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file#011 辻孟彦(投手・中日)、岡島豪郎(捕手・楽天)の場合

◎辻孟彦(中日)と岡島豪郎(楽天)のアマチュア時代

 今回はこれまで意識してきた流れとは少し趣向を変え、番外編的な内容にしようと思う。登場するのは今年ルーキーイヤーを過ごした新人、辻孟彦(中日ドラフト4位)岡島豪郎(楽天ドラフト4位)の2人だ。
 まず2人がどのような選手であるか、軽く触れておく必要があるだろう。辻から紹介すると、京都外大西高から日本体育大を経て、昨年秋のドラフトで中日に指名された右上手投げの投手だ。高校時代の同期には1年時に夏の甲子園準V投手となった本田拓人(元明石レッドソルジャーズ)がいた。実は辻も本田も中学時代は京都ヴィクトリーズ(ボーイズリーグ)の一員で、当時は辻がエースで本田は3番手だったというから驚きである。一緒に進んだ高校で立場が逆転し、一躍注目を集めた本田の影で、辻は1年の頃はヒジの故障に悩まされたが、自分の代になってようやく投げられるまでに回復。3年夏の甲子園では2回戦の長崎日大戦で先発もしている。
 そして、大学時代は首都大学リーグで下級生の頃から登板。4年春には今年のドラフトでも注目された菅野智之(東海大→巨人1位)と直接対決を制すなど、エースとしてフル回転しリーグ制覇に貢献。大学選手権にも出場した。中日1年目の今季はファームで2勝7敗とプロの厳しさを味わう結果となったが、将来の有望株と言っていいだろう。
 そして、岡島は群馬の関東学園大付属高の主力捕手としてプレー。甲子園出場はない。だが、白鴎大に進学後は1年から活躍し、2年の時は外野手として出場の出場が多く、ベストナインに選ばれた。その頃から身体能力の高い選手として名前が知られるようになり、4年時は捕手中心の出場で首位打者を獲得するなど、さらに実績を残している。そして、昨秋のドラフトで楽天から指名されて入団。プロ1年目から正捕手の嶋基宏の故障などによってチャンスを得ると、43試合に出場。サヨナラヒットを2本打つなど、存在感を十分示した。
 とまあ、一見なんの接点も無さそうな2人をなぜ同時に取り上げるのか? それは、彼らが中学時代の全国大会で対戦していたからであり、私がその試合を見ていたからである。それは、もう10年近く前のことだった──。

◎ボーイズ全国大会で2人の対戦を目撃

 2004年3月下旬。私は関西に飛んでいた。中学硬式の団体であるボーイズリーグの全国大会が大阪で開催されていたのだ。この大会は大阪の強豪・八尾フレンドが優勝するのだが、辻は京都ヴィクトリーズ、岡島は大田ボーイズの選手として1回戦で対戦していた(結果は4対0で京都の勝利)。
 実を言うと、私はこの2人の記憶を脳髄の奥底に沈めてしまっていた。気がついたのは、当連載のネタ探しのため昔の写真を物色していた時の何気ないひらめきからある。それを当時の資料と照らし合わせて事実であることが判明した、そんな流れだ。
 とはいえ、全部が全部「記憶にございません」ということはさすがにない。要は中学時代の彼らと高校生以降の彼らのデータが頭の中で繋がっていなかったというわけだ。だから、最初に判明した時は、「辻ってあの辻!? 相手チームの岡島ってあの岡島か!?」と、まるで宝物を探し当てたかのように興奮してしまった。自分の記憶力、連想力の無さに嘆くことなどそっちのけで…。



 だが、当時の記憶の一部始終を思い出せるかと問われれば、それはやはり厳しいものがある。そこで、写真の他に書き留めていたメモを頼りに、当時の2人の姿を思い出しながら再構築していきたい。

◎大車輪投法の辻、中学生らしからぬスピードの岡島

 辻については、とにかく普通にしているだけで目立つほどの大柄な選手であった。そして、その特異な投球フォームが記憶の保存に一役買ってくれた。当時は極端なアーム投法だったのだ。
 ネット裏から見ると、まずテークバックで右腕が伸びたまま大きく背中側に入る。そして、それはたたまれることなく、そのまま肩を中心にして時計の長針が5時方向→2時方向へ「グルン」と勢い良く回るのだ。それを当時の私は「ダイナミックな羽ばたき投法」という表現でメモしている。地肩が強いからこそ成立する投法だが、体格の大きさも乗じて投げているボールは大変力強かった。


 ただ、当時の私の評価としては、正直「この投げ方では故障してしまう。先行きは厳しい」と思っていた。そうならなかったのは、高校時代のヒジの故障後、フォームがコンパクトになったからであろう。大学時代の辻は、背中に深く入るところは若干当時の面影を残していたものの、腕を引き上げる動作ではヒジを自然にたたんでおり、肩よりも体幹を中心にしてスムースに回転していた。


 一方、岡島については正直に暴露してしまうと、辻ほどは記憶に残ってはいない。ただ、この大会では投手はとりあえず見た選手全員を写真撮影し、野手は気になった選手のみ撮影する“ルール”を自分自身に課していた。その意味で、写真が残っていたという時点で「私の気になる選手」として網に引っかかっていたことになる。大田ボーイズでピッチャー以外に写真に収めた選手は彼一人だった。
 さらに、当時控えた私のメモには岡島についてこう書いてある。
「能力的にいいタイプ(注:多分、“身体能力が高い”と言いたかったのだと思う)の捕手だが、まだ周りがみえていない。ゆっくりでいいバント処理をあせって悪送球。その後引きずって捕逸も。けど、投げる型はすごくいい」
 このメモを読み返して、二塁送球時のスローイングが流れるようにスムースで、肩自体もかなり良かったことが思い出された。


 また、4番に入っていた打撃では、一塁のかけ抜けタイムも測っている。その結果は4秒09。この大会で測定したのは数人程度だったが、たとえば優勝した八尾フレンドの2番打者で、関大一高→関西大とプレーした北出明義のセカンドゴロ時が4秒49。それ以外の選手はもっと遅く、4秒60前後が多かった。それを踏まえると、岡島のタイムはかなりのものである。
 ところが、私はこれだけの情報を得ていながら、この大会の取材記事を書いた時には岡島のことをまったく紹介していなかった。今さらながら、当時の私はなにか大変な失態をしてしまったのではなかろうか? そんな気がしてくる資料である。

◎大声で「知ってるぜ!!」とは言えないが応援はするぜ!!

 あまり自慢できない話だが、当時の私は中学硬式の知識が皆無に等しかったので、とりあえず現地に足を運び、自分の感性で「いい」と思った選手は取り上げるようにしていた。「いい選手は誰が見ても良い」という考え方である。
 ところが、その後、中学硬式の情報を得意とするライターが現れ、得ようと思えばある程度情報が得られる環境になった。そのため、中学硬式については、積極的に取材に行かなくなってしまった。
 しかし、当時のような何も後ろ盾がない中で、血眼になってダイヤの原石を見つけようという意欲はやはり大切だ。自分の目で見て判断するという方法論も、実績や情報ソースを発信する側の余計な先入観が入らないからかえっていいのかもしれない。10年経った今になって、自分の感性があながち間違ってはいないということも証明されたわけだし…。そういう意味では、この2人の写真は写りの良し悪しは別にしても、個人的に心に残るカットとなった。


 とはいえ、自分の記憶のデータベースがうまく機能しなかったことについてはかなり反省している。だから、今回は「俺はアイツを知ってるぜ!!」と声高らかには威張れない。トーンはあくまで控えめに、ささやく程度に留めておこう。罪滅ぼしと言ってはなんだが、彼らがプロで末永く活躍してくれることを心から期待している。


文=キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。

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