週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー前編

取材・文=山本貴政

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー前編
 プロ野球選手になれなくてもプロ野球に関わりたい。そんな思いを叶える仕事は、見回してみると実はたくさんある。週刊野球太郎ではそんな「プロ野球に関わるお仕事」に携わる人たちを直撃。2回連載の前編となる今回、登場するのは読売巨人軍の広報部に所属する“チームカメラマン”鈴木一幸さんだ。

 選手と近い距離にいるチームカメラマンの仕事は、スポーツ新聞や野球雑誌のカメラマンとはどこが違うのか? そもそもどうしたらなれるのか? 広報部としての役割は? 一日のスケジュールは? そんな疑問に鈴木さんのキャリアを含めて答えてもらうとともに、鈴木さんの“プロフェッショナル”なこだわりと撮影テクニック、ファインダー越しに見たプロ野球選手のすごさ、そして望遠レンズを抱えて球場にかけつける“野球女子”への撮影アドバイス……
と、気になることを聞いてみた。

どうしたらなれる? スポーツ写真に“近からずも遠からず”からチームカメラマンに


 どうしたらチームカメラマンになれるの? そんな疑問を紐解く一ケースとして、まずは鈴木さんのキャリアをたどろう。

 高校時代の鈴木さんは写真部に所属。入学当初は剣道部に入るつもりだったものの、剣道部の猛練習を目撃して尻込み。竹刀ではなくカメラを手にする日々が始まった。ある日、強豪だった野球部の試合を写真部員全員で撮影しに球場へ駆けつけたところ、鈴木さんの一枚は見事、朝日新聞の写真コンテストに入選。カメラへの興味が増した鈴木さんは日本大学芸術学部の写真学科に進学。その頃からスポーツ関係のカメラマンになりたいと希望を抱いたという。

 しかし、就職活動に失敗……も卒業式の日にゼミの教授から報道系の制作プロダクションを紹介される。そこで報道カメラマンに従事する傍ら、プライベートでアメフトなどの写真を撮っていた鈴木さんは、1年後に転職。読売新聞系の映像制作会社、読売映画社(後の読売映像、現・IKAROS)に籍を移した。

「読売映画社ではマイクを持ったり、映像のカメラマンの見習いから始めました。その後スタジオのカメラや、元々事件現場の経験があったことで番組制作のディレクターを任されたり。で、担当していた番組が打ち切りになる際に会社が読売新聞のなかで私の配属先を探していたところ、ちょうどジャイアンツのホームページを制作していたメディア班が『ジャイアンツの全面協力でホームページをリニューアル、強化するんだけど、君、スポーツ好きだよね?』と声をかけてくれたんです。そこで読売映画社に所属したまま、業務委託される形でジャイアンツのホームページの担当となったんです」

 ここからジャイアンツとの縁が生まれる。27歳のことだ。鈴木さんは読者からの質問に答えるための調べものをしたり、コツコツとホームページ内にタグ付けをしながらチャンスを待つ日々。ちょうど、リニューアルされるにあたりファームの選手の写真が不足していた。鈴木さんは、自ら「写真が得意です!」とアピール。ジャイアンツ球場で撮影の機会を得る。ここから道が拓き始める。

「その頃、読売新聞から出向されていたチームカメラマンの方が入れ替わるタイミングで、新任の方にいろいろと質問されたんです。その頃は1軍の練習も撮影していて現場を知っていたので。あと、その交代を機にカメラをデジタル化しようという話にもなって。ちょうど僕は大きなレンズを持っていたので『そんなにいい機材を持っているなら、自分(チームカメラマン)が陣取る一塁側の逆、三塁側から撮影して写真の構図を厚くしてくれ』と。で、写真記者協会に話をつけてくれたんです」

 チャンス到来。東京ドーム、ときには神宮球場。チームカメラマンをサポートする形で鈴木さんの「スポーツ写真を撮る日々」が動き出した。2007年、再びチームカメラマンが交代。撮影体制を強化しようという球団の戦略もあり、ジャイアンツの広報部と蜜に仕事をしてきた鈴木さんに白羽の矢が立つ。鈴木さんは読売映画社から読売巨人軍に出向。晴れてチームカメラマンとなった。鈴木さんは2011年に読売巨人軍に転職し、現在に至っている。

 学生時代に志したスポーツカメラマンに近からずも遠からず(いや、遠いか)……という場所から徐々に近づき、ジャイアンツのチームカメラマンに到達。「スポーツ周辺」「報道周辺」に居続けた鈴木さんは縁に導かれるように思いを叶えた。だが、チームカメラマンは「こうすればなれる」という定石はなさそうな世界だと、話を聞くほどに思った。

「若い子には『就きたい仕事があるんだったら、大学のときの就職活動を一発勝負だと思うなよ』とよく言います。卒業時にダメだったからといって諦めることはないし、どこで何がどうなるかわからないから」

 では具体的に、チームカメラマンにはどうしたらなれる? 鈴木さんによると広報部にチームカメラマンが所属しているチーム、フリーランスのカメラマンと契約しているチーム、雑誌社や新聞社に業務委託しているチームと形態は様々だ。

「普通の就職活動をして新卒でチームカメラマンになるケースはないと思います。でも好きなチームがあってそこのカメラマンになりたい場合は、もし仕事をするうちにチームカメラマンや関係者に知り合う機会があれば、求人していないか聞いてみるのは手ですね。あと、ジャイアンツは毎年新入社員を募集していますので、まずは球団職員の就職試験を受けてみてはどうでしょうか」

 チームカメラマンへの道。それはチャンスをじっくりと待ち、運と縁を呼び込むということ。狭き門ゆえにハードルは高いが、ポジティブに考えれば就職活動時に「就けなくてもいい」仕事だ。社会に出てじっくり経験を積み、腕を磨いていればチャンスはやってくる、というふうにも取れる。志望する読者の方がいるならば、諦めずに機会をうかがおう。

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー前編

チームカメラマンが撮るべき写真とは?


 ここからはチームカメラマンという仕事の内容について聞いてみたい。現在、ジャイアンツのチームカメラマンは鈴木さんと、読売新聞からの出向しているカメラマンとの2人。そこに主にジャイアンツ球場でファームの若手選手を撮影する契約カメラマンを加えた3人体制となっている。新聞社や雑誌社の報道系スポーツカメラマンに比べて、「撮り方」はどう違うのか?

「基本的には『他社から取材、あるいは依頼されるチームの側』の目線に立って撮影する仕事です。だから、『こういう写真を望んでいそうだから、こう撮影してあげよう』と期待に応えることを心がけています。あと『こういうタイプのかっこいい写真なら、ベースボールカードやゲームに使われやすいな』と考えたり。もちろん報道的、記録的な写真も撮りますので、同じ選手でも、必要に応じて撮り方が違うところが特徴ですね」

 チームカメラマンは求めに応じて適した写真を提供する。鈴木さんは「相手が何を欲しているのかがわからないと務まらない」と言う。そこにはファンサービスの目線も含まれている。例えば小林誠司を挙げると、小林の甘いマスクに惹かれてファンになっている女性も多い。となると、カメラマンがカッコいいと思う写真と、ファンが望む写真が同じとは限らない。ここにチームカメラマンならではの難しいさじ加減がある。

 鈴木さんは事件現場の報道、映像制作会社のアシスタントに番組ディレクター、ホームページの制作を経験してきた。そのキャリアの蓄積は「相手が何を欲しているのかがわからないと務まらない」という仕事に生きているのではないか。特にディレクター目線が……。

「ささやかなディレクター経験ですけど、それはありますね。段取りを大事に考えるところとか、映像のなかでの絵として今、テレビ局の方が何を求めているかが理解できるところとか。あと、広報部の人間なので取材現場のしきりもしなければいけないんですけど、そういうときにこれまでの経験が生きているなと感じます」

 繰り返しになるが、チームカメラマンに就けるとすると、社会経験を積んでからのめぐり合わせ。そうだとすると、いろんな経験を積むことは大きな蓄えになる。志望する方がいるなら「今このときの経験」は実は「急がばまわれ」を進んでいる渦中なのかもしれない。

 「鈴木さんの撮る写真」に話を戻すと、鈴木さんの目線は野球少年たちにも向いていた。

「仕事をする上で、息子が野球をやっていたのは大きかったです。野球をやっている子どもたちはやっぱり選手がヒーロー。好きな選手のフォームを真似たり、『誰がどういうグラブ、手袋、スパイクを使っている』とアイテムの話で盛り上がったり。だからアイテムがわかりやすいように写真にエッセンスを忍ばせてみたり。そうして、子どもたちが喜ぶ写真も撮りたいですね」

チームカメラマンという日々


 チームカメラマンの日々の過ごし方、1日のスケジュールは?

「東京ドームのナイターの場合は、12時から13時くらいに現場に入って準備。14時くらいから練習が始まって16時まで撮影。ここで撮る写真はホームページやSNSにアップするものです。16時からはアップするための画像処理を行って、17時から軽い夕食。17時30分にカメラマン席で撮影の準備をして18時から試合開始です。試合が終われば東京ドームから自宅に直帰。ジャイアンツは直行直帰が許されていますので」

 さらに練習前、練習後の寸暇には、たとえば「このグッズを持った写真を撮ってほしい」と依頼された写真のためにシャッターを押す。また、チームが遠征中は代休を取ったり、出勤してデスクワークを行ったり、ジャイアンツ球場での撮影のサポートをして過ごすという。ではシーズンオフは?

「スーツを着て出社していますよ。練習があるときはウェアに着替えて撮影。記者会見があれば現場のしきりをしたり。基本的にはシーズンオフは10時出社の18時退社という勤務スケジュールです」

 ところでチームカメラマンのデスクワークも気になるのですが……。

「だいたいデータの整理や膨大に溜まっている写真のバックアップ作業をしています。このバックアップ作業が終わらないんですよ。かといってアルバイトを雇うほどの量でもなくて(笑)。あとは、出版物や、キャンプからシーズン開幕当初の印刷物で使うべく依頼された写真をチェックしていますね」

 前編となる今回はチームカメラマンという仕事の在り方について聞いた。プロ野球選手と同様、野球に関わる仕事も様々で奥が深い。次週公開の後編は「カメラマン・鈴木一幸」がファインダー越しに見たプロ野球選手の凄さ、テクニック、選手との交流、望遠レンズの付けたカメラを抱えて球場に通う野球女子へのプロ目線でのアドバイスなどを語ってもらう。お楽しみに!

【チームカメラマンというお仕事】読売巨人軍広報部・鈴木一幸氏 スペシャルインタビュー前編
神奈川県川崎市多摩区にある読売ジャイアンツ球場。右翼越しによみうりランドの大観覧車などアトラクションが望める

◆インタビュー後編へ

■プロフィール
鈴木一幸(すずき・かずゆき)
1972年6月13日生まれ。東京都中央区出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。
2000年から巨人軍公式サイトの仕事に携わり、2007年から巨人軍のチームカメラマンとなり現在に至る。

取材・文=山本貴政(やまもと・たかまさ)

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.31 2019夏の高校野球&ドラフト大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019夏の甲子園特集
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方