週刊野球太郎
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第八回:セオリーを持っているか

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。開催の詳細をお知らせいたします)


好打者の条件続編


キビタ:今回も引き続き「好打者の条件」についてお話しします。
久保:好打者の条件をもう一度おさらいしておきます。

@インコースがさばけるか?
A失投をひと振りで仕留められるか?
Bヒットになるセオリーがあるか?


前回は@の「インコースをさばけるか」を説明しました。
キビタ:今回は残りの2つを見ていきましょう。


【ミスショットは許されない?】
キビタ:プロと言えども、難しい球はそう簡単には打てません。またどんなバッター、どんな打ち方にも弱点は必ず存在します。
久保:完璧なバッターはいないのなら、弱点にだけ投げ続けていれば、必ず抑えられると思うのですが…。
キビタ:でも、完璧なコントロールのピッチャーも存在しません。プロのエース級であっても、1試合に何球かは失投があります。結果を残しているバッターは、そういう甘い球を逃さずにヒットにしています。
久保:失投は1打席に1球ぐらいでしょうから、当然「1球で仕留める」精度が必要になりますね。
キビタ:そうです。打ち損じたら、その打席ではもう甘い球はこないと思っていいでしょう。レベルが上がるほど、甘い球がくる確率も低くなります。
久保:とあるドラフト候補の高校生なのですが、メジャーリーガーみたいな体つきで、運動能力も非常に高く、プロ注目の選手と言われていました。確かに雰囲気はいいんですよ。しかし監督は「(プロに行くには)ちょっと厳しいかな」と言うんです。「この子は甘い球を打ち損じる。ミスショットが多い」というのが理由でした。
キビタ:やはりそうですか。
久保:その監督に言わせると、プロに進んだ歴代のOBは、みな甘い球を逃さず打っていたそうです。「でもあの子は甘い球がきて、自分のタイミングで振ったにもかかわらずファウルになってしまう。これは本人の資質だから、なかなか教えられない部分なんだよな」と嘆いておりました。
キビタ:パッと見ではわかりにくいでしょうけど、プロで活躍できるかどうかのボーダーラインはこのあたりにあるんでしょうね。


▲いい打者は甘い球を1球で仕留める



【ヒットになるセオリーがあるか?】
久保:「失投を逃さない」というのは「このツボにくれば必ず打てる」という話にも通じませんか?
キビタ:そうです。Bの「ヒットになるセオリーがあるか」というのは、その人の「ヒットになる形」のことを表しています。
久保:「再現性がある」と言ってもいいですね。
キビタ:ちょっと前まででしたら、小笠原道大選手(巨人)が片ヒザをつきながら一、二塁間にヒットを打つシーンをよく見ませんでしたか?
久保:あぁ、その姿は記憶にあります。
キビタ:ちょっと崩されてはいますけど、小笠原選手はこの形でヒットを積み重ねてきました。これが小笠原選手のヒットになるセオリーのひとつ。こういった「揺るがないセオリー」を多く持っている選手は、長期間にわたって安定した成績を残せます。
久保:イチロー選手(ヤンキース)もヒットを打っているパターンがいくつか思い浮かびます。
キビタ:外の球をレフト前に打っている場面であったり、低めを走りながら打って内野安打にしたり…。何度も言いますけど、必ずしもきれいな形である必要はありません。きれいな形だけでなく、崩されたときにも対応できる引き出しの数があるかないかという話です。おそらくプロのスカウトは「この選手にはセオリーがあるか?」といった視点でドラフト候補を選別していると思われます。
久保:年間通して活躍できる基盤とも言えますね。
キビタ:裏を返せば、このセオリーが崩れると、選手生命の危機に陥ります。最近の小笠原選手は、以前と同じように片ヒザをついて打っても、打球が一、二塁間を抜けなくなったように見受けられます。


【悪球打ちはセオリーと呼べない】
キビタ:バッターのヒットになるセオリーの内訳を図にしてみました。


▲打者の“安打のセオリー”の内訳


久保:先ほどの「揺るがないセオリー」が土台にあって、その上に積み重なっていくんですね。
キビタ「1〜2年のみのセオリー」というのは、そのシーズンは通用したけど、翌年になったらわからないというものです。例えば、シーズンの初めに苦手なインコースを詰まりながらもヒットにしていたら、相手がインコースを攻めなくなり、得意のアウトコースの球が増えて、ヒットも増えた、というようなパターンです。この1年間は好循環だったけど、果たしてそれが次の年も続くかとなると、疑問が残ります。
久保:さらにその上の「短期間のセオリー」というのは?
キビタ:1週間から2週間ぐらいの、好調なときのセオリーです。好不調に左右される部分なので、不確定要素と言っていいでしょう。
久保:さらにその上に「偶然」がきますか。
キビタ:止めたバットに当たったのが内野の頭を越えたり、たまたま難しい球をヒットにしてしまったりといった、再現性のないヒットのことです。
久保:タイムリー談話でも「次も同じように打てと言われても、打てません」なんてコメントがあります。
キビタ:これらの積み重ねで、年間の安打数が増えたり減ったりしていくと考えると、わかりやすいでしょう。
久保:改めて質問なのですが、前々回にも話題になった中村真人選手(元楽天)の悪球打ちはセオリーには入らないのですか?
キビタ:セオリーというのは、相手が意図して投げてくる球をヒットにするバリエーションのことです。つり球を振らせる配球はありますけど、最初から悪球を投げて打ち取ろうという攻めはありません。たまたま悪球になってしまったものを、中村選手が打っているだけです。ですから中村選手の場合はセオリーのようですけど、相手バッテリーの偶然に左右される要素なので、結果として図の一番上にある「偶然」に分類されます。
久保:これも前々回話題になったアラン・ファニョニ選手(NTT東日本)のような「雰囲気はありそうなんだけども…」という選手の場合はどうなんでしょう?
キビタ:形がきれいでも結果を残せない選手は、土台となる「揺るがないセオリー」が少ないからだと思われます。苦手なコースに対しても自分の得意なコースのスイングで打とうとするから、なかなかバットに当たりません。悪い意味で自分の形を崩さないから、フォームが美しく見えるだけです。
久保:なるほど。今までの話が全部つながりました。
キビタ:自分の形を変えるか変えないかは、選手によって違ってきます。特に外国人選手の場合は、日本人選手と明らかに異なります。このあたりはバッターの重心を見ていけばわかるようになります。
久保:バッターの重心に関しては、また次回にじっくりと解説します。


▲いつもきれいなフォームで振っている選手が「いい打者」とは限らない




■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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