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高いポテンシャルが徐々に開花、“巨大な幼児体型”中?翔太が戦ってきた兄と同世代と課題/file#035

 宮崎で行なわれた2009年秋の九州大会は、よくよく振り返ってみると、かなり豪勢な大会だったと思う。

 主な出場選手を見てみよう。翌年の甲子園で春夏連覇を達成した興南の島袋洋奨(ソフトバンク)、福工大城東の超大型捕手の中谷将大(阪神)、その年の夏に甲子園で花巻東の菊池雄星と投げ合った、明豊の山野恭介(元広島)……。

 地元開催ということで宮崎からは4チームが出場。しかも、その4チームはいずれも“プロ注目”と呼ばれるスーパーエースを抱えていたのである。大会で準優勝した宮崎工には変則左腕の浜田智博(中日)、ドラフト1位投手の弟として注目を浴びる日南学園の中?翔太(広島)、宮崎日大と宮崎商に至ってはともに1年生エースで、宮崎日大には武田翔太(ソフトバンク)、宮崎商には吉田奈緒貴(JR九州)。彼らが揃いも揃って地元での九州大会に進出したのだ。宮崎の野球事情に詳しい人であれば、これがいかに凄い出来事なのかということに共感していただけると思う。

高校でもプロでも課題は変わらず


 その年の秋を制したのは日南学園。彼らは翌春の宮崎でも準優勝を果たしているので、群雄割拠の状態にあった宮崎の中でも、実力は間違いなくトップクラスにあった。その一大原動力が、大型右腕の中?翔太である。


 “宮崎オールスター”による2009年秋の九州大会でも、日南学園は優勝候補の一角と目されていた。初戦の相手は嘉手納。中?は先発し、9回を単打のみの6安打2失点。じつによく振れた相手打者のほとんどを、186センチの長身から叩きつけるような角度のストレートで追い詰めていた。しかし、5回に自らの四球と暴投で作ってしまったこの試合唯一のピンチを守りきれず、単打とセーフティースクイズで2失点。宮崎王者として、どうしても負けられない試合を落とした。

 当時の中?の印象といえば「抜群の球威と制球難」だ。前にも述べたように、とにかく190センチ近い長身から放たれるストレートは角度充分で、90キロのウエートが指先にしっかりとかかった時には、とてつもない球威となって現れるのだ。一方、ストライクとボールがハッキリしすぎる傾向が強かった。特に、決めにいく球を制球するのに苦しんでいたという印象が強い。投球間のリズムも決していいとは言えず、これが時にバックのミスを誘発することもあった。その点はプロの世界でクローザーを任された現在でも、時折、顔を覗かせてしまう潜在的な課題と言ってもいいだろうか。

気は優しくて力持ちな弟と兄・雄太との物語


 西武から1位指名を受けた2008年時点で179センチ79キロだった兄・雄太に対して、弟・翔太は186センチ90キロと、体格的には兄を大きく凌いでいた。しかし、2年秋や、その後の3年生でのシーズンを見続けた限り「絞れてきたな」という見た目の印象を受けることはなかった。プロで活躍する現在も「ぽっちゃり系」で親しまれているが、当時は正真正銘の「ぽっちゃり」で、どちらかといえば“幼児体型”といってもいいぐらいの丸みを帯びていた。

 以前に日南学園のグラウンドを訪れた際には「動きにキレを作りたいから」と、金川豪一郎監督が中?を捕手のポジションに入れてシートノックを受けさせていたこともある。たしかに、高校時代を通じて動きは重そうに見えた。打撃も超高校レベルだった兄とは違い、下位を打つことがほとんどだった。こうした野球選手としての総合力の違いが、指名順位の差となって現れたのかもしれない。


 中?翔太は大人しく、気の優しい選手としても強く記憶に残っている。なかなかインタビュー慣れすることもなく、いつも申し訳なさそうな態度で話をする。兄弟喧嘩はいつも兄・雄太の方から仕掛けられていたそうで、弟・翔太から火種が生まれることは、まるで記憶にないと語っていた。甲子園にも出場した偉大な兄と比較される宿命に生まれながらも、ただ「兄は凄かった」と尊敬の言葉を並べ、日南学園に進んだのも「兄弟別々の学校では親にも負担をかけてしまうので」というのが第一因だった。

 高校入学後、投手組の練習に加わった中?は、兄のキャッチボールの相手を何度か務めたことがある。しかし「兄はエース。無駄なことはさせたくなかったし、余計な心配をかけたくもなかった。だから、兄とキャッチボールする時は、常に緊張していました」という。世界中を探しても、これほど息苦しい兄弟間のキャッチボールは存在しなかったはずだ。

 兄のプロ入りを見届け、2年秋にはエースとして宮崎を制覇。この時、球速は145キロを記録し、同時期に習得したシンカーが投球の幅を大きく広げた。3年夏は準々決勝で散ったものの、2010年の広島6位指名は実力と将来性で勝ち取った結果ともいえる。

 実際に中?は広島の躍進を支えたブルペン陣の一角として、現在はチームに欠かせない存在に成長。6位入団ながらもプロでの結果、そして年俸の面では、すでに1位入団の兄を超えてしまった。あの“巨大な幼児体型”の中?翔太が、どこまでの成長を遂げるのか。大きな感慨とともに、今後も見守り続けたいと思う。



■ライター・プロフィール
加来慶祐(かく・けいすけ)/1976年生まれ。九州地区のアマチュア野球を中心に取材しているスポーツライター。アマチュア時代に目をつけた選手が次々とプロで活躍する目利きも評判。

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