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藤川球児加入によって考えさせられた独立リーグの意義――我々の根本は選手の育成です

【この記事の読みどころ】
・独立リーグ球界は「元プロ」たちによって支えられている面もある
・現役バリバリの藤川球児の入団は功罪両面があった
・独立リーグはあくまでも、選手育成が根本である


☆「元プロ」が席巻している独立リーグ球界

 プロ野球はポストシーズンに入り、いよいよ文字通りクライマックスを迎えているが、独立リーグでも、今年の覇者を決めるチャンピオンシップが行われ、四国アイランドリーグplusの王者・愛媛マンダリンパイレーツが、ルートインBCリーグの覇者・新潟アルビレックスを下して悲願の独立リーグ日本一の栄冠を手にした。

 両者が雌雄を決した第5戦の愛媛の先発は小林憲幸。彼は2007年から2シーズン、ロッテに在籍していた元NPB組だ。愛媛投手陣には、彼のほかにも、正田樹(元日本ハムほか)、河原純一(元巨人ほか)、フェルナンデス(元ヤクルト)、ゲレロ(元広島)らNPBを経験したベテランがそろっていた。彼らの存在なしに、愛媛の「日本一」はあり得なかっただろう。

 実際、元NPBやNPBからの派遣選手がマウンドに立った試合は、決まって締まった投手戦になる。率直に言えば、「プロ未満」の投手が投げる試合とは質が違う。

 独立リーグの第一目的は育成とはいえ、やはり興業という一面を考えると、プレーレベルを引き上げ、それなりにネームバリューのあるNPB経験者の存在は、今や欠かせないものとなっている。特に今年は、BCリーグにフリオ・フランコ(石川ミリオンスターズ兼任監督)、タフィー・ローズ(富山GRNサンダーバーズ兼任コーチ)といった“レジェンド”が入団し、ファンの注目を集めた。



☆藤川球児入団による大きな影響力

 しかし、なんと言っても、今年の独立リーグ界最大のビッグニュースは、藤川球児の高知ファイティングドッグス入団だった。なにしろ、すでに引退して数年経ち、半ば余生を楽しんでいるフランコやローズと違い、リリースされたとは言え、今シーズン序盤には、世界最高峰の舞台に立っていたバリバリの「メジャーリーガー」が、突如としてやってきたのだから。

 「年俸ゼロ」の大物は、田舎球団にときならぬフィーバーを巻き起こした。本来入場無料のオープン戦を有料試合に変えただけでなく、彼の「デビュー戦」は、本拠地・高知市営球場を大入りに仕立てあげた。急遽、発注した関連グッズは飛ぶように売れ、今年の球団の収支は黒字の見込みとなった。

 選手にとっても、「本物」とのプレーは貴重な経験となった。

「日本のスーパースターだってことは知ってました」

 というのは、アフリカからやってきたサンホ・ラシーナだ。「プロ野球選手」という夢を叶えるために、ブルキナファソからやってきたこの少年にも、元メジャーリーガーは特別な存在だった。

「キャッチボールまではできませんでしたけど、お話を少しさせていただきました。とても優しい人です」

 シーズン終了間際の8月末に、ようやく念願かなって選手契約を結んだ彼だが、実は藤川が、高知初登場となったオープン戦で、彼も「実戦デビュー」を飾っている。サードの守備に入った彼は、緊張からか、エラーをしでかしてしまったが、さすがにこの時は、マウンドにいるレジェンドには、怖くて詫びをいれることもできなかったそうだ。

 内野のリーダーである西本泰承も、藤川と共有できた時間は貴重だったという。

「確かにチームはいい方向にいきましたね。有名な選手と一緒にできて、やっぱり雰囲気は締まりましたよ。それに、球児さんは近づきがたいっていう感じではありませんでした。優しかったですよ」



☆「我々の根本は選手の育成です」

 しかし、その一方で、「大物」の存在だけで、チームが大きく変わることはないと、日米でプレー経験をもつ、この独立リーグのベテランは冷静に分析する。実際、高知ファイティングドッグスは、藤川が加入した後の後期シーズンも最下位に沈んでいる。選手の意識が多少変わったところで、短期間でチーム力がアップするわけではないのだ。

 高知球団もそのあたりは自覚していて、梶田球団社長は今後も戦力補強に元NPB選手を獲得することはあっても、そこに軸を置くことはないという。リーグとしても、故障など何らかの理由でNPBやメジャーを退団になった選手の受け入れは、「トランジション」、つまり次の移籍への一時的な在籍ととらえ、あくまで、選手の上位リーグへの人材供給がリーグの存在意義であるという姿勢は崩さない。

 確かに、彼らが入団する効果はグランド内外にある。しかし、実際はそれだけで大幅に観客が増えるわけでもない。高知の場合も、最初は藤川の名でスタンドは満員になったものの、その後は下降線をたどっている。そのあたりは、梶田球団社長も十分にわかっているようで、

「我々の根本は選手の育成です」

 と今後もビッグネームに頼るような球団経営はしないことを明言している。

 そもそも、彼ら「元プロ」たちも、多くはすでに上位リーグを「お払い箱」になった者である。その彼らを乗り越えねば、独立リーガーが目指す「プロ」は見えてこないはずだ。意識が変わると言うだけなく、来季はそういう「元プロ」のベテランたちをものともしないようなプレーを、若い独立リーガーには期待したい。


文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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