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最速151キロ甲子園優勝左腕! 中日・小笠原慎之介のアウェーでこそ燃える動じない心


『野球太郎 No.016 2015ドラフト総決算&2016大展望号』で好評を博した「野球太郎ストーリーズ」。ドラフト指名を勝ち取った選手の野球人生ドキュメントを描いた同コーナーは好評で『野球太郎』の名物企画となっている。

 世代交代中の中日が将来の先発ローテーション投手として指名したのは高校球界ナンバー1左腕。名将・門馬敬治監督に「強い選手になれ」と言われてきた大器はアウェーでこそ燃える動じない心を持っている。


先輩・高橋周平がいる中日へ


 4年前の12月――。

 グランドホテル湘南(神奈川)で、中日ドラゴンズから1位指名を受けた高橋周平(当時・東海大甲府)の入団激励会が行われた。300人以上の出席者がいるなかで、代表して花束を贈呈したひとりが小笠原慎之介だった。当時は、中学2年。湘南ボーイズのエースとして活躍していたときだった。

 そこには、「次にプロを目指すのはお前だぞ」という、湘南ボーイズ・田代栄次監督の想いがあった。

 高橋と小笠原は善行小の先輩後輩で善行野球スポーツ少年団、湘南ボーイズと、同じ道を歩んできた。小学校のときから、自宅近くの公園で一緒に野球をやってきた仲である。

 ドラフト前には、「対戦したいバッター」に高橋周平の名を挙げていたが…、小笠原がドラフトで指名されたのは中日ドラゴンズ。外れ1位の指名で中日と日本ハムが重複したのち、中日が交渉権を獲得した。

「顔を知っている選手がいるというだけで心強いので、頑張りたいと思います」

 ドラフト当日の記者会見で、そう答えた小笠原。憧れでもあった先輩がいる中日でのプレーが決まった。


誰にも負けないメンタル


 投手としての武器は、180センチ83キロの堂々たる体格から投げ込む最速151キロのストレートと、空振りを奪えるチェンジアップ。カーブ、スライダーにまだ課題があるが、投手としてのスケールの大きさ、伸びしろは十分なものを持っている。

 そして、何よりすばらしいと感じるのは心の強さだ。どんな舞台であっても、動じることなく、自分の力を発揮することができる。

 今年9月中旬、東海大相模の寮で取材をしたとき、あまりに強い言葉が返ってきて、ドキリとしたことがある。アウトコースを待っていたら、クロスファイアーでズバッと見逃し三振を食らったような気分だった。

「自分自身では、メンタルは強いほうだと思う?」と問うと、「誰にも負けないと思います!」と即答した。ここまで堂々と言い切る高校球児には初めて出会った。

 当然のことながら、メンタルの強さは、数字では測れないものだ。ほかの誰かと比べることもできない。それでも、小笠原は「誰にも負けない」と言い切った。

――なぜ、そこまで言い切れる?

「去年、あの満塁の場面で抑えられたことで確信しました。自信が確信に変わったかなと思います」

 メンタルにはもともと自信があったという。昨秋インタビューしたときには、「(ピンチでの登板は)得意っちゃ得意です。『あ、ありがとうございます! ここで抑えたらヒーローだな』と思って投げています」と答えていた。こんなことを語る高校生もそうはいないだろう。

 小笠原が語る満塁の場面とは、2年夏の神奈川大会準決勝、対横浜戦だ。9回表2点差に追いあげられ、2アウト満塁のピンチで登板。スタンドが横浜ムードになるなかで、140キロ台のクロスファイアーで攻め込み、最後はツーシームでライトライナーに仕留めた。

 さらに、甲子園の初戦、盛岡大付属戦では2対4と逆転された6回、2アウト一塁の場面で登板し、流れを食い止めた。

 このあたりの起用について、過去には門馬敬治監督はこうコメントしている。

「ああいった苦しい場面を乗り切れるのは誰ですか…となったら、小笠原なんです。小笠原はピッチャーとしての嗅覚を持っている。だから、勝てるピッチャーなんですよ。来年は本当に働いてもらいます」

 ちなみに、当時の取材ノートを読み返してみると、こんな言葉も残している。

「最近、バッティングに目覚めて困っているんですよ。すごい。今、左バッターで一番いい。4番で使おうかなと思っているぐらいで」

 今夏、門馬監督の期待どおり、小笠原は勝ち続け、甲子園では決勝ホームランまで放った。


うまい選手ではなく強い選手


 夏に光っていたのも心の強さだ。

 渡辺元智監督の最後の夏となる横浜との決勝戦、東北勢初優勝がかかった仙台育英との決勝戦は、東海大相模にとって完全アウェー。そんな状況であっても、動じることなく立ち向かい続けた。

 仙台育英戦では、小笠原が何度となく、センターバックスクリーンを見る姿があった。

「スタンドのどこを見渡しても、タオルを回していたので(仙台育英の名物応援)、バックスクリーンを見るようにしていたんです。お客さんが入らないのでどっちにも味方というか。スコアボードを見て、現実を受け止めていました」

 6回裏2アウト満塁からタイムリー三塁打が出たときは、甲子園の応援席が仙台育英の応援で揺れていた。それでもズルズルいかないのが小笠原の強さ。ライトフライに仕留め、9回の自らの勝ち越しホームランにつなげていった。

「3年間で一番アウェー感があったのが、育英戦でした。でも、楽しかったです。ホームで持ち上げられるよりも、アウェーのなかで敵を倒したほうが気持ちがいい」

 私が感じたのは、どんなときでも表情を変えずに投げていたことだ。味方がエラーをしても、淡々と投げ続ける。これも、自分自身で意識していたことだという。 「顔に見せなければ何とかなるだろうと考えています。弱みを出すと、そこから叩きこまれる。監督さんからも『顔に出る選手は強くない』と言われていました」

 門馬監督が常々語っているのが、「うまい選手ではなく、強い選手になれ」。

 小笠原の心は最後まで動じず、強くあり続けた。この強さは、プロでも武器になりうるはずだ。


周囲から学ぶ意欲と能力


 ピッチングコーチとして、小笠原を鍛えてきたのが長谷川将也コーチだ。自身は2006年センバツに出場し、甲子園のマウンドで投げた経験を持っている。

 走り込みの本数などトレーニングメニューを考えるのも、主に長谷川コーチとなる。小笠原は、1年冬は足首のねんざで走り込みがまったくできなかったが、2年冬には400メートル×10本の走り込みに加えて、筋肥大を狙った週4日のウエートトレーニングをやりこんだ。スクワットの最高値は200kgまで到達。強靭な下半身から、150キロ台のストレートが生まれている。

 太りやすい体質の小笠原だが、2年秋が終わってからは体脂肪率に気をつけるようにもなった。2年時は20パーセント台だったが、3年になってからは17パーセント前後をキープ。大好きな甘いものを食べないように心がけた。

 間近で見てきた長谷川コーチには、小笠原の姿はどう映っていたのだろうか。

「あいつは研究熱心なんですよ。いろんなピッチャーに、いろんなことを聞いて、自分に生かそうとしている。練習試合でも、相手のピッチャーに『どうやってスライダー投げているの?』と聞いていたこともありました」

 現状に満足せずに、常に上を目指し続けてきた。

 3年春からランナーなしの場面でもセットポジションで投げるようになったが、これはDeNAの山ア康晃を参考にしたものだ。

「それまではワインドアップで投げていたんですけど、上と下が合わなくなっていたんです。それをセットにすることで、テンポがよくなって、自分にはセットのほうが合っていました」

 敗戦からの学びも多い。負けたことを無駄にせず、自分の力に変えてきた。「あの敗戦が自分を大きく変えてくれました」と振り返るのが、3年春の関東大会準決勝での浦和学院戦だ。

 先発完投し、0対4の敗戦。試合後には涙を流す姿もあった。高校3年間、完投して負けたのはこの試合が最初で最後だった。

 浦和学院戦で学びは2つある。1つはチェンジアップの習得だ。8回に荒木裕也にチェンジアップをうまく拾われ、レフトスタンドに運ばれた。低めのチェンジアップで決して悪いコースではなかったが、小笠原には不満があった。

「腕が振れず、置きにいってしまった。チェンジアップこそ、腕を振らなければいけない」

 浦和学院のエース江口奨理が、腕を振ってチェンジアップを投げている姿も印象的だった。このチェンジアップに東海大相模打線は対応できず、完封負けを喫した。

 荒木に打たれた一発以来、チェンジアップに対する意識が変わった。小笠原の言葉を借りれば、「真面目に取り組むようになった」。キャッチボールのときからチェンジアップの腕振りを意識して、投げ込んだ。つかんだコツは、中指だけ縫い目にかけて、中指で回転をかけること。ストレートとは違い人差し指の力が加わらないため、必然的にスピードは遅くなる。

 もうひとつは、江口が見せた左打者のインコースへのストレートだ。球速は130キロ台前後と決して速くないが、打者の近くに的確に投げ込んでいた。

「関東大会が終わってから、左バッターのインコースを練習しました。江口が投げていたので、俺も投げられるんだぞと。それまではシュート回転して当てるのが怖かったんですけど、気持ちを強く持って投げ切りました」

 甲子園後のU-18では「県岐阜商・橋(純平、ソフトバンク1位)からカーブを教わった」という記事が新聞紙面に載っていた。本人に確認してみると、「高橋のカーブは外側に抜くイメージ。やってみたんですけど、しっくりいかなかったんです」と苦笑い。モノにはできなかったが、どこに行っても、いいピッチャーから学ぼうとする姿勢は変わっていない。

 一流選手が揃うプロ野球の世界では、プロだからこその技術を持った投手がいる。高いレベルを見て学ぶことで、小笠原の感覚はさらに磨かれていくであろう。

 心の強さ、学ぶ意欲、吸収力の高さ。速い球を投げるだけが小笠原の魅力ではない。ドラフト1位にふさわしい心を持っている。
(取材・文=大利実)


この記事は『野球太郎 No.016 2015ドラフト総決算&2016大展望号』の「野球太郎ストーリーズ」よりダイジェストでお届けしております。


野球太郎No.016
2015ドラフト総決算&2016大展望号
発売日:2015/11/28
価格:1500円
ISBN:9784331803196

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