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第七回 チーム選びの落とし穴(1)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第七回目。今回は野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「チーム選び」について語ります。

◎少年野球と「いいチーム」の定義

「今日、買い物の途中で、久しぶりに会った4年生の男の子を持つおかあさんに、『今、入ってる少年野球チームから別のチームに替えたいんだけど、どこかいいチームないかなぁ?』っていわれたのよね」
夕ご飯の最中、妻がそんな話を切り出した。

「なんで替えたいと言っているの?」
「その子はあまり上手なほうじゃないらしいんだけど、一生懸命休まずに練習には参加してるんだって。でもいざ試合になると、普段休みがちでも上手な子の方が使われるみたいで…。いくら頑張っても試合に出してもらえないから、親も子もやるせない思いに駆られてるみたい」
「あのチーム毎年強いけど、昔から、そういう声がよく聞こえてくるよなぁ。特にレギュラーじゃない子の親から」
「試合に出れないばかりか、試合に連れて行ってもらえないことも多いんだって。送迎の車の数が足りないから試合に出る子優先で…みたいなことがよくあるらしくて」
「応援も満足にさせてらもらえないわけか…。サブとしてベンチの仕事を一生懸命にやって、裏方としてチームを支えるというやり甲斐すら感じられないなら、確かに心も萎えちゃうよなぁ」

 試合に選手を起用する立場からすれば「勝つ確率を少しでも高めるために普段休みがちであろうが、試合で結果を出してくれる上手な子を使う」というシンプルな道理なのだろう。しかし、その発想は「勝利至上主義」と言い換えることもできる。これに苦しめられ、“少年野球生活”が楽しくなくなってしまった状態の親子をこれまでに数多く見てきた。

「勝ちたいという気持ちはよくわかるんだけど、『子どもが主役の少年野球の世界で、勝利至上主義を当たり前のように振りかざしてもいいのか?』っていう話になるんだよな」
「プロならわかるけど、少年野球の世界がそれでいいのか? っていうとこよね…」
「といっても、あのチームの考え方はそうそう変わらんで。下手な子は練習の邪魔になるからやめてもらって結構、って感じやもんな。4年生だったらまだ仕切り直せるやろ。新しいチームに移籍してリセットするのは正解ちゃう?」
「強くなくてもいいんだけど、『各選手の日々の頑張りをちゃんと認めてくれて、組織に属しているやりがいをちゃんと感じられるようなチーム』がいいんだって。『いいチーム』の定義がはっきりしてるから、アドバイスはしやすいよね」

 確かにそうだ。「いいチーム」と一口にいっても、その家の考え方、求めるもの、子どものタイプなどによって「いいチームの定義」はさまざま。独身の方に「誰かいい人紹介してよ」と漠然と言われるよりは、「年収二千万以上の人、紹介してよ。そのかわり顔も身長も一切問わないから。結婚後の浮気もぜんぜんオッケー!」などと具体的に「いい人」の定義を述べてくれた方が、紹介しやすいのと同じ。その人自身が満足のいく「その後」を送る確率だって高くなるに違いない。

◎そのチームを選んだ理由

 わが子の野球少年化を企む各家庭は、いったいどういった要素に重きをおいて野球チーム選びをおこなっているのだろうか。

「なんで今のチームに子どもを入れたんですか?」というやりとりは、自分の子供のチーム以外の方々の含め、これまでに数えきれない程かわした気がする。その分、「チームを選んだ理由」は多岐多様にわたった。
 意外に多いのは、「子どもの友達が先に入っていたから」、「仲の良いお母さんの息子が入っていて、誘われたから」といった“知り合いがいるから心強い”系の理由だ。
 このパターンは長男を持つ家庭に多い印象がある。第一子が野球を始める時は、子どもにとっても、親にとっても未知の世界に飛び込むようなもの。少しでも心細い要素を排除したいという気持ちはよく理解できる。

「上の子が先に入っていたから成り行きで」。
 これは弟、妹組の王道ともいえる理由だろう。下の子が上の子の活動にひっついて帯同するうちに「自分も入る!」となるケースは多い。仮に下の子に野球をする意思がなくても、チーム関係者たちから「下の子はいつから入るの?」というまるで既成事実のようなフレーズを定期的に親子で浴びるうち、いつしか「下の子も入れるのが当然の流れだよな」となってしまう。もはや洗脳レベルの成り行きである。
 また、水面下で下の子が「野球はやりたいけど、兄と同じチームでやりたくない」と言うようなことがあっても、親は「下の子を他のチームに入れたら、今のチームに不満があると思われる」と考えてしまうだろう。かくして、第二子以降の子どもは、かなりの確率で兄や姉と同じチームに入る運命をたどる。

 他にも、下の子を上の子と同じチームに入れる理由として「所属チームが上の子と下の子で分かれたら親の当番の負担が倍になるから」といった“親の負担一極集中化目的”や、「お兄ちゃんと一緒のチームに入ったら部費の兄弟割引が適用されるし、使わない手はない」といった“節約目的”などがある。

「あのチームはお茶当番が義務じゃないから」という理由もしばしば聞くが、これは必ずしも「親が楽をしたいから」という理由ではない。
「下の子がまだ乳飲み子なので、土日ずっと外に出ずっぱりになれない。当番がないところがよかった」とか、「親の介護があるから、土日にどっぷりとグラウンドに張り付くわけにはいかなかった」とか、「共働きで土日も仕事だから」とか。
 そう、残念ながら、全ての家庭の親が、週末に子どもに付きっきりになれるわけではない。やはりこのような理由でチーム選びをすることも少なくないだろう。
他に「あのチームは、お茶当番がない上、土日共、弁当持ちで朝から晩まで活動してくれるから。私も主人も土日が仕事なので、中途半端に半日活動だと、子どもがひとりで家にいることになってしまう」とか「平日練習が放課後にあるから選んだの。共働きで仕事の帰りが遅く、子どもが一人で留守番させる時間を少なくしたかったし、居場所がわかっているから安心」などなど。
 こうなると、もはや野球チームに入れたのか、保育所にいれたのか、わからなくなるような理由だが、野球少年を持つ共働きを強いられた家庭にとっては切実なる問題。“その家庭の状況にとって都合のいいチーム”という要素も「いいチーム」の定義にカウントしても異論はないだろう。

◎まだまだある、様々な理由

「男の子だし野球は習わせたいけど、一家でガチに少年野球の世界にのめりこみたくはない」、
「うちの子は野球が好きなわけじゃないし、運動神経もない。ほどほどのチームでいいの」、
「運動不足解消レベルでいい」、
中には、こんな風に語る親もいる。
 少年野球活動を体操教室のような、お稽古事のひとつという感覚でとらえているパターンだ。そうなると、チーム選びの理由というか基準も、
「活動時間、日数が少ないから、週末の家族の時間があまり犠牲にならずに済みそう」、
「練習時間が少ないから、野球を始めるには手頃なチームだと思った」、
「練習があまり厳しくなくてゆるいチームと聞いたから、うちのへたれな子でもついていけるかなと思って」、
「うちは中学受験をするつもりなんだけど、運動不足が心配。あのゆるいチームなら6年生の最後の方まで活動をつづけながら、受験勉強に取り組めそう」、
といったものだったりする。

 その一方で、少年野球を「甲子園」や「プロ野球選手」という夢をかなえるための大事なステップと位置づける熱心な親子たちがいる。チームを選ぶ基準も、
「あそこは指導がいいから」、
「あそこは基本から懇切丁寧に教えてくれると聞いたから」、
「甲子園経験者のコーチがいるから」、
「OBが何人も甲子園に出てるから」、
「監督が元プロだから」、
「あの有名プロ野球選手の出身チームだから」、
といったように、一気に熱を帯びた理由が並んでくる。

冒頭に掲げた「いいチーム」の定義。そしてその基準は、家庭の事情や考え方によって、その振り幅はあまりにも大きいということが分かってもらえたと思う。

……と、ここまで書いてきて、ふと「もしかするとチーム選びをする上で一番多い理由かも」と思える、ある基準に触れてこなかったことに気づいた。
 思えば「なんであんな理由でチームを選んだんだろう…」と後悔していた親子は、たいていの場合、この基準の落とし穴にはまっていたような気がする。
 果たしてその「落とし穴」とは? 次回はこの続きを紹介します。お楽しみに。



文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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