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第九回:打者の重心を見る

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回2月22日開催の詳細をお知らせいたします)


右打者と左打者では重心のかかり方が違う


キビタ:今回はバッターの重心の話を詳しくしたいと思います。打撃動作の一連の流れにおける重心の動き方を追えば、バッターの状態が見えてきます。
久保:重心というのは質量の中心を意味する用語ですよね?
キビタ:よく言われる体重移動のことを重心の移動と考えるとわかりやすいと思います(厳密には微妙な違いがありますが)。重心の移動具合は、踏み出した足のスイング後の動きで見極めることができます。その結果から判断する限り、右バッターのタイプは大きく分けて2つ。1つは重心の流れが一塁側に向いているタイプ。もう1つは三塁側に流れるタイプです。前者はつま先体重、後者はカカト体重と置き換えてもいいでしょう。
久保:どういう違いがあるのですか?
キビタ:重心が一塁側に向いている選手は、右方向におっつける意識が強いタイプ。三塁側のスタンドから見ていると、最後まで顔が見えません。プロで言うと井端弘和選手(中日)や田中浩康選手(ヤクルト)といった「つなぎ」の選手に多い打ち方です。
久保:外のボールを待っている確率が高いと見ていいでしょうか。
キビタ:というより、空振りを嫌う選手や足を活かそうとする選手が本能的にこうなりますね。外のボール球にバットが届く分、内角は窮屈になりますが、体に近ければバットに当てることはできます。


▲右打者の重心が一塁側に向くと、三塁側から顔が見えなくなる。


久保:反対に、三塁側に向くタイプは?
キビタ:軸回転のスイングでバッティング重視の選手に多いです。内側も強打できる打ち方ですね。落合博満選手(元ロッテほか)や二岡智宏選手(日本ハム)が代表例です。 久保:「バッターの足元を見ろ」という教えは、相手の狙っているコースを探れという意味だったんですか。
キビタ:いや、バッターの意図によらないこともあるんですよ。頭の中で外角を狙っていても、オーバースイング気味の選手や厳しい内角攻めにあった後の選手などは、無意識に三塁側に向いてしまうことがあります。

▲右打者の重心が三塁側に向いている。


 ただ、これが左バッターになると話が変わるんですよ。左は必ず一塁側に重心が流れます。なぜなら、野球は一塁に走るスポーツだからです。
久保:確かにその通りです。
キビタ:日本の左バッターは、間違っても三塁側に流れる選手はいませんね。「打ったらすぐに一塁に走る」という教えを子どもの頃から徹底的に受けるからでしょう。阿部慎之助選手(巨人)が逆方向に大飛球を打っているときでも、三塁側に踏み込んでいるようでいて、実際にはピッチャー方向から円を描くように一塁側へ回り込む程度です。スローで映像を見ると、よくわかりますよ。
久保:「右バッターと左バッターでは打ち方が違う」とよく言いますけど、そういう重心移動から根本的に違うんですね。
キビタ:左バッターの写真を反転させても、右バッターのフォームにはなりませんね。

左対左がなぜ有効なのか?


キビタ:この重心移動の法則がわかれば、左ピッチャーのワンポイントリリーフがいかに効果的であるかがわかると思います。
久保:そうか。左バッターの重心はみな一塁側に向くのだから、左ピッチャーの外へ逃げるスライダーにはバットが届きにくくなりますね。反対に右ピッチャーのスライダーは、一塁側に重心をかけている右バッターならバットが届く可能性が比較的高くなります。
キビタ:サイドスローやアンダースローならば、また違った打ちにくさがあるでしょうけど、少なくとも右対右は、左対左とは同じ関係にはならないわけです。
久保:左対左だと、やはり外へのスライダーが基本になりますか。
キビタ:逆に内側を攻めるときには細心の注意と度胸が必要です。なぜなら、左バッターは重心が一塁側に動いているので比較的懐が広くとれ、腰を引きながら内角をさばくような打ち方ができてしまうからです。だからインコースの際どいところでも、打たれることがあるほどです。しかも、バットに引っ掛けることさえできれば、体重が乗った形になるのでよく飛びます。ひとつ制球を間違えると高い確率で長打になりますね。
久保:となると、インコースを攻めるには、体をかすめるくらいのボール球にするか…
キビタ:もしくはシュートをかける必要がありますね。今の野球では、左対左でバッターの懐にシュートが投げられるかどうかが、重要なポイントになっています。
久保:左キラーの小林正投手(中日)もシュートがあるから、あれだけ活躍できるのでしょう。


▲左打者の重心は必ず一塁側を向く。



配球は重心を崩してこそ


キビタ:ここからは、重心の変化に気をつけながら映像を見ていきましょう。阪神のメッセンジャー投手と中日の平田良介選手、去年の対戦です。初球は真っすぐに空振りですね。
久保:ちょっとタイミングが合っていません。
キビタ:そうですね。そして踏み出した左足が少し三塁側に向いています。「真ん中付近の甘い球がくればレフトに放り込んでやるぞ」というのが平田選手の基本姿勢。だから一般的なスクウェアな踏み出しよりも、少々アウトステップ気味になります。ここでは本能的に真っすぐを打ちにいったけど、外いっぱいの真っすぐにタイミング合わなかった感じです。
久保:2球目は外のスライダー。これも空振りしています。
キビタ:1球目よりは三塁側に踏み出していないですね。平田選手の通常の踏み出しを覚えていれば、少し一塁側に重心がかかっているのがわかります。
久保:そして3球目。インハイの速い球に手が出てしまって、空振り三振になりました。
キビタ:2球目の外のスライダーが効いています。これで、平田選手の重心の流れが一塁側に少し傾きました。そこへインハイの真っすぐですから、球速表示以上に速く感じたと思います。完全に振り遅れになりましたね。
久保:外を見せていたから、少々内側が甘くても空振りを取れたのでしょうか。
キビタ:ここでのポイントは阪神バッテリーが平田選手の重心を崩したということです。だからこそ「外へ誘ってズバッと内」という配球のセオリーどおりハマったわけですけど、あまり崩せていない例も見てください。昨年、長野久義選手(巨人)がDeNA戦でシーズン最多安打を放ったシーンです。
久保:キャッチャーの?城俊人選手がインコースに構えましたが、左の大原慎司投手の真っすぐはやや内寄り高めのストライクゾーン。打球は右中間へのホームランになりました。
キビタ:DeNAバッテリーはインコースを突いたつもりでしょうけど、コース自体甘いですし、その前に投げている外の緩めのスライダーに対して長野選手の重心が過度に一塁側に傾いてもいません。つまり外に誘えていない、崩せていないんです。前にもお話したように、長野選手は外が得意で内を苦手にしています。そのためホームベースから離れて立っているわけですが、ここでは外への“崩し”がないまま内寄りの甘い球がきたので、長野選手にとっては得意の外角に近い感じで自分のスイングをしています。
久保:DeNAの若いバッテリーがもっとボールゾーンに投げていたら…
キビタ:長野選手の重心を一塁側なり三塁側なりのどちらかに寄せていれば、その後の打ち方も変わってきたはずです。こういった相手の重心を崩す作業は、JR東日本にいた斎藤貴志投手が上手でした。長野選手もHonda時代、斎藤投手にインコースを攻められ、なかなか打てませんでしたから。
久保「08年 ホンダ 長野久義外野手」の動画の1分47秒あたりからが斎藤投手対長野選手の映像です。斎藤投手は昨年限りで引退しましたが、右バッターの懐を攻めまくることで社会人野球を10年以上生き抜いてきた左ピッチャーでした。
キビタ:斎藤投手のピッチングを見ればわかるように、配球はバッターの重心を崩さないと意味がないんです。「外ばっかり投げていたから、そろそろ懐に」という安直な考えだけでは打たれてしまいます。
久保:バッターの重心の話はまだまだ続きます。次はバッターごとの特徴、日本人選手と外国人選手の考え方の違いなどを説明します。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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