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第2回『おおきく振りかぶって』『タッチ』『クロカン』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレイや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!



《意味》
対角線への投球や、内角から外角、変化球から直球への切り換えといった、打者に有効な配球は、投げる側にも卓越した技術が求められるため、コントロールミスが起こりやすい。

《寸評》
理想の配球≠ヘ、もろ刃の剣。キレイに打ち取ろうとするあまり、カウントを悪くするケースも多い。「配球は結局、ライブ」(※1)とは通算222勝を誇る工藤公康氏の言葉だが、味方投手の制球力と相手打者のミート力によっては、シンプルに組み立てたほうが有利な場合もある。
※1 『47番の投球術』(工藤公康/ベスト新書)より


《作品》
『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ/講談社)第2巻より

《解説》
西浦高と三星学園の練習試合。内外角を交互にえぐってくる西浦高の投手・三橋廉のピッチングに対し、「いいカンジに荒れとるだけやろ」とタカをくくっていた三星学園の四番・織田裕行。しかし、三橋と中学時代にチームメイトだった叶修悟から、彼が「思った通りの球種とコースを1試合通して投げられる」投手であることを明かされる。
「夢みたいなこと言うなや!(中略)そら対角線で放れたら理想やけど 打者の打ちづらい組み立ては 投手かて投げにくいんや」
驚きを隠せない織田だったが、三橋の投げるボールは確かに厳しいコースを的確に突いてくるのだった。




《意味》
ランナーの足が速いか遅いかについては、相手チームもよく理解している。たとえ俊足でも警戒されれば盗塁は難しく、鈍足でも無警戒であればセーフになる可能性は高い。結果、どちらのリスクも似たようなものではないか。

《寸評》
孫子曰く、「其の無備を攻め、其の不意に出ず。此れ兵家の勢」(=相手の無防備なところを攻め、不意を突く。これこそが兵法における「勢」である)。無事に盗塁を成功した場合、無警戒だった分、鈍足ランナーのほうが俊足ランナーよりも、相手に与えるダメージは大きい。確率が似たようなものなら、チャレンジしてみる価値はありそう。


《作品》
『タッチ』(あだち充/小学館)第24巻より

《解説》
明青学園と須見工による地区予選決勝。甲子園出場をかけた戦いは、1点差のまま9回表に突入する。
追いかける明青学園は、二死から七番・長尾光記がレフト前ヒット。この場面で、柏葉英二郎監督は、初球スチールのサインを指示する。
「で、でも、長尾の足はどっちかというと……」
言い淀むキャプテンの松平孝太郎に、柏葉が告げる。
「そんなことは おれたちより 須見工のほうがよくしってるさ 警戒された俊足ランナーと 無警戒の鈍足ランナー。確率としては似たようなもんだろ」
かくしてチームの運命を託された一塁ランナーの長尾。しかし、いきなりスタートが遅れてしまい……。



《意味》
ランナーが溜まった時点での投手交代は、失敗する確率が高い(特に、高校生はそのプレッシャーに耐えられない)。替えるときはイニングの始めからにしたほうがいい。

《寸評》
アマチュア野球における継投は難しい。2005年夏〜2007年春の甲子園では、1人で完投したときの勝率が64.1%だったのに対し、2人では43.6%、3人では30.4%、4人では12.5%……と、継投すればするほど下がっていったというデータも存在している(※2)。投手を替える際は、なるべく万全な体制を用意しておきたい。
※2 『甲子園戦法 セオリーのウソとホント』(川村卓、中村計/朝日新聞社)より


《作品》
『クロカン』(三田紀房/日本文芸社)第18巻より

《解説》
たった16人の部員で、2年連続の甲子園出場を目指す鷲ノ森高。準々決勝の花岡商戦でも苦しい展開を強いられる。
5回表の攻撃を終了した時点で、鷲ノ森高は1点のビハインド。クロカン≠アと黒木竜次監督は、先発の小鹿養太郎を早々と諦め、5回裏のマウンドに二番手の久賀稔彦を送る。
「替える時は 回の始めが俺の鉄則!」
己の信念を貫き通す黒木に応え、久賀は相手の攻撃をピシャリ。ガッツポーズでベンチへ戻ってくる。
「ズバリ的中の黒木采配! してやったりの表情!」
アナウンサーの声が響く中、勝負は後半戦へと、もつれこんでいくのだった。


文=ツクイヨシヒサ/野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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