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第六回:誤解を招く「いい打者」像

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。開催の詳細をお知らせいたします)


「いい打者」の幻想


キビタ:今回から打撃編です。唐突ですが、みなさんは「いい打者」というと、どういうイメージを持たれていますか?
久保:まず率を残せて、長打が打てて、選球眼がよければといったところでしょうか。それに加えて勝負強く、併殺打も少なければ言うことなしでしょう。
キビタ:たしかに「いい打者」の条件ではありますが、ここからもう少し踏み込んで打者の資質を見極めていくと面白いですよ。たとえば、アマチュアの長距離打者についてプロ野球のスカウトにたずねると「長打力があるのは見てのとおり。あれだけ飛ばすんだから」といった言葉が返ってきます。
久保:特大のホームランを一度見れば、長打力があるのは我々でもわかります。
キビタ:野球ゲーム的にいえば「長打力A」ということになります。ところが見た目でわかりやすいスペックが揃っているのに、意外と打てなかったり、ひとつ上のレベルで明らかに苦戦する選手がいます。
久保:「巧打力A、長打力A、選球眼A」のように見えても、結果が出ない選手はたまにいます。
キビタ:おそらくプロのスカウトも、そういった部分を見極めて「プロで通用する選手」を選別していると思います。今回は様々な誤解を招いている「いい打者」像を整理していきます。

凄い打者とは


キビタ:世間一般で「いい打者」像を形成している要素を、3つに分けてみました。「凄い打者」「巧い打者」「きれいな打者」の3つです。これはあくまでも私が定義したものですけど、参考にしていただけたら幸いです。
久保:まずは「凄い打者」からお願いします。
キビタ「凄い打者」とは、みんなと同じ条件でも頭ひとつ抜きん出た才能を示す選手です。たとえば同じようなスイングでも飛距離が出る選手がそうですね。
久保:「えっ、こんなに打球が伸びるの?」という選手はたまにいます。
キビタ:代表的な例がT−岡田選手(オリックス)。軽く振っているのに、打球が伸びていきます。
久保:アマチュアでは青山学院大の主砲・杉本裕太郎選手でしょうか。決してスイングスピードは速くありません。でもタランと振って、ドカンと飛ばします。
キビタ青山学院大の河原井正雄監督も杉本選手には期待していますからね。「凄い打者」の条件としてもうひとつは、プレッシャーのかかる場面で自分のスイングができるかどうか。本当の勝負所で迷わず振れる選手は「凄い打者」と言っていいでしょう。
久保:勝負強さとも結びつきますね。このあたりは我々の感覚ともほぼ一致しています。


▲杉本裕太郎外野手(青山学院大)

巧い打者とは


キビタ:続いては「巧い打者」の条件です。「巧い打者」はフォームを崩されてもなんとかヒットにします。
久保:自分の形以外でもヒットにするということですか?
キビタ:「崩れて打つのも自分の形」という人もいるので、それは一概には言えません。「困ったときの対処法を多く持っている」と解釈してください。
久保:阿部慎之助選手(巨人)はタイミングを崩されてもツイスト打法でヒットにします。
キビタ:そうですね。阿部選手のツイスト打法はひとつの対処法です。その他にもアクロバティックな打ち方で対処してしまえる選手もいたりします。本能的にバットに当てられる、ミートの巧いタイプですね。
久保:昨年限りで戦力外通告を受けた中村真人選手(元楽天)は悪球打ちで有名でした。目の高さの球やワンバウンドする球も、ありえない打ち方でヒットにしていました。
キビタ:う〜ん、中村選手の場合は確かにアクロバティックなんですけど…。相手は意図的に悪球を投げてこないですから、悪球打ちは勝負のセオリーにはならないんですよね。この勝負のセオリーの話は次回以降に詳しく説明します。

きれいな打者とは


キビタ「いい打者」像で一番誤解を招きやすいのが「きれいな打者」。スイングや打った後の姿が絵になる選手です。この手のタイプの判断は要注意です。
久保:子どものころから疑問に思っていたのですが、評論家が「教科書にしたいくらい美しいフォーム」という選手が必ずしも圧倒的な結果を残せないのはなぜなんでしょう? 
キビタ:昔からそういう選手はいましたね。特に左打者に多く見られます。中日にいた川又米利選手(現二軍打撃コーチ)や、今も現役の桧山進次郎選手(阪神)もそうです。水準以上の数字は残していますが、首位打者を争うまでの打率ではありません。
久保:昔はヤクルトにいた秦真司選手(現巨人バッテリーコーチ)が「左打者の理想のフォーム」と言われていました。でも年間の打率は3割には届きませんでした。
キビタ:話を戻すと、いくらフォームがきれいであっても、自分の形で打たせてもらえる場面は年間通してそんなにありません。「巧い打者」のところで紹介したように、崩された場合にヒットにする引き出しの多い、少ないが結果に関係してきます。だから「フォームがきれい」=「いい打者」とすぐに決めつけるのは危険です。ある程度長いスパンで判断する必要があります。
久保:プロ野球のスカウトが「投手は1回でもいいピッチングを見れば十分。野手は最低でも3回見ないとわからない」というのも、そのあたりなんでしょうね。
キビタ:野球の世界はシビアです。いくら形がよくても、結果が伴わなければ意味がありません。
久保:形といえば、NTT東日本のアラン・ファニョニ選手は立ち姿が抜群にいいんですよ。「これぞ長距離砲!」といった雰囲気で、スイングもかっこいいけど、結果が伴いません。観賞する分には申し分ないんですが、打席の内容がもうひとつです。



キビタ:凡退の質も「いい打者」の条件になってきますからね。崩された場合の引き出しを増やすか、読みを鍛えて確率を上げていくか、何らかの対策が必要になってくると思います。
久保:「君はこんなもんじゃない!」と思うからこそ、ファニョニ選手の名前を挙げました。今年は強打のNTT東日本打線で4番を張ってほしいと思っています。
キビタ:ここまでの説明で「いい打者」像の誤解が解けたかと思います。誰が見ても「いい」部分と、一見よさげだけど「要経過観察」な部分とを選別できれば、野球観戦がより面白くなります。次回はさらに踏み込んで、上のレベルで通用する打者の条件をお話しします。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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