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【2013高校野球ジャーナル】2013年の高校野球は本塁打量産!その理由はまさか…!?甲子園の本塁打のメカニズムに迫る!

文=鈴木雷人

 今月8日に開幕した第95回全国高校野球選手権大会。
 今年は乱れている。ホームランが乱れ飛んでいるのだ。大会第3日には1日に計4本塁打が飛び出すなど、大会第4日の11日まで合計15試合でなんと19本もの本塁打が乱れ飛んでいる。大会記録は2006年の第88回大会の60本。現在のペースで本塁打が量産されると、全48試合終了時には約70本を超える計算になり、今までの記録を大幅に上回ることになるのだ。

 さらに、止まるところを知らない今大会の本塁打量産は、多くのメモリアルアーチも生み出している。8月9日の第1試合・聖光学院vs愛工大名電で代打本塁打を放った酒谷遼選手(聖光学院)の一発は、戦後に行われた夏の甲子園通算1300号のメモリアルアーチ。翌10日の第1試合・星稜vs鳴門で松本高徳選手(鳴門)が放った本塁打は夏の甲子園通算1400号、北村拓己(星稜)の一発は春夏通算で「金属バット1700号」となった。


▲酒谷遼(聖光学院)
 本塁打量産といえば、記憶に新しいのはNPBの“飛ぶボール”問題。加藤良三コミッショナーの進退問題にも話は発展したが、今夏の甲子園大会でも本塁打が量産されている現象をみると「ひょっとして高校野球でも…」といった疑念もわいてくる。そこで今回の高校野球ジャーナルでは今夏の甲子園本塁打量産問題を取り上げ、その要因とされるボールと金属バット、そして浜風にクローズアップしてみた。今夏の本塁打量産の秘密とは…。

ホントに飛ぶボールなのか!? 大会使用球に迫る


 高野連関係者は「ボールは変えていません。高野連で審判立ち会いのもと、検査したボールを使用しています」とコメントしている。甲子園で使用される試合球165ダース(1980球)は7月5日に大阪市内で検査したといい、15人の審判員が立ち会いの下、重量・大きさ・弾み具合を確認したそうだ。ちなみに検査方法だが、4メートルの高さから50センチ四方の大理石の板にボールを落とし、弾んだ高さが規定範囲に収まっているかどうかをチェックするとのこと。弾みすぎるボールはここで除かれるので、“飛ぶボール”は存在しないはずだ。

 さらには甲子園大会では全て新球を使用する。おろしたての“ニューボール”は一度使用したボールに比べると比較的、飛びやすいといわれている。

甲子園にこだまする金属音! 金属バットに迫る


 プロ野球の使用する球場で、高校生が本塁打を放つのは“金属バット”の存在も無視できない。現在は当たり前のように使用されている金属バットだが、その歴史は約40年前に遡る。

 1974(昭和49)年、オイルショックに伴う木製バット資材の価格高騰が起きた。全国の野球部の維持費を軽減させるために、高野連は金属バットの導入を許可。木製に比べて耐久性が高く、1本を長く使えるのがその理由だった。しかし反発力の高い金属バットは打球を遠くに飛ばし、速い打球を生み出せるようになったことで、いわゆる“打高投低”の環境を作り出した。

 さらにウエートトレーニングの導入、進化によりパワフルな肉体の球児が増え、また長打、本塁打が増えた。そして、打撃力がある高校が甲子園を席巻したことで、追随する高校が増え…、という循環の結果、高校野球の質が変わってしまった感は否めない。

 その後は日常的な練習の場である高校の周辺環境に配慮して、金属音を消した「消音バット」の使用を義務化し、さらには軽すぎるバットが規制されるようになった(重いバットを使いこなすには、筋力が必要になるので、さらにウエートトレーニングが定着)。金属バットには色にも細かい規則があり「金属の地金もしくは木製の色に近いこと」「グリップテープは黒、もしくは茶色」と定められている。

今日も吹いている…甲子園名物の浜風に迫る


 そして最後は甲子園球場に吹く名物の“浜風”について。今大会でも目立つのはレフトのポール際に高く打ち上げた打球が“浜風”に乗って、フラフラッとスタンドまで届いてしまうシーン。この風は甲子園球場独特のモノだ。

 この“浜風”は日中に甲子園のライトからレフト方向に吹く風で、時には10メートル前後を計測するなど、打球に与える影響は大きい。この風の要因は瀬戸内海(海や浜)がライト側にあり、丹波山地や中国山地がレフト側にあるからであり、海や浜から吹いてくるので“浜風”と呼ばれているのだ。真夏の日中に行われる高校野球は、この“浜風”が常に吹いているような環境の下で開催されている。


▲写真自体は昨年のものだが、旗のなびき方でレフトに向かって、強めの風が吹いているのがわかるだろう

 この“浜風”により、レフト側に飛んだ打球はその飛距離を伸ばすのに十分な威力を発揮し、ライト側に飛んだ打球についてはその勢いを殺している。甲子園の本塁打はライトよりもレフトに入るのが多いイメージがあるのも、風の力が原因と見られている。

 ちなみに阪神タイガースの応援歌にも出てくる“六甲おろし”だが、これは“浜風”とは全く別のモノ。甲子園球場からみて北にある六甲山から冬の時期に吹き下ろす冷たい風が“六甲おろし”で野球の季節に吹いてくることはそれほどない。

 結論からいうと、特別な事情が発生しているわけではないので、今のところは各打者がパワーアップし、技術的にも飛躍したことが要因だと言わざるを得ない。しかしながら気になるデータもある。

過去10年の夏の甲子園大会本塁打数

・2002:43本
・2003:13本
・2004:33本
・2005:32本
・2006:60本【現在までの最多記録の年】
・2007:24本
・2008:49本
・2009:35本
・2010:26本
・2011:27本
・2012:56本

 3年で必ず引退となる高校野球は選手の入れ替えが激しいので、このような差が出る可能性は十分あるが、その裏でボールによる影響が実はあったのでは? とも考えられないことではない…。

 気になる大会本部は、本塁打が量産されていることについて「良いとか悪いとか判断する立場にない」と話すにとどめている。果たして大会終了時には何本のホームランが生まれているのか? そしてボールの真意は? 興味は尽きない。

■プロフィール
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

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