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ゲームの構造、階層とは、実況のアナウンサーがよく口にしていることだった!(第十七回)

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
レクチャーは予定していた全5回が終わってしまいましたが、新たな企画を思案中です。その連絡ができるまでお待ちください。


試合の構造


キビタ前回は試合が始まる前の部分の重要性をお話しました。今回は試合そのものの構造を見ていきます。

久保:試合全体像を示すピラミッド【図1】の上の部分を拡大したものが【図2:ゲーム中の構造】です。


【図1】ゲームの全体構造



【図2】ゲーム中の構造


キビタ:試合の流れを考える時に、監督も選手もこの順番で試合状況を整理しています。試合中の状況(味方の打線や先発投手の調子、相手投手の出来等々)がまずあるとして、その後はイニング、点差、塁の状況、アウトカウント、ボールとストライクのカウントの順に積み重ねて、最終的な作戦へとつながっていきます。

久保:野球中継の実況アナウンサーもほとんどこれと同じ順番で喋っていますよ。

キビタ:アウトカウントと塁の状況が逆になっている以外は、ほとんど同じですね。

久保:もっと簡略化したものは、偵察部隊がビデオを撮る時の作業でしょう。ベンチ外の選手がネット裏でビデオを回しながらスピードを計測していますが、この作業もほぼ同じ手順です。「3回の表、エネオスの攻撃、1アウト二塁、7番宮澤、122キロ、スライダー、ボール、1ボールノーストライク」なんて言いながらやっていますよね。

キビタ:この流れが一番整理しやすいのでしょう。まずはイニングから。たとえば序盤と終盤では、前進守備の判断が違ってきます。序盤であれば「1点は仕方ない」と、内野を前に出さないで、アウトを1つ取ることを優先したりします。

久保:前回に話が出た「何対何で勝つか」というゲームプランにもつながってきますか。

キビタ:そうですね。打ち合いを予想しているのなら、序盤の1点にこだわるよりも、アウトを増やした方がいい場合もあります。そのあたりは点差も関係してきます。序盤に大量リードしている場合と、終盤の1点差勝負では守り方も違ってきます。

久保:その次にくるのが塁の状況ですか。

キビタ:簡単に言ってしまえば、塁が埋まっているか、いないのか。塁が埋まっていれば、内野ゴロでゲッツーの可能性もあります。

久保:バッターにとって制約があるかないかの違いですね。

キビタ:さらにはアウトカウントを考えて、さらにはボール、ストライクのカウントによっても動くかどうかを考えます。試合中はいちいち検証している時間はないので、かなりの部分は端折っているかと思いますが、考えの筋道はだいたいこんな感じです。


ストーリーで流れを呼び込む


久保:このような手順を踏まえて、監督は流れを呼び込むために仕掛けていきます。

キビタ:また試合を見ながら、流れが来ている選手を見極めていきます。

久保:野球では「ファインプレーをした直後の打席は要警戒」というセオリーがあります。

キビタ:乗っている選手を見極める指標のひとつではありますね。

久保:野球に限らずどのスポーツも、攻撃から流れは作りにくいですから、守りからリズムをつかんだ方が乗りやすいとも言えます。

キビタ:攻撃で点を取ると、どうしても一息ついてしまうというのもあるでしょう。「ピンチの後にチャンスあり」ではないですけど。

久保:ボディブローのように、セオリーにない奇襲を繰り返して、相手にダメージを与える作戦もありますね。如水館の迫田穆成監督は、ちょっとあり得ないような盗塁を何度も仕掛けて、それを伏線に勝ってしまうイメージがあります。

キビタ:まさに「広商野球」ですよ。

久保:ずいぶん極端な野球ですけど、そういう練習をしてきて勝っているから、「戻る場所がある」とも言えるんですよね。目の前の判断だけでなく、自分たちが積み重ねてきた練習とつながった選択をすることが、流れを呼び込む要素にもなります。

キビタ:この試合に至るまでのプロセスも踏まえた采配でないと、ということですね。

久保:関東学院大の鈴木聡監督は就任1年目の最初の試合で、初回無死一塁から2番打者にバスターをさせました。その奇策がはまって就任初勝利を挙げましたけど、その後も極端な采配が目立ち、シーズン全体で見るとちぐはぐな攻撃が多くなってしまいました。その反省を踏まえて、2年目からは「サインにストーリー性を持たせたい」という姿勢に変わり、結果もついてくるようになりました。

キビタ:ストーリー性ですか。

久保:鈴木監督に言わせると「このサインは、あの日やったあの練習とつながっているだろ」ということです。「戻る場所がある」という意味でのストーリーですね。横浜隼人の水谷哲也監督だったら「つじつま」という言い方をしています。「監督がつじつまの合わないことをやったら、流れが逃げる」と、いつも言っています。

関東学院大・鈴木聡監督


試合後もゲームリーディング


キビタ:こうして試合前にゲームプランを考えて、試合中もゲームの流れを読んで、さらに試合後にもデータを集計したり、試合そのものを振り返ったりしていきます【図3:3つのゲームリーディング】。試合後の振り返りもゲームリーディングのひとつと言えるでしょう。


【図3】3つのゲームリーディング


久保:将棋で言うところの「感想戦」ですね。棋譜を元に、ああでもない、こうでもないと振り返る。野球だったら、スコアブックが元になりますか。

キビタ:どういう準備をして、どういう心境で采配したかを試合後に探り出すのは、我々の仕事でもあります。

久保:試合後にあれこれ言うのは「結果論」だと嫌がる人もいますけど、観戦する側はもっと感想戦を楽しんでもいいと思います。どこがポイントだと感じるかは人それぞれだし、試合の文脈さえ抑えておけば、トンチンカンな意見にはならないはずです。

キビタ:抽象的な議論が続きましたけど、次からはシチュエーションを想定して、流れと作戦についてさらに詳しく見ていきます。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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