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第15回■「走れ! タカハシ」(著者 村上龍)



 著者である村上龍氏曰く、?橋慶彦について「ファーストベースにヘッドスライディングしてもそれが様になる日本でも珍しいプロ野球選手」と評していますが、現役時代を知る者としては全く異論ありません。「ヨシヒコ」はカッコイイのです。
 この本が出版されたのは1986年ですが、連載されていたのは83年〜86年の赤ヘル黄金時代。毎年のようにセ・リーグの優勝争いに加わり、中心選手としてバリバリに活躍していた「ヨシヒコ」。「赤ヘル機動力野球の申し子」といわれたスピード感溢れる現役時代のそのプレーは、自分の幼心にもしっかりと焼き付いています。
 当時、後楽園球場の電光掲示板に「慶彦」の「慶」の字が複雑すぎて表示できず、「?橋ょ」と小さい「ょ」で表示されていたことを知っている読者の方はいらっしゃいますか? あの「江夏の21球」の1979年には日本記録となる33試合連続安打を達成。順風満帆な広島でのプロ野球人生でしたが、あることがきっかけでトレード候補といわれるようになり、広島退団後の1989年オフにはロッテへ移籍。1990年オフには阪神へ移籍も、通算1826安打は立派な成績。そして現役時代はもちろん、近年の指導者時代もダンディでカッコイイ! のです。ロッテの二軍監督時代や一軍ヘッドコーチ時代もその姿を拝見しておりますが、なんというかこう、チョイ悪オヤジっぽい(褒め言葉です!)独特の雰囲気を醸し出す、間違いなく他のコーチ陣とはひと味違う「何か」を感じずにはいられませんでした。

 当時のプロ野球選手「らしくない」ルックスも手伝って、現役時代はそりゃあ女性ファンも数も尋常じゃなかったそうです。「君の声が聞こえる」というタイトルのレコードを発売から数日で5万枚売った、広島市内のレコード店では売り切れも続出して、有線で8位に入ったなんていう記録も残っているそう。あの村上龍氏が「ホレる」くらいの野球選手ですから、ルックスやプレー以外にも強烈な「個性」があったわけです。

 そうです「ヨシヒコ」は、グラウンド内外で数々の「ヨシヒコ伝説」を作ってきました。1987年の開幕2日前、フロント側で一方的に決められたしまった地元テレビ局主催のファン参加イベント「カープ激励の夕べ」について「開幕前なのだから練習がしたい」と以前より訴えてきたヨシヒコの思いは一蹴された件について直訴。
 「ちょっとは僕らのことを考えてくださいよ。もう開幕なんですよ」と元来の強気な性格でお偉いさん連中に言い放つも、松田元オーナーに「そんなに言うなら(イベントに)出なくていいいぞ!」と激怒された後、当時の阿南準郎監督に「ファームに落としてください」と言い残してロッカールームに直行。荷物をまとめ、さらにはロッカーのネームプレートまで外してしまいます。追いかける番記者に「このチームは勝つつもりがあるのか、優勝したいのか」と強い口調で言い残し、球場を出て行ってしまいました。その一悶着が原因で、現役引退後は広島カープへの復帰が出来ないという噂もあります。
 他にもダイエーに所属していたコーチ時代には、広島時代から仲の悪かった達川光男バッテリーコーチとベンチ内で選手が見ているなか、取っ組み合いの大げんかを2度もするなど、当時の王監督を困らせたという逸話もあります。

 しかしながらその指導力には定評があり、ダイエー時代には浜名千広村松有人を育て、ロッテ時代には西岡剛角中勝也らを育てた名伯楽。ダイエー時代に指導していたある選手にはこう言われたそうです。
「ヨシヒコさんは怖いですよ。何でだと思います? 好きだから怖いんですよ」と。
 ルックスだけではなく、男が男に惚れる…。そんな性格の持ち主だからこそ、あの村上龍氏も「認めた」野球選手なんでしょうな。

 さてさて、ヨシヒコについて書きすぎてしまいましたが、この本について。もう何度目か分からないくらい読んだことのある一冊ですが、様々な境遇の登場人物たちが、知り合いでもなく、本人と直接出会うわけでもないのに、いつの間にか?橋慶彦が物語の展開の軸になっている、もしくは関係している…。不思議な野球小説なのです。プロ野球はキャンプも中盤。TVのキャンプ中継では各チームとも紅白戦やオープン戦が始まっていますが、試合が始まればもうこっちのモノ。選手たちのワンプレーに注目し、この小説の個性的な登場人物になりきって「ヨシヒコが走ったら…」といったように、今シーズンはお気に入りの選手のワンプレーに注目して、自分なりの「走れ! 〇〇〇〇」を体現してみましょう!




■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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