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逆風こそ力の源。「精神的逆境」に立ち向かう、イチローの思考方法とは?

 逆境に立ち向かう男、イチロー。前回は肉体的な逆境にいかに立ち向かい、克服してきたかを振り返ってみた。だが、イチローがイチローたる所以はむしろ肉体よりも精神面にある。昨年末にテレビのドキュメンタリー番組に出演した際、イチローはこんなことを言っていた。

「いままで自分を支えてきたのは、いい結果ばかりではない。それなりの屈辱によって自分を支えている。痛みはないけど、心は瞬間的に痛みを憶える。そういうことによって自分を支えてきたし、これからもそうである」

 過去にはこんな言葉も。

「選手である以上、プレッシャーは感じていたいと思います。プラスにするもマイナスにするも自分次第です。プレッシャーのない選手でいたいとは思いません」

 目の前に立ちふさがる苦難や壁、逆境を心のエネルギーに代えて、その都度、前に進んできたのがイチローなのだ。今回はそんなイチローの精神的な強さを、彼の言葉とともに振り返ってみたい。

【自分の「形」を追い求めて】

 イチローの強みは、尊大な夢を追いかけるのではなく、小さな目標を常に目の前に起き、それをひとつずつクリアしていくところにある。

「小さいことを重ねることがとんでもないところに行くただ一つの道」

 CMにも使われたイチローのこの言葉が、まさにイチローの生き様を物語っている。

 そんなイチローも、1994年に200本安打を記録した直後は、浮かれていた時期もあったというから意外だ。

「一面に載って、気分が良くなってしまうと、人から評価される、チヤホヤされることが、気持ちよくなってきてしまう」

 つまりそれは、周りに流され、確固たる『自分』を持てていなかった、ということでもある。実際、1998年頃までは打撃フォームが目まぐるしく変わり、毎日悩める日々を過ごしていたという。

「1998年までの僕は、自分の『形』を探すのに精一杯だったのです。世の中の人の中には、『形』が変われば、それを進化と評価する人もいますけど、僕の場合は退化だったのですよね」

 そんなイチローが大きく変わったのは、1999年4月11日の対日本ハム戦。西崎幸広から打った平凡なセカンドゴロをキッカケに、理想のイメージと打撃フォームの明確なギャップに気づき、そこから自らの「形」を発見したことだという。イチローはこの「形」という単語をよく好んで使う。

「パワーは要らないと思います。それよりも大事なのは、自分の『形』を持っていないといけない、ということです」

「自分の『形』を作ってからというものは、毎年、自分への期待は大きいです」

 自分の「形」を明確に持っているからこそ、スランプに陥ってもそこに立ち返ることができるのだ。



【相手に立ち向かっていく勇気】

 常に困難に立ち向かい、攻撃的なスタイルを模索し続けるイチロー。それは打席での心構えでも変わらない。

「相手が強い気持ちをこめて、自信を持って投げ込んでくる球というのは、バッターが受け身でいたら、打てる球も前に飛びません」

 これが実際に起きたのが、渡米直後のオープン戦での出来事。日本からやって来た鳴り物入りの“ルーキー”に対して、シーズンへの威嚇の意味もこめて何度も死球をぶつけられたのだ。

「ぶつけにきている、とわかった時はその次の打席が大事になる。どういう打球を飛ばしたかよりも、どういう形でその打席を終わったのか。僕なら余計に踏み込んでいく。そうしないと舐められる」

 死球といえば、ジョージ・シスラー(元セントルイス・ブラウンズほか)のMLBシーズン安打記録の更新に期待が集まった2004年8月、「日本人に記録を破らせたくない」という思いからか頭部への死球を食らったこともあった。しかし、それで尻込みするような男ではない。むしろ死球以降、188打数73安打、打率.388と打ちまくって、一気に記録を更新してしまう。「逆風ちょうだい、っていつも思っています」とイチロー。売られたケンカは買うだけじゃなく、勝つからこそ意味があるのだ。

【記録達成へのプレッシャー】

 もっとも、このシーズン安打記録更新の際のプレッシャーは、イチローでも経験したことがないほど凄まじく、乗り越えるのが苦しかったという。

「あれだけ大きなプレッシャーを感じることは、はじめてでした。84年間続いたという記録の歴史が、そうさせたのでしょうけど」

 だが、そんな苦しい状況だからこそ、イチローは燃えた。

「『達成できないのではないか?』という逆風は、最高です。『がんばれ、がんばれ』という人がいるより、僕は『できないでくれ』という人がいる方が熱くなる」

 イチローがこの「大記録の壁」を突破できた背景には、毎年「200本安打」という数字へのプレッシャーを克服してきたという蓄積があったのも大きいだろう。過去、200本安打の産みの苦しみをこんな風に語っている。

「180本目から190本目の間が苦しかった。強くなんてなれない。むしろ自分の弱さしか見えてこない」

「今年も、200本を打つことができて、安心しました……。僕も、結構ギリギリのところでやっているんでね」

 ではなぜ、イチローはそこまで200本にこだわるのか?

「200本安打は、僕以外の人を納得させるのに必要な数字です。日本でしたことをこちらでもやらないと、人は納得しないから」

 10年連続200本安打もまたMLB史上初の金字塔であり、イチローにしかできない偉業である。

【WBCへのプレッシャー】

 イチローとプレッシャーの関係性を語る上では、WBCの激闘も外すわけにはいかない。

「王監督に、恥をかかせるわけにはいかない」、「WBCに出ることで、シーズン中の成績に影響するようなら、それまでの選手なんです」という強い決意のもと臨んだ第1回WBCでは、イチローは“チームリーダー”としてナインを鼓舞していく。アメリカとの決勝戦の前には「すごい、と思ったら勝てない。今日を、歴史的な日にしよう」とチームメイトに声をかけ、見事に歴史に名を刻んだ。

 そして第2回WBCの前には「守る、ではなく、奪いにいく」と宣言し、連覇を決意。ところが、信じられないような絶不調に陥ったのはご存知の通りだ。そして、大スランプのイチローに、決勝戦の大事な場面で打席が回ってくる。

「あの打席では、日本からの目がものすごいことになっているだろうと思って、自分の中で実況しながら打席に入っていました。そういうときは結果が出ないんですけど、ひとつ壁を越えたような気がします」

 WBC連覇を決定づけたイチローの決勝打は、イチロー自身が壁を突破しただけでなく、見る者にも前に進む勇気を喚起させてくれる、史上最高のパフォーマンスだった。

 だからこそ、である。今のヤンキースでの苦しい現状を越えた先にも、きっと新しいイチローが待っていると信じたくなるのだ。

「苦しいシーズンで、経験できなかったことをくぐり抜けると、もっと野球を好きになります。野球の魅力っていうのが、終わりがありません」


■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。ツイッター/@oguman1977

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