かつてのライバル・掛布とともに日本一に輝いた。


死にもの狂いでポジションを奪うという意欲


 現在の阪神のポジション争いも熾烈だ。特に、遊撃では若い2人がしのぎを削っている。

 奇しくも、相手投手が右のときはルーキーの糸原健斗が先発を務め、左のときは、昨シーズン、1軍で頭角を現した北條史也が守備に就く機会も多い。佐野と掛布との関係性に似ている。

 しかし、1975年に佐野と掛布が見せた「死にもの狂いでポジションを奪う」姿勢は、哀しいかな、糸原と北條のベンチの様子からはまだうかがえない。

 三塁というポジションを争い敗れても、左翼というポジションが佐野を迎え入れてくれた。これはいかに高いレベルで掛布との競争が行われていたかを示すものだろう。

 糸原、北條はともに潜在能力の高い選手だ。これからの「死にもの狂いでポジションを奪う」という意欲が、2人をともに成長させ、阪神を強くしていくのは間違いないのだが、果たして……。


  文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子どものころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。

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