週刊野球太郎
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第五回:打ちにくい真っすぐとは

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.com
まで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。開催の詳細をお知らせいたします)


◎球速は絶対じゃない?

キビタ:ここまでは変化球の話がメインでしたが、今回はピッチングの基本である真っすぐに立ち返りたいと思います。

久保:ひと昔前は「高校生で140キロなんて凄い!」と言われていたのが、今はどの県にも140キロを出す高校生がいます。

キビタ:でも野球経験者の誰もが言うように、スピードがすべてではありません。150キロが出ているのに打たれたり、逆に140キロに満たない真っすぐでも打たれなかったり、というのはよくあることです。

久保:今回は、スピードガンだけでは測れない「真っすぐの質」についてお話しします。


◎ボールの重い、軽いとは?

キビタ:野球では「このピッチャーは球質が軽い」もしくは「重い」といった表現をよく使います。

久保:球質の軽いタイプは当たると飛ぶので、被本塁打も多くなります。年間通して戦うプロ野球では、データでなんとなくわかりますが、初めて見るアマチュアの選手のボールが重いか軽いかは、なかなかわかりません。

キビタ:それでも大雑把な見分け方はあります。昔から言われている「体重の重いピッチャーの球は重い」というのは、あながち間違いではありません。

久保:体重と球質は必ずしも比例するとは限らないと思うのですが…。

キビタ:ボールに体重を乗せるから重くなるといった単純な理屈ではありません。細い(=軽い)ピッチャーには腕をしならせてボールに回転をかけるタイプが多いので、バットに当たったときには遠くに飛ばされることが多くなります。体ががっしりしている(=重い)ピッチャーはあまりしなやかに体を使えないため、ボールの回転数が多くなりません。その代わりバットに当たってもそんなに飛ばされません。

久保:投球フォームとボールの回転数が関係しているんですね。回転数で思い出したんですけど、関東学院大には野口翔麻投手という左のエースがいます。彼は身長が160センチ台、球速も120キロ台で、フォームも決してきれいとは言えません。パッと見はごく普通の左投手です。それでもボールの回転数を測定したらチームで一番だそうです。他に速いピッチャーはたくさんいるけど、回転数は野口投手がダントツ。実際に試合になると、なかなか打たれません。



キビタ:回転数の多い真っすぐと言えば藤川球児投手(カブス)のような快速球をイメージしがちですけど、必ずしも球速と回転数が比例するとは限りません。しかも球質の重い、軽いや回転数は、実際のところまだ解明されていない部分も多いと言われていますから…。

久保:野口投手に回転数が多くなった理由を聞いても「なぜだかわかりません」とのことでした(笑)。


横浜高伝統の「ボディターン」


キビタ:投球フォームの話が出てきましたが、好投手と呼ばれる投手の多くは、ボディターンが上手です。グラブ側の肩を開かないまま踏み込んできて、体をクルッと回転させるから、ボールの出所がわかりにくいですね。

久保:写真で見ればよくわかると思いますが、いいピッチャーは胸を相手に正対させません。左右の胸がずれて、正面から見ると体の幅が狭く見えます。

キビタ:「体の幅が狭い」というのは、横浜高校伝統の教え方「電話ボックスの中で投げろ」に通じます。OBの成瀬善久投手(ロッテ)、涌井秀章投手(西武)は狭い幅で投げるフォームを身につけているから、球速表示以上に打ちにくいと言えます。

久保:涌井投手のボディターンは一塁牽制にも活かされています。右投手の場合、一塁牽制の巧さが、いいピッチャーかどうかのひとつの指標になるでしょう。でも、たまに「一塁牽制のターンはいいのに、ピッチングだとイマイチ」という人がいます。

キビタ:そういうピッチャーはステップの幅を狭くしたらいいと思います。ステップを狭くすれば、軸で回りやすくなります。

久保:踏み出した足も打ちにくさに関係してきます。ロッテのルーキー・川満寛弥投手は、踏み出した前の足が地面に着きそうでなかなか着きません。そのコンマ何秒かの間があるから、バッターからするとタイミングを取りにくい。球速は140キロ前後でも、バッターの反応が遅れます。

キビタ:流しのブルペンキャッチャー・安倍昌彦さんも、この地面スレスレの踏み出しを絶賛していましたね。

久保:ただ、この踏み出しを意識しすぎると、人によってはフォームを崩してしまう恐れがあるんですよ。某大学にいたピッチャーなんですけど、スパイクの裏で地面をなめるようなステップを意識したら、腕を上げるタイミングと合わなくなって、テークバックがカクカクになってしまいました。

キビタ和田毅投手(オリオールズ)が出てきた当初も、テークバックを隠そうとする左投手が増えました。でも、隠すことばかり意識していると、全体の躍動感が失われます。全身で連動しながら、結果として手許が隠れているのか、手許を隠そうとして腕だけで操作しているのか、このあたりもピッチャーを見分けるうえでの要素になってきます。

◎ピッチャーの「球持ち」を判断するには…?

キビタ:リリースポイントも重要です。前で離せているかどうか、極端に言えば鼻の先でリリースするような投げ方であれば、バッターを詰まらせることができます。

久保:いわゆる「球持ち」の話にもつながってきますね。ボールを長く持てるピッチャーほど、相手のタイミングを外せます。

キビタ:これは先ほどの成瀬投手、涌井投手の話にも関連してきます。リリースポイントがピッチャーの体から離れていると、投球フォームも相手と正対したような形になります。リリースポイントを体の近く、それこそ鼻の前ぐらいに持ってくるには、腕のしなりと鋭いボディターンが必要です。

久保:「下半身の送り」も忘れてはいけません。「骨盤が入る」、「ヒザを送る」、「前に乗る」など色んな表現がありますけど…。

キビタ:ブランコを漕ぐような感じで骨盤が前に入ると、ヒザも前に送られて、リリースポイントも前になります。特にアンダースローは、このヒザの送りが生命線。本物のアンダースローかどうかを見分ける、一番のポイントです。



久保:横から写真を撮ると、この動きはよくわかります。体重が前に乗ってこないピッチャーは、連続写真を撮っても、ファインダーからはみ出ません。これが俗に言う「野手投げ」です。ところが体重が乗ってくるピッチャーの場合は、リリースポイントも前になるから、途中でファインダーからはみ出てしまいます。いつもよりも少し引いて撮らないと、全体が収まりません。

キビタ:カメラがない場合は、フェンスや柱を利用してもいいでしょう。並のピッチャーなら問題なく見られるのに、前に乗ってくるピッチャーだと柱とかぶって見えにくくなったり、といった違いが出てきます。

久保:慶應義塾大の白村明弘投手は、慶應義塾高時代から骨盤を前に入る動きが評価されていました。昨秋の明治神宮大会でノーヒットノーランを達成した富士大・多和田真三郎投手も骨盤を前にクイッと送れます。オーバースローなんだけど、下半身はアンダースローみたいな投げ方です。


キビタ:「前に送る」投げ方は日本人向きの投球フォーム。メジャーリーガーには前足をドスンと踏み出すタイプが多いですね。前に送るタイプは柔らかいマウンドが合うと言われています。メジャーリーガーのようなタイプは硬いマウンドを好む傾向があります。

久保:球速表示以外にも見るべきところはたくさんありますね。昔から言われているように「ピッチングの基本はストレート」。真っすぐのよさを味わえるようになると、野球観戦がもっと楽しくなります。

■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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