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《2016年夏、福島をめぐる「最後の夏」のドキュメント》震災と福島とこの夏の高校球児たち


 野球は9回ツーアウトから。それどころか、ゲームセットになってからだって逆転することがある、と驚かされた岡山大会決勝、創志学園対玉野光南戦。玉野光南が1対0でリードして迎えた9回裏ツーアウトの場面、試合終了と思われた打球が判定変更でファウルとなり、再開後に創志学園が逆転勝利をおさめた。

 最後まで諦めない創志学園の執念が実った、ともいえるが、それにつけても気の毒なのが玉野光南ナイン。この敗戦をこれから先の人生になんとか生かしてほしいと願うばかりだ。

福島を離れても……「甲子園で会おう」


 玉野光南といえば、外野を守る岡部伶音選手にまつわる記事が朝日新聞で掲載され、話題を呼んだ。

《ライバルは福島の仲間、転校前「甲子園で会おう」》

 岡部選手は福島県南部の白河市出身。2011年3月11日、小学6年の卒業式間近に東日本大震災に襲われ、県外へ避難。中学からは岡山県で過ごすことになったという。

《転校直前、野球部のみんながグラウンドで開いてくれた「お別れ会」でのあいさつ。もう二度と会えないかも――。涙があふれた。他の部員も同じだった。一人ひとりの手を握って約束した。「甲子園で会おう」》(朝日新聞7月19日記事より)

 岡部選手が「福島に戻りたい」とくじけそうになったのは、一度だけではないという。だがその度に、かつての球友たちとの約束を思い出し、「福島の友だちに見せられるよう、うまくなりたい」と練習に打ち込み、背番号「9」のレギュラーの座を勝ち取ったのだ。

 阿部選手は、岡山代表を目指しながら、“福島代表”も目指してくれていたんだ、と思うと、少し胸が熱くなる。


休校・統合にとって「最後の夏」を迎えた学校


 あの震災から5年。福島県外に住んでいると、ともすると遠い過去のように感じてしまうことがある。だが、福島の人々にとって、そこで暮らすことは現在進行形中のリアルだ。もちろん、普通に暮らしている人も多いが、一方で、野球すらままならない、という状況に置かれている人も少なくない。

 実際、阿部選手のように他県へ転出する生徒の増加によって、福島では「少子化」がひとつの社会問題となっている。特に福島第一原発周辺の学校では部員不足が目立ち、学校の統廃合も進んでいる。

 今年の夏も、二つの高校が「最後の夏」を迎えた。ひとつは、かつて3度甲子園にも出場した双葉高校だ。

 福島第一原発から約3.5キロにある同校は来春休校することが決定。かつて50人を超えた部員は3年生2人だけ。この夏の福島大会には3校の連合チームで出場した。結果は初戦敗退。それでも、最後の勇姿を見ようと球場にかけつけた家族、OBたちを前にして、双葉の松本瑠二主将は「負けはしたんですけど、人生の中で、本当に宝物の思い出になった」と語った。

 そしてもうひとつが、今年の福島大会第8シードの小高工業高校だ。来年4月から小高商と統合して「小高産業技術」と校名が変わる小高工ナインは、球史に母校の名を刻みたい、とこの夏の戦いに挑んだ。

 順調に勝ち進んだ小高工は準々決勝に進出。ベスト4をかけ、迎えた相手は福島が誇る王者・聖光学院。試合は中盤まで1点差の接戦を演じながら、最後に力尽き、2対6で敗戦。小高工野球部の最後の夏が終わった。

彼の地でつながる「PL野球のDNA」


 「最後の夏」を懸命に戦った福島の球児たち。一方で、福島で新たな歴史をつないでいく、という事例もある。聖光学院とともに県を代表する強豪校、日大東北の中村猛安監督だ。

 中村猛安監督はPL学園出身。名門・PL野球部で2年秋から二塁のレギュラーを務めた人物だ。そして、父はあの中村順司氏。PL学園で甲子園通算58勝、優勝6回を成し遂げた、いわずと知れた名将だ。

 そんなPL学園が今年、「最後の夏」を迎えたのはご存じの通り。だが、父から、そして自分自身が門を叩いて学んだPL野球のエッセンスを、今、福島で花開かせようとしている。毎年、夏の大会前には順司氏も激励に訪れるという。DNAは、遠く離れた福島で脈々と受け継がれているのだ。

 福島の高校野球、といえば、聖光学院が今年、大会10連覇を達成したことがニュースとなった。そのなかには「一校独占は教育上よくない」「聖光ひとり勝ちでは県の野球のレベルが落ちる一方」といった論調も少なからずあった。だが、実情は決してそうではない。

 福島大会の決勝戦は、毎年1点差、しかも最終回での逆転劇や延長戦の末にようやく聖光学院が勝利、という展開ばかり。今年の夏の決勝・聖光学院対光南戦もまた1点差。終盤8回裏に聖光学院がようやく逆転しての勝利だった。福島は、決して聖光学院の一校独占ではない。

 そして、そんな聖光学院と、昨年まで3年連続で決勝戦で対戦し、1点差で涙を飲み続けたのが日大東北であり、中村猛安監督なのだ。今年の夏は準決勝で聖光学院に敗退。だが、日大東北にとっても、中村猛安監督にとっても、「夏」はまだこれからも続く。

 そうなのだ。球児たちにとっては「最後の夏」であっても、その姿を見た後輩、観客が語り継いでいくことで、球児たちの物語はこれから先も続いていく。それこそが高校野球100年の歴史で紡いできた価値であり、野球のすばらしさなのではないだろうか。


文=オグマナオト

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