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第十四回 実例ストーリーに基づく法則(2)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第十四回目。野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「実例ストーリーに基づく法則」について語ります。
 前回は、「早熟な少年野球選手が陥りがちな残念なケース」について語ったところでスペースが尽きてしまいました。今回はその続きです。


「早熟選手あるある その2」とは…


「なんかさ、『こういう選手は飛躍する確率が高い』『こういう選手は停滞しやすい』みたいなことがだんだんわかってきたような気がする」
「たしかに。100パーセントとはいわないけど、傾向みたいなものはなんとなくわかってきたかも」
 近頃、少年野球の指導者時代に仲良くなった同僚コーチや、他チームの関係者の方々などと食事に出かけたりすると、そんな話題になることが多くなってきた。
 自分が関わった卒団生の数が増えるにつれ、卒団生の「その後」を知る機会も増える。どの指導者も、教え子の「ビフォー&アフター」の実例ストーリーのストックが増えているため、自然とそういう話題になりやすいということなのだろう。
「下級生の頃に抜群にうまいと評判の子が最上級生になった頃に、そうでもなくなるケースも案外多くない?」
 そんな発言に、全員が「あるある!」と即座に反応する。
「これって、早熟系の選手が、のちのち、体格面で周囲に追いつかれて、並の選手になるのとはまた違うケースだよね?」
「そうそう。体格やパワーにものをいわすわけじゃなく、技術的にうまいなーと思っていた子が、最終的には大勢の中で埋もれてしまうパターン」
 ビールジョッキ片手に、店の天井を見つめながら、そのパターンに当てはまる教え子たちの姿を記憶の引き出しから引っ張り出す。
 しばしの沈黙の後、このパターンに陥る選手にありがちな「あるある」をその場にいた全員で出しあうことになった。

●親(主に父親)が息子に野球をやらせたくてたまらない。
●物心がついたあたりの早い段階から、バッティングセンターに通い、公園でノック等の練習を親子で積み重ねていたりする。
●それゆえ、同学年の子らが、まだ満足にキャッチボールもできない段階において、キャッチボールを普通にこなし、ノックされたゴロやフライもそつなく捕ることができる。
●バットにボールを当てられる確率が同級生の中では抜群に高い。
●それゆえ、チームに入った低学年の段階では「すごくうまい子が入ってきた!」という評価を得がち。
●試合に出れる確率も当然高くなる。学年の中心選手として、最上級生になった時の活躍を早い段階から期待される。
●「野球に専念したいから」という理由で、運動系の習い事は野球だけだったりする。
●野球以外のスポーツは意外と苦手だったりする。
●身体能力そのものは高くない。
●キャッチボールも満足にできなかったような周囲の同級生も、小学校高学年になる頃には、捕ったり、投げたり、バットに当てたり、フライを捕ったり、といったことは、えてして、普通にできるようになる。
●学年が上がるにつれ、身体能力の差が、野球の実力の差になりやすい傾向が色濃くなる。
●小学校高学年、中学生になった頃には、ごく平凡な選手という扱いになっていたりする。

「なるほど…。冷静に整理すると、見えてくるもんだね、どんどん埋もれていってしまうように感じてしまう理由が」
「たしかに…。野球って、スポーツの中でも難しい部類に入るから、早く親しむことのアドバンテージって、けっこう大きいもんな。特に小さいうちは…」
「低学年の段階では、捕ったり、投げたり、バットに当てたりといったことができるだけで、かなりのアドバンテージになるし、『あの子はうまい!』といわれることにもつながりやすい」
「低学年のうちは、身体能力の差よりも、『ほかの子よりも先に野球を始めた』という事実のほうがものを言いやすいということか…」
「でも、『周囲よりも先に始めた』ということだけがアドバンテージになっている子は、いずれ周りに追いつかれる、と」
「まだ周囲が塾に通ってない早い段階で、塾に行ってる子らは学校の成績も学年の中でずば抜けてよかったりするけど、周りの大半が塾に行き出す時期が来ると、さほど突出しなくなったりする。それと似たような話かもしれないね」
「『ほかの子よりも野球がうまい』というよりは、『野球に早い段階で親しんだ分、ほかの子よりも野球に慣れている』と言ったほうが、近いのかもしれない」
「小さい頃から『うまい!』と評価されていた分、同学年の子らに追いつかれ始めると、親も子も『こんなはずじゃない…』と焦り、さらに家での練習量を増やしたりする。結局、まだ出来上がっていない子どもの体に負担がかかって、オーバーワークで故障、という結末を迎えたりするんだよね…」
「目指せプロ野球選手!」と小さい頃から親子二人三脚で真剣に打ち込んできた子ほど、精神的にも肉体的にも燃え尽きてしまいやすいともいえる。学年の先頭集団を走っていたはずなのに、周囲に追いつかれてしまうことによって、野球への熱が次第に下がってしまい、中学で野球を続けないケースも出てきたりする。
「『結局、野球が好きだったというよりも、野球で結果が出て、うまいと持ち上げられる自分が好きだったのかなぁ…』
 そう思わざるをえない残念な結末に遭遇すると、指導者として、『心の底から野球を好きにさせられなかった自分』を責めずにはいられない。

順調な右肩上がりの成長曲線を描く選手の特徴もわかる


 その一方で、「少年野球時代はさほど目立った結果は出なかったが、中学、高校で中心選手になった」「小学校時代から特に停滞することなく、小、中、高と順調に成長を重ねていった」という実例も数多くある。
 そういった選手にありがちな「2大あるある」を最後に紹介する。

●成長が遅く、小学生時代に体格に恵まれなかったタイプ
 成長が遅く、どんなに体格に恵まれていなくても、中学生かと見間違うような早熟タイプの小学生たちともハンデなしの勝負を強いられるのが少年野球の世界。体格、パワー面で劣ると、「あの子センスあるね〜」という評価はいただけたとしても、突出した成績を残すことはなかなか難しいもの。しかし、必然的に、小さい体を目一杯フルに使おうとするため、合理的なフォームが身に付きやすいという大きなメリットもあり、後に体格が出来上がってきたときに、大きな飛躍を遂げやすい。
 東北楽天の田中将大投手が中学時代に所属していた宝塚ボーイズの奥村幸治監督から、以前、こんな話を聞いたことがある。
「経験上、中学、高校でエースになるピッチャーは小学生時代、体格に恵まれず、よく打たれたような子が案外多いんです。彼らはパワーで勝負できない中、少しでもいい結果を出すため、緩急、コントロール、キレといったあらゆる要素を駆使した、工夫満載のピッチングを小学生の段階で経験済みだったりする。パワーに頼らない、合理的なフォームも身に付きやすいし、早い段階で天狗になることもない。そういった子らは、後に体ができてきたときに、とてつもない成長を遂げたりする。その結果、強豪校のエースピッチャーの座を射止めたりするんです」

●幼少期に公園や校庭等で徹底的に遊び、走り回っていたタイプ
「こいつすさまじい身体能力してるな! これはもう指導者が教えられる部分じゃないな!」と唸らされる選手の幼少時代を振り返ると、大半がこのタイプだったりする。幼稚園では机に5分と座っていられなかったが、校庭は一日中走り回ることができる。ジャングルジム、鉄棒、登り棒、といった園内のあらゆる道具を友達のように使いこなし、服はいつだって、泥だらけ。神経系の大部分ができあがる貴重な5,6歳の時期に、やんちゃでエネルギッシュな幼少時代を過ごしていた子らが、数年後「身体能力抜群の少年野球選手」と呼ばれる例を数多く見てきた。こういった選手は体格と技術の向上が、野球のパフォーマンスアップに直結しやすく、停滞感にさほど悩まされずして、上のステージへ進んでいく傾向が強い。
 逆に、身体能力面において、悩みを抱える子たちの幼少時代の過ごし方を親に尋ねると、
「危ないから、あまり外で遊ばせなかった」
「服を汚すと叱っていた」
 といった答えが返ってくることが多い。「今にして思うと、もっと外で遊ばせればよかった」と後悔する親をたくさん見てきたが、神経系の要素が構築される旬の時期は思いのほか早い段階で訪れ、そこを逃してしまうと取り返しはつかない。
 これから野球育児をスタートする方たちは、人生で一度しか訪れない、この旬の時期だけはくれぐれも逃さないようにしてほしい。

少年野球指導者の使命


「今年で100人近い教え子が卒団していったことになるわ、おれ」
「おれもそんなもんやわ。思えばいろんな子がいたなぁ〜」
「ひとりひとりに思い出があるよね〜」
「全員が野球選手になれるわけじゃないんだけど、全員が純粋に野球選手を夢見ているような大事な時期だから責任は重大だよね」
「その夢が少しでも先に延びるように、手助けするのが少年野球指導者の大きな使命なんちゃう?」
 その場にいた全員が大きく頷いた。




※次回更新は1月15日(火)になります。

文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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