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○番外編○帝京野球部あるある(こぼれ話)

 書籍『野球部あるある』(白夜書房)で「野球部本」の地平を切り拓いた菊地選手とクロマツテツロウが、「ありえない野球部」について迫る「野球部ないない」。
 前回で最終回を迎えた「東の横綱・帝京野球部あるある」。360°モンキーズ・杉浦双亮さんに聞いた、本編には載せきれなかった内容を集めて「番外編」としてお送りします!

「三澤興一」をネタにしない

 取材前、杉浦さんについての資料を漁っていると、1学年上に三澤興一(元・巨人ほか)がいることがわかった。同じ投手で、しかも帝京ではセンバツ優勝、早稲田でも大活躍、プロ入り後は主に中継ぎ投手として活躍。これだけのヒーローが身近にいたのに、杉浦さんが芸人としてあまりネタにしている感じがしない。それはいったいなぜなのか。
「三澤さんねぇ…。実はあんまり思い出がないんですよ。他の先輩は良くも悪くも、覚えてることがたくさんあるんですけど。三澤さんって優しいし、無口でおとなしいし、後輩ともあまり絡みがなかったんですよね…」
 とはいえ、甲子園の優勝投手なら、学校はおろか地域のヒーローだったのでは? そう聞くと、杉浦さんは苦笑いした。
「サッカー部に三澤さんと同期で松波正信さん(ガンバ大阪監督)がいましたからねぇ。もう松波さんはモテましたねぇ。女子高生が全国から集まってきてましたからね! それと比べてしまうと、周囲からは『野球部はモテない』って言われてました(笑)」

前田三夫がはしゃいだイベント

 鬼の前田三夫監督が1年間で最も人間味を感じさせたのが、合宿の「あるイベント」だったという。
「夏も冬も、夜に絶対『肝試し』があるんですよ。夏は歩いて往復1時間くらいかかる山の中に置かれたモノを取って帰らないといけないんです」
 その肝試しに行くのは1日1人。その1人をどうやって決めるかというと、前田監督がクジを引いて選ぶのだという。
「監督は結構、ノリノリでしたね。でもこっちは笑えないんですよ。山の中なんか、本当に真っ暗でしたからね」
 しかも、この肝試しは合宿期間中、毎日行われたというのだから、どれだけ前田監督が気に入っていたかがわかる。冬の肝試しには杉浦さんも選ばれたという。
「木にぶら下がったボールか何かを取りに行かなきゃならないんですけど、かつて首つり死体がみつかったと言われているようなところですよ? シルエット的に怖いんですよ! 真冬で寒いしね。まあでも、この世に怖いものなどないと度胸をつけさせようという、監督の狙いもあったのかもしれませんね」
 話を聞く限りでは、あまりそうは思えなかった。頭の中にノリノリで楽しんでいる、前田監督のチャーミングな姿が浮かんだ。

◎とんねるずを恨んだ?

「上下関係のPL、監督の帝京」
 東西の横綱的存在だった名門野球部の特色について、これ以上ない絶妙の形容をした杉浦さん。
 帝京野球部の上下関係は「サッカー部の先輩にも挨拶しないといけない」(第2回参照)という特徴があるにしても、杉浦さんが在籍していた当時はPL学園ほど凄惨な上下関係ではなかったらしい(PL学園の野球部については書籍『野球部あるある2』に詳しいのでご覧ください)。
 それでも、ある時期を境に帝京の上下関係が一気に厳しさを増したのだという。
「高校野球界で全体的に『セッキョー』(先輩による言語的及び身体的な説教のこと。大相撲で言う『かわいがり』)をやる風潮が冷めてきた頃だったと思うんです。でも、テレビでとんねるずさんが野球部のセッキョーのコントをやったんですよ。その日から、先輩のセッキョー熱が復活してしまって…。だから当時は『とんねるず、なにしてくれてんだ!』と思ってましたよ(笑)」

◎前田三夫への報復

「監督はね、学校にいるとき、野球部以外には優しいんですよ」
 校内で女子生徒と話している前田監督を見ると、不思議な感情が沸き上がったという。
「なんかデレデレしてるように見えて、そういう姿は見たくなかったですね」
 その言葉を聞いて、漫画『巨人の星』が頭に浮かんだ。主人公・星飛雄馬が威厳たっぷりの父親・一徹に遊園地へと連れて行かれたシーンだ。その日だけ妙に優しい一徹に「こんなのとうちゃんじゃない!」と憤る飛雄馬と杉浦さんの感情が重なって見えた。
 そのことを伝えると、杉浦さんは「うーん…」と苦笑いしながら、否定も肯定もしなかった。
 主力3選手以外、ほぼ学年ごと干されたという杉浦さんの代。当然のように前田監督を恨んでいる人間もいた。その中に監督に報復するという人はいなかったのかと聞くと、杉浦さんは首を縦に振った。
「監督、グラウンドにいつもチャリ(自転車)で来るんですよ。そのチャリのタイヤに穴開けて、パンクさせた奴がいましたね」
 そのスケールのあまりの小ささに、吹き出さずにはいられなかった。
 杉浦さんをはじめ、OBは否定するかもしれないが、なんだかんだ言って前田監督と帝京野球部員は『巨人の星』の父子的な関係だったと言えるのではないかと思う。(終わり)

杉浦双亮(すぎうら・そうすけ)
1976年2月8日生まれ、東京都八丈島出身。小学5年で埼玉県大宮市(現さいたま市)に転居し、帝京高校では野球部に入部。チームは入学した1年春から4季連続で甲子園に出場するが、自身のベンチ入りはなし。高校時代の同期生・山内崇さんとお笑いコンビ「360°モンキーズ」を結成し、コアな外国人選手のモノマネでブレークした。DVD『マニア向け』が好評発売中。

【次回予告】
いま話題になっている、ある意味「名門校」の野球部あるあるについて迫る予定です。

文=菊地選手(きくちせんしゅ)/1982年生まれ。編集者。2012年8月まで白夜書房に在籍し、『中学野球小僧』で強豪中学野球チームに一日体験入部したり、3イニング真剣勝負する企画を連載。書籍『野球部あるある』(白夜書房)の著者。現在はナックルボールスタジアム所属。twitterアカウント @kikuchiplayer

漫画=クロマツテツロウ/1979年生まれ。漫画家。高校時代は野球部に所属。『野球部あるある』では1、2ともに一コマ漫画を担当し、野球部員の生態を描き切った。雑誌での連載をまとめた単行本『デンキマンの野球部バイブル』(白夜書房)が好評発売中。twitterアカウント @kuromatie

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