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日本人メジャーリーガーを追え! 発展途上の男、前田健太を支える「やってやろうじゃないか」精神


 迷ったら、厳しい道を選ぶ。それが前田健太の生き様だ。「日本球界の大エース」という安定した地位よりも、メジャーでの新たな可能性にかけた“マエケン”こと、ドジャースの前田健太。その覚悟があったからこそ、メジャーでの幸先のいいスタートにつながったのではないだろうか。本稿では、前田健太のメジャー挑戦を支える原点ともいうべき、「成長を促す考え方」を掘り下げたい。

「よし、やってやろうじゃないか」の精神


 4月29日(日本時間)のマーリンズ戦、メジャー5戦目にして初黒星を喫した前田。それでも、「無傷の3連勝」というデビューは圧巻だった。負けた試合も、決して悲観する内容ではなかった。その鮮烈なデビューを受け、同じドジャースで全米を震撼させるデビューを飾った野茂英雄の勇姿と重ねるファンも多い。

 入団前のメディカルチェックで「イレギュラーな点があった」と報じられたこと。さらには契約を巡っての“異常ともいえる”出来高払い設定もあって、前田の活躍を疑問視する声も一部ではあった。

 でも、そんな「逆境」や「高い壁」をこれまでにも何度も経験し、その都度、成長の糧としてきたのが前田健太という男なのだ。

《レベルの違うところに来たとき、どう考えるか。2つのタイプがあると思います。「これはダメだ、厳しいな」と自信をなくしてしまうタイプと、もうひとつは「よし、やってやろうじゃないか」というタイプ。(中略)僕は後者です。レベルが高いチームに入って、試合どころかベンチにも入れなかったことで、「やってやろう」という気持ちが強くなりました》(前田健太 著『エースの覚悟』より)

 この記述はボーイズリーグ時代、周囲の高いレベルについていけず、入団当初はベンチ入りも叶わなかった過去を振り返ってのもの。それでも、少年マエケンは「よし、やってやろうじゃないか」の精神で練習に励んだ。その結果、レギュラーを掴むどころか、ボーイズリーグ日本選抜チーム入りも果たし、世界大会MVPに選ばれるまでに成長を遂げたのだ。


あえて厳しい環境に身を置いてきた過去


 「よし、やってやろうじゃないか」の精神で成長を遂げたボーイズリーグ時代のマエケン。高校の進学先として、過酷な寮生活とハードな練習、熾烈なチーム内競争で有名なPL学園を選んだのも同様の理由だった。

《「大変そうな感じ」がかえって僕を後押ししました。(中略)あえて厳しいほうを選ぶクセみたいなものが自分にはあります。「PLがそんな厳しいのなら、やってやろうじゃないか」 そう思ってPLに行くことを決心しました。やっぱり厳しい環境に身を置いて自分を鍛えたてみたかったんです》(『エースの覚悟』より)

 あえて厳しい環境で心身ともに自己を磨いた結果、田中将大を筆頭に才能ひしめく1988年生まれの中にあって、広島からのドラフト単独1位指名という高評価につながったのだ。

 そうしたマエケンの球歴を振り返れば、今回のメジャー挑戦も、過去に成長を遂げたときと同様の精神状態であることが見えてくる。

「レベルの違うところに来たとき、どう考えるか」

「『大変そうな感じ』がかえって僕を後押し」

「厳しい環境に身を置いて自分を鍛えたてみたかった」

 まさに、今のマエケンにもピッタリと当てはまるフレーズだ。だからこそ、これまで同様、「やってやろうじゃないか」の精神で、目の前にそびえる高い壁を突破していく姿を期待したくなるのだ。

「僕はまだ全盛期じゃない」


 松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大……高額契約を勝ち取って華々しくメジャー入りした「日本球界のエース」たち。その“成功して当然”という期待も相当なプレッシャーであるのは間違いない。その中で彼らは1年目から2ケタ勝利を飾ったのだから、「さすが」のひと言に尽きる。

 一方で、マエケンしかり、野茂英雄しかり。厳しい契約からスタートして「チームのエース」に登りつめていく様も、またファンの心を捉えて離さない。むしろその成長譚こそ、「アメリカン・ドリーム」といえるのではないだろうか。

 前田健太が座右の銘のように好んで使うフレーズがある。それが「僕はまだ全盛期じゃない」だ。

《投手のタイトルを全部獲り、日本シリーズで優勝して大きな契約を結んだとしても、そこで「自分は今が全盛期だ」と思ってしまっては成長がありません。投手としてもっともっと成長するために、いつも「全盛期じゃない」と言い聞かせているんです》(『エースの覚悟』より)

 事実、前田健太の代名詞ともいえるスライダーはプロに入ってから覚えたもの。ルーキー時代、初めて試合で投げたスライダーはあまりの遅さにカーブと間違えられた、なんて逸話も残っている。そこから試行錯誤を重ね、さまざまな投手の握り方を参考にして、ようやく身につけたウイニングショットだった。言い換えれば、まだ操って10年も経っていない“発展途上のボール”ともいえるのだ。

 同様に、マエケンが150キロを初めて投げたのは、プロ入りして4年目のこと。高校時代から魔球のようなスライダーを操り、150キロを当たり前のように投げていた松坂大輔やダルビッシュ有、田中将大との大きな違いがここにある。そしてそれは、社会人になってからフォークボールを覚えた「晩成型投手」野茂英雄と、またしてもダブってくる部分だ。

 アメリカよ。前田健太の全盛期は、まだまだ先にある。こんなもんで驚いてもらっちゃ困るのだ。


文=オグマナオト(おぐま・なおと)

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