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紙面が作られるところで激しい攻防が! 「京大くん」vs「ロッテ・田中英祐」問題

スポーツ紙で見解が分かれる「京大くん」問題


菊地 紙面の作り方という部分で、先ほど有原の記事をどう扱うかに関して整理部との攻防の話題がありました。その辺をもう少し掘り下げていただけますか?

加藤 はい。新聞紙面を作る上では、記者が取材をして記事を書くのはまあ当然として、その記事に見出しを付ける「整理部」というセクションが深く関わります。現場の記者には、いつも監督や選手と接しているからこそのこだわりが当然あり、整理部はそういった関係性にとらわれずにキャッチーで面白くて、鮮やかな紙面を作ることに専念しています。その結果、意見の衝突というか、見解の相違はどうしても発生します。ともに「いい紙面を作りたい」という点は共通しているのですが。最近でいえば、「京大くん問題」というのがありました。

菊地 京都大から史上初めてプロ野球選手になった、ロッテの田中英祐投手。

加藤 彼をどう呼ぶか、という点で、各スポーツ紙で見解が分かれています。ある新聞社さんは「京大くん」と見出しを打つわけですが、ロッテ担当記者としてずっと田中投手のそばで密着取材をしていると、彼がどういう気持ちでいるか、というのが見えてくるわけです。

菊地 「京大くん」という呼び方はいかがなものか、と。

加藤 「確かに京都大卒だけど、そういった肩書きだけを強調するんじゃなく、1軍を目指してがんばっている姿を伝えたい。だから『京大くん』はやめてください」と。記者としては、やっぱり選手をリスペクトして扱いたいわけです。でも、整理部としては「京大くん」の方が目立つし、一般層への知名度も高い。それで田中投手のことだとはわかるからいいじゃないか、という意見もある。僕自身は、少し前までパ・リーグの担当記者をやっていたから現場の気持ちが、すごくよく分かるんです。だから、もし今後、スポーツ報知で「京大くん」という見出しが立ったら、「加藤、負けたな。屈したな」と思ってください(場内笑)。今はがんばっています!

365日、答え合わせをしているような感覚


菊地 スポーツ紙のオフシーズンの話題をいえば、コーチ人事などの報道が多くなります。

加藤 開幕前の時期にこの話題は変かもしれませんが、毎年10月11月頃によく言われることがあるんですよ。「シーズン終わってお疲れさまでした。これで少しは羽根が伸ばせますね」と……とんでもない! もうね、シーズンオフが一番大変です。監督問題、コーチ人事、選手の移籍etc.……学生の頃、中間テストや期末テストが大嫌いでしたけども、今は365日の毎日、朝には各紙を広げながら「答え合わせ」をしているような感覚です。

菊地 その辺の情報収集はどのように行っているんでしょうか?

加藤 それこそ、オフシーズンの過ごし方が大事になります。キャンプや球団イベントにこまめに顔を出して、球団フロントと仲良くなっておく。信頼関係を構築しておく。もちろん、仲良くなったからといって情報がもらえるほど甘い世界ではありませんけども、その積み重ねが大事になります。

菊地 最近では独立リーグからの異動もあったりして、取材網がますます広くなって大変そうです。

加藤 そうなんです。他紙との競争もあるので、黙ってやられるわけにはいきません。スポーツ紙は発表を待っていては、遅いんです。ある程度、情報の精度が高いとの確信を得たら、「濃厚」「有力」「リストアップ」みたいな表現を使いわけて紙面展開していくことになります。


菊地 逆に、そういうネタを抜かれたりすると……。

加藤 もう辛いですね〜。だいたい、夜中の12時半くらいに「明日の●●に○○選手のネタが出るらしいぞ」みたいな情報が届くこともあるんですよ。そのとき、ちょっと遅いけど、(その選手に)電話しようかどうしようか、真剣に悩みます。電話をして「加藤さん、今こっちからも連絡しようと思っていたんですよ」という場合もあれば、「こんな時間に電話してくるなんて、おかしいでしょう!」と、それまでは関係良好だったのに、以降まったく口を利いてくれなくなる場合もあります。

菊地 確かに選手も嫌でしょうね。

加藤 どちらが悪いかといえば、間違いなく、こっちですからね。仕事とはいえ、反省することが多いですし、因果な仕事だと思います。

強いチームはメディアの使い方もうまい


菊地 話を聞きやすい選手というと、誰が思い浮かびますか?

加藤 僕が最近まで現場取材をしていた埼玉西武ライオンズでいうと、やっぱりキャプテンの栗山巧選手はどんな時もきちんと足を止めて、誠実に対応してくれますね。それは、打てなかった時もそうだし、チームが完敗をしたような試合でも同じです。そういうリーダーとしての責務を全うできる人が、将来的に指導者の道に進むことが多いような気がします。


菊地 そうなんですか!?

加藤 今の12球団の監督さんを見ても、現役時代、誠実にメディアに対応してきた方が多いと思います。

菊地 たとえば、今年、ヤクルトの監督になった真中満さんはメディアとの関係性がいいんだろうな、という気がします。

加藤 そうですね。あと、強いチームっていうのはメディアの使い方もうまいですね。メディアを通じてどうメッセージを発信していくか、というのも監督の才の一つだと思います。


■加藤弘士(かとう・ひろし)
1974年4月7日、茨城県水戸市出身。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、2003年からアマ野球担当。アマ野球キャップや、野村克也監督、斎藤佑樹の担当などを経て、2014年より野球デスクとなる。

■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)

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