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近い未来に20勝投手の誕生!? “着地までの粘り”で大変貌を遂げた有原航平(日本ハム)の成長記

「最低の新人王」の汚名を返上する大活躍!


 昨季、8勝6敗、防御率4.79という成績で、パ・リーグの新人王を獲得した有原航平(日本ハム)。“防御率4.79”の数字が示す通り、その内容は実に不安定なものだった。そのため、「最低の新人王」などと揶揄する一部の心ないファンもいた。

 しかし、2年目の今季は、7月22日に早くも2ケタ勝利を達成した。8月16日現在、10勝5敗、防御率2.13(リーグ3位)という好成績。内容も抜群で、汚名を返上する大活躍を見せている。

 一体、2年目の今季、彼に何が起こったのだろうか?

スケールは大きいものの、つきまとう脆さと不安定さ


 広陵高時代から、その才能、スケールは世代No.1の投手として高く評価されていた。プロを志望すれば上位指名の可能性もあったが、有原は早稲田大進学を選択。


 登板機会はあったものの、大学時代に先発として活躍し始めたのは大学3年秋と遅かった。続く4年春のシーズンで本格化を思わせる投球を見せた。ただ、圧倒的なエンジンを持っていながら、どこか勝ち切れない脆さが有原にはつきまとっていた。

 4年秋はヒジの違和感で出遅れ、なんとかシーズン中に復帰したものの、平凡な成績に終わる。それでも、ドラフト会議では4球団が1位指名。抽選で交渉権を得た日本ハムへと入団することになる。

 このように、潜在能力は誰もが認めるところだったが、本当にプロで勝てる投手になれるのだろうか? その不安は拭えなかった。

 プロ入り後もヒジ痛の影響で、1軍デビューは5月に。急かさなかったことで、身体面は問題なく、秋まで乗り切った。

 しかし、勝ち星は8勝にとどまり、安定感もイマイチ。早稲田大時代から見せていた素晴らしい投球をしていても、突如崩れたり、精神面の脆さを露呈したり、という不安定な投球はプロ入り後も続いた。


“着地までの粘り”が飛躍のきっかけ


 そんな1年目から、今季は勝てる投手へと大変貌を遂げた。しかも、10勝して5敗しかしない成績を挙げる姿はイメージしづらかった。

 2年目になって、何が変わったのか?

 まず、数字面での最大の成長は、制球力の向上にある。四死球をイニングに対し33.9%与えていた1年目に対し、今季は22.9%と劇的に少なくなっている。それだけでなく、被打率なども大幅に改善されるなど、多くの指標で数字を大幅に改善している。

 技術的には、足を引き上げて地面に降ろすまでの動作に粘りが出てきた。この“着地までの粘り”こそが投球フォームにおける一番大事な要素だ、と私は考えている。

 なぜ、“着地までの粘り”が一番大事なのかというと、ひとつは、打者が簡単にタイミングを合わせることができなくなるから。もうひとつは、体の開きを遅くし、ボールを長く持つことができるからだ。

 “着地までの粘り”をわかりやすい言葉で表すならば、「イチ・ニ・サン」で投げるリズムが、「イチ・ニ〜の・サン」というリズムに変わる、ということ。この「〜の」という間が入ることで、打者はタイミングを取るのが難しくなる。

 また、これまでの有原のフォームは、ボールの出所が早く見えてしまい、どんなボールがどのコースにくるのか、読まれてしまう欠点を持っていた。しかし、体の開きが遅くなることで、その欠点を克服。淡白に見えたフォームが、相手打者にとって嫌らしいものになってきている。粘りによって、ただボールが速い投手、ではなくなりつつあるのだ。

 有原は元々ボールを長く持てる投手だったが、さらに球持ちがよくなったことで、指先まで神経を通わせ、微妙な力加減までボールに伝えられるようになってきた。それがコントロールの改善にも繋がったのだろう。

 さまざまな進歩を生む、「〜の」という“着地までの粘り”にこそ、一流投手と二流投手の最大の違いがある。もしかしたら、有原もそこに気がついたのかもしれない。


掴めなかった有原の“努力できる才能”


「何かヌボ〜としていて、何を考えているかわからず、ちょっとしたことで揺らいでしまう危うさも持っている」

 アマチュア時代からプロ1年目の有原に対する私の印象だ。恵まれた才能を生かし切れない歯がゆさを感じ、大きく勝ち星が先行する投手になるのは難しいかも、と疑問を持っていた。

 仮に、プロで大成するならば、より球威・球速を増し、プロの打者相手でも力でねじ伏せる投手になれれば活躍する、というイメージを抱いていた。

 ただ、現在の彼は、投球術や制球力に磨きをかけ、実戦的な投手へと成長しつつある。私にとっては、完全に予想を裏切られる形になっている。

 しかし、日本ハムのスカウトによると、かなり確信を持って、実戦的な投手に成長する未来を描いた上での獲得だったという。そこには、用意周到に「有原航平」という人物を観察し、調べ抜くことで、今の姿を予見していたのかもしれない。

 今思えば、そう考えられるフシは確かにあった。

 高校から鳴り物入りで大学球界に飛び込むも、なかなか結果を残せずに苦しんだ下級生時代。2年秋から少しずつ実績を積み重ね、一歩一歩着実にレベルを引き上げ、エースへと成長していったことに気がつかされる。

 けして才能に奢った投手ではなかったのだ。問題点を見つけ出すセンスがあり、それを改善し、“努力できる才能”も備えていた。私が見ていた有原は、あくまでも成長段階ゆえの不安定な部分。それに私自身が、気づいていなかったのかもしれない。



20勝投手誕生への期待


 アマチュア時代の圧倒的なボールの威力を知るものからすれば、今の有原はまだ進化の途上だ。

 実戦的な投球を実現するために、持っている能力を抑えて投げており、力と技をバランスよく生かしきれていない、と思う。これから段階を踏んで、力を制御しなくても実戦的な投球を出せるようになってほしい。

 そう考えると、現在示しているパフォーマンスからワンランク、ツーランク上の投球も十分可能になる。

 このまま順調にいけば、今年13から15勝ほど勝ち星を伸ばせるだろう。しかし、彼はそんなもんじゃない。近い将来に15から20勝をも期待できる投手になれると確信している。

 そうなれば彼のことを「最低の新人王」と呼ぶものはいなくなるだろう。


文=蔵建て男(くらたてお)
1972年生まれ、神奈川県出身。ウェブ上を中心に活動するスカウト的観戦者の草分け的な存在で、人気ドラフトサイト「迷スカウト」の管理人。独自の視点から有望選手のレポートを発表し続けている。ハンドルネームはもう1つの趣味だった競馬で「蔵を建てたい」という願望を込めて名乗り始めた。Twitterアカウントは@kuratateo(https://twitter.com/kuratateo)

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