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途方もない選手層の厚さ…MLBの下部組織のヒミツに迫る!

 日本時間の4月10日、本拠地デビューを飾った田中将大(ヤンキース)。7回7安打3失点で降板し勝敗はつかず、ここまで2試合で1勝0敗、防御率3.21と、まずまずの成績を残している。

 メジャーでは先発投手の評価基準として、6回を自責点3以内に抑えることをクオリティ・スタート(QS)と呼んでおり、田中は2試合連続でQSを記録している。しかし、ここまでの内容を振り返ると、個人的には田中と対戦した相手打者の恐ろしさを感じるばかりだ。

 初戦では先頭打者のメルキー・カブレラ(ブルージェイズ)が挨拶代わりの一発を放ち、2戦目も2回にジョナサン・スクープ(オリオールズ)が甘く入ったカットボールを見事に打ち返し、3ランを放った。もちろん2人とも田中とは初対戦であり、日本では無敵を誇った田中から、初打席であっさり本塁打を放つとは、やはりメジャーリーグには恐るべき打者がまだまだおり、日本球界とは比べものにならない選手層の厚さを強く感じた。

 メジャーリーグの「知っているようで知らなかった」知識をお伝えするこのコーナー。第3回目は、なぜこれ程までにメジャーの世界は選手層が厚いのか、その理由のひとつであるAAA級やAA級などの下部組織についてクローズアップしてみよう。


メジャーリーガーは何人いるのか?


 まずはおさらいしてみよう。いったいメジャーリーガーは何人いるのか。アメリカン・リーグとナショナル・リーグに分かれているMLBは、全30球団で構成されている。各球団が支配下に置くことができる選手、いわゆるメジャー契約枠の上限は40人。そのうち開幕から8月末までは、ベンチ入りして公式戦に出場できるのは25人までとなっており、これをアクティブ・ロースターと呼んでいる。それ以外の選手はマイナーリーグに出場しながら、25人枠との入れ替わりを待つことになる。さらに9月からはアクティブ・ロースターが最大40人に拡大される。以上をふまえると、8月末までは30球団×25人で750人のメジャーリーガーが、9月以降は30球団×40人で最大1200人のメジャーリーガーがいる計算になる。

マイナーリーグはどこまで層が厚いのか?


 日本の場合は1球団の中に1軍と2軍(及び3軍)が存在しているのに対して、いわゆるMLBの30球団の下部組織であるマイナー球団はAAA級、AA級、A級、ルーキー級と4段階もある。さらにA級も上級(ハイA)、下級(ローA)、短期(ショートシーズンA)と3つに分かれており、メジャー球団と含めるとなんと7軍まである計算になる。5軍にあたるローA級までは全30球団につき1球団ずつ所有できるが、短期A級以下には制限はない。例えばある球団では、短期A級の球団を持っていない代わりに、ルーキー級の球団を2つ所有している場合もある。

 球団数が多ければ当然、リーグ数も多くなる。AAA級はパシフィック・コースト(PCL)とインターナショナル(IL)の2リーグ制で、AA級はイースタン、サザン、テキサスの3リーグ制。ハイA級も3リーグあり、ローA級と短期A級は2リーグ制で、ルーキー級は4リーグある。

 さらにドミニカ共和国やベネズエラに拠点を置くサマー・リーグもルーキー級と同じ扱いのリーグとして存在。このマイナー組織の多さやリーグ構成こそ、メジャーリーグの選手層の厚さの秘密であることは間違いない。

厳しい生存競争は選手だけではない!


 何十万というメジャーリーガー候補生から選ばれし選手がメジャーリーガーとなる。すさまじい競争率だ。しかし、生存競争が激しいのは選手だけではない。その選手たちをまとめる監督はMLB全30球団に1人ずつしか務めることができない役職になる。

 日本の監督は主に選手時代の実績や人気で選ばれやすい。MLBでは、もちろん選手実績が素晴らしい選手が、指導歴が浅くても監督に就任することはあるものの、選手の実績はなくても指導者として叩き上げられ、そこで実績を詰めば、監督を務められる可能性はある。指導者を志す人の多くはMLB監督が目標と考えると、選手以上の競争率だろう。

 田中の所属するヤンキースの監督は、自身もヤンキースでプレーした経験を持つジョー・ジラルディ。現役時代は捕手として活躍し、1989年のMLBデビュー後、15年間4球団でプレーした。また、2006年にはフロリダ・マーリンズの監督も務めており、ナショナル・リーグの最優秀監督賞にも選ばれている。


▲ジョー・ジラルディ(イラスト=横山英史/『ベースボールイラストレーション』連載中)

 「とにかく勝つこと」が監督に与えられた使命だ。GM(ゼネラル・マネージャー)らの編成組とは異なり、現場を指揮して選手たちをまとめ上げ、勝利を挙げることが監督の仕事。そして結果が出なければ当然、解雇を突きつけられる。その過酷な生存競争は選手だけではなく、監督にもあてはまるのがMLBの世界である。

MLBドラフトが注目されないのも、選手層の厚さが原因!?


 最後にドラフト制度についても触れておこう。日本ではオフシーズンの一大イベントであるドラフト会議。しかし、MLBでは、日本と異なるシーズン中の6月に開かれることもあって、ドラフトは日本ほど注目されていない。

 その理由は、やはりメジャーリーグのレベルの高さに起因する。NFL(アメリカンフットボール)やNBA(バスケットボール)などは、カレッジスポーツとしてアマチュアレベルでも非常に人気が高く、知名度のある選手が多い。日本でいう高校野球クラスの人気を想像しよう。

 さらにフットボールやバスケットボールでは、そのドラフトで上位指名された選手が、すぐに活躍するケースが多く、各球団のファンにとってもドラフトの結果が翌シーズンに与える影響が大きいので、必然的に注目するようになるのだ。

 しかし、野球の場合は事情が異なる。カレッジスポーツとして他のスポーツほど人気がなく、上位指名された選手でも、一般のファンが知っている選手はほとんどいない。また指名されてチームに入団しても、前述したとおりのマイナー球団で経験を積む必要があり、すぐにはメジャーリーグで活躍できないのだ。つまりドラフトで指名された選手がメジャーで活躍するのは数年後……というケースもあり、余程の野球マニアでない限り、ドラフトに注目する野球ファンは少ないのが実情である。

 日本とはケタ違いの選手層を誇るメジャーリーグの世界。これからも恐るべき打者たちが、田中将大の前に立ちはだかるだろう。海を渡った先輩投手のダルビッシュ有は当時、メジャー挑戦の理由について「野球選手として相手を倒すのが仕事だが、最近は試合前から相手に“絶対に打てないよ”と言われるようになった。冗談と聞いていても、これではフェアな挑戦ができなくなる」と、コメントした。

 日本球界には好敵手と呼べる打者がいなくなり、新たなライバルを探すために海を渡ったダルビッシュ。昨季、24勝0敗をマークして日本人最強投手となった田中も同じように、皮肉にも無敵になったことで生まれた“虚無感”を消すためにメジャーに挑戦したとすれば、次々と現れるメジャー屈指の打者との対決を恐れることなく、むしろ楽しみにしているに違いない。

参考文献/大雑学6ザ・メジャーリーグ(日本雑学研究会著)


■ライター・プロフィール
鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。“ファン目線を大切に”をモットーに、プロアマ問わず野球を追いかけている。Twitterは@suzukiwrite

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