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わたり&高森ベイバナ!《後編》それで谷繁さん、なんつったの?

プロ初打席と通算安打数

高森「僕のプロ初打席が中日戦で吉見(一起)さんと谷繁(元信)さんのバッテリーだったんですよ。……谷繁さんなんて大先輩、僕らからすればやっぱり怖い存在じゃないですか。初めてのバッターボックスに入る時に『挨拶してくれないだろうな…』と、思いながら『お願いします』と挨拶したら、サイン出す格好のまま眼だけこっちを見て、『よし』(←声マネ)って言ってくれたんです」

中野渡「(やけにうける)」

高森「センターフライだったんですけどね。嬉しかったですよ」

中野渡「それで、谷繁さん、なんつったの?」

高森「……『よしっ』です」

中野渡「(大うけ)」

高森「それ、好きですね」

中野渡「俺のプロ初打席は阪神戦。カーライルから左中間ツーベース。現役通算5打数2安打だからな」

高森「僕は…通算4打数1安打です。どうしよう、負けてますね……。でも、バッティングのいいピッチャーの人はいますからね。同級生のミー君(加賀美希昇)。初登板の甲子園・阪神戦で、誰も打てなかった岩田(稔)のスライダーを左中間ツーベースですよ。『すごいね!』って言ったら『狙った』って。あと須田(幸太)さんもバッティングむちゃくちゃ凄い。フェニックスリーグでホームラン打って、7回完封で1-0で勝った試合がありましたらかね」

中野渡「バッティングいいのは野村(弘樹)さんが別格だったけど、あとは吉見(祐治)だな。バッティングの時は生き生きしていたよな」

高森「09年はチーム方針で『ピッチャーはランナーいなくてもバスターをやる』という決まりだったんですけど、吉見さんだけ反対しましたからね。『俺は普通に打たせてくれ』って。バントのサインが出るとがっかりしているんですよ。……明らかに」

中野渡「それで谷繁さんは?」

高森「……『よしっ!』って」

中野渡「(ややウケ)」



ベイスターズの“洗濯”事情

高森「話、変わるんですけど、わたりさんの時って横浜スタジアムの洗濯って誰がやっていました?」

中野渡「……まさかの身長122センチの稲葉さん?」

高森「あーそうです。ハマスタの洗濯事情は、家庭用のドラム式洗濯機が3台だけで、それを稲葉さんという方が一人で回しているんです。選手全員分のユニフォームを」

中野渡「身長が洗濯機ぐらいしかないからな」

高森「だから毎年、選手会の総会があると、必ず『稲葉さんの負担を減らしてあげよう』っていう提案があるんですよ。一人で回しているから、ユニフォームやリストバンドが全然違う選手のところにバラバラで返ってくるんです。他球団に行った選手は『洗濯物がパッキングされて返ってくる』って驚くって話ですからね」

中野渡「5本指のソックスもひっくり返ったまんま返ってくるからな。だから、横浜は選手の着替える回数が少ない。稲葉さんのためだからな。……まぁ、それで横浜の選手は肩ヒジ冷やして壊れてるのかもな。稲葉さん、忙しすぎてどんどん縮んでるもんな。俺の時135センチはあったのにな」

高森「…僕の時には122センチらいになっていましたね」


わたり流・門限破りテクニック

中野渡「しかし、おまえ真面目だな。酒も飲まないし、話はオチねぇし」

高森「寮にいた頃も、全然飲みにも遊びにも行かずにずっと寮にいたので、『ヌシ』って呼ばれていましたからね。寮に用事がある時は僕に連絡が来るんですよ……」

中野渡「俺は寮を一年で出ちゃったからな。寮にいた頃はどうやって酒を飲みに行くかしか考えていなかった。門限が11時。いろいろやったよ。ボイラー室から抜けて、ジャージで飲みに行って、朝の散歩の時間に間に合うように帰って来て外で待ってる。勘違いしたコーチが『わたりは早いなー、社会人を出ているとしっかりしているなぁ』って感激しちゃったりな」

高森「皆、抜け出すのは苦労していましたね。僕らの時代には、ボイラー室の扉に鈴が付いたんで、開けるとチリンチリンってなるんです。それと、セコムが入ったんですよ。ただ、開錠する番号をみんなに教えていたので、意味がなかったですけど(笑)」


高森式トレーニング

高森「ちょっと僕の方から、発表したい研究があるんですけどよろしいですか? 題して『引退間際に見つけてしまった俺流肉体改造計画』です。それをやり出してから成績が急上昇したんですよ」

中野渡「……いつ見つけたんだよ」

高森「最後の年の8、9月ぐらいです」

中野渡「……単にロウソクの消える前にポッとなるアレだろ」

高森「そうかもしれないです(笑)。でも、本当に凄かったんですよ。最後の年、オールスター前まで僕、ものすごく腹筋にハマってて、試合中に3000回ぐらいやってたんですよ。それで腹筋が付きすぎて体のバランスがおかしくなって肩を痛めちゃったんです。そこからトレーニング方法を変えて“何が一番筋肉が付くのか”を突き詰めていったんです。その結論として、トレーニングルームで守られながらやる筋トレじゃ本物の筋肉はつかない。命を危険に晒してこそ、本物の筋肉を得られるということを発見したんです。ホラ、僕は崖にぶら下がったりするのが趣味じゃないですか」

中野渡「知らねぇよ」

高森「崖にぶら下がって命を危険に晒すのが好きなんですね。それで一度横須賀の海に停泊している舟に繋がっているロープ。これを使ってトレーニングすればすげぇんじゃないかと考え付いて、ぶら下がって1往復したんですけど、それを一本行くだけで、全身がビッシビシになるんですよ。落ちたくない、死にたくないから、普段使わない筋肉を使うんですよ。そこにすかさずプロテインを流し込むと、さらに完璧、完璧、完璧です。そこから崖にぶら下がるトレーニングを始めたんですけど、やりはじめてから成績がみるみる上がりましたからね。他の選手には『おまえ、変わったことやってるな』って白い眼で見られていましたけど……今年の一輝(嶋村一輝)さんからの年賀状には『今年は高森式トレーニングやります』って書いてありました」

中野渡「俺はトレーニングをしている暇なんてなかったからな。ジョッキで手首鍛えすぎて腱鞘炎になったけど」

高森「野球選手が体を作るのも仕事ですから、とにかく食べるんです。その中でも鈴木尚典さんは本当によく食べる。山形に遠征に行った時に、食事に連れて行って貰ったんですけど、焼肉へ行ってたらふく注文した上に、夜食用にってお土産まで貰って、更に帰り際にミスタードーナツに寄ってものすごい数を買って帰る。その後、夜中にラーメンを食べにいってましたからね。石川(雄洋)さんも細く見えますけど食べるんですよ。焼肉行って、寿司行って、さらにラーメンを食べる。少しづつじゃないですよ。全部普通に食べるんです」

中野渡「横浜高校の伝統か」

高森「でも、筒香(嘉智)は食べないんですよ。その分、お菓子が大好きで、筒香の寮の部屋の前には、いつも誰かがお菓子を置いていくんですよ」

中野渡「お地蔵さんかよ」


エンディング

高森「本日はお足元の悪い中、お集まりいただきありがとうございました。わたりさんとこういう話ができて本当に楽しかったです。今はデータアナリストやライターの仕事などをやらせて貰っていますが……僕はこの先、何になっていくんでしょうね……」

中野渡「アルピニストだろ。崖からぶら下がってるだけのアルピニスト」

高森「そうかもしれませんね(笑)。頑張って行こうと思います。あと、横浜は2、3年は弱い時期があるかと思いますが、諦めずに応援していればいつか必ず優勝を狙えるチームになるのではないかと思います。その時に僕もどういう形であれ、一枚噛んでいられる存在になればと思います。ありがとうございました」

中野渡「で、谷繁さんは何て言ったの?」

高森「……『よしっ!』です。好きですねぇ」

中野渡「まぁ、いいんじゃないの。野球をクビになって、高森みたいにいろんな分野に顔を出して、元野球選手のパイオニアになっていけばな。まぁ、俺とは今日限りで」

高森「そう言わないでくださいよ。わたりさんは今後どうするんですか?」

中野渡「もつ鍋わたりも仲のいい選手が辞めたら閉めるよ。選手たちが文句や愚痴を吐きに来れる場所として作ったけど、結局、俺の方が文句言って終わっちまってるからな。その後はカウンター1席だけの店をやるかな。木塚(敦志)だけの年間シートで」

高森「横浜に関してはどうですか?」

中野渡「まぁ、木塚が育てた大田(阿斗里)と藤江(均)が一生懸命最後まで頑張っていたからな。それは俺も認めているよ。ただ、応援しているチームこそ、強いチームであってほしい。そのためには厳しさがなくちゃならない。俺は厳しさを越えたところにこそ喜びがあると思っているから、これからも厳しく横浜を叩き続けますよ。そして……強くなって俺のところにこういう仕事の依頼がなくなればいいと思っています。高森のこともこれから見守ってあげたいと思うけど……絡む仕事はないだろうな。もう」

高森「いやいやいや! また第二回の“ベイバナ”お願いしますよ」

中野渡「それはまた気が向いたらな。……で、谷繁さんと目が合うと何て言うんだ?」

高森「『うしっ!!!』です!」

中野渡「(大うけ)」

(終わり……スタッフ一同、「第2回」の早期実現に向けて調整します)

中野渡進(なかのわたり・すすむ)…1976年生まれ、東京都出身。東海大菅生高〜三菱自動車川崎〜横浜。99年ドラフト7位で横浜に入団すると、2年目の2001年に63試合に登板し、5勝1敗、防御率2.61。同期入団の木塚敦志(現コーチ)と馬車馬のようにリリーフで活躍。故障の影響もあり03年に引退後は東京・国分寺に「もつ鍋わたり」をオープンした。もつ鍋、水炊きは絶品。

高森勇旗(たかもり・ゆうき)…1988年生まれ、富山県出身。岐阜・中京高〜横浜。2006年高校生ドラフト4巡目で横浜に入団。2年目の08年にイースタン最年少のサイクルヒットを記録。09年にはイースタンで打率.309、15本塁打、1軍でも2試合に出場し、1安打をマークした。12年に戦力外通告を受け、引退後はスポーツライターとして『野球太郎No.006』でデビューした。

構成:村瀬秀信(むらせ・ひでのぶ)…1975年生まれ、神奈川県出身。出版社・編集プロダクション勤務を経てライターとして独立。幼少期から大洋・横浜ファンで、多くの関係者に取材した著書『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(双葉社)が大ヒット。『Number Web』で連載中のコラム「野次馬ライトスタンド」は読者から多くの支持を受けている。『野球太郎』では「ドラフト最下位指名選手」を連載中。

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