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「甲子園は近いようで遠い場所」甲子園九十年物語〈1996−2014〉

 甲子園90年の歴史を作り上げてきた人物と共に振り返るこの企画も最終回。今回は1996(平成8)年から90週年を迎えた今年までを振り返ってみよう。過去の連載に比べて、この18年間は鮮明な記憶が残る期間ではないだろうか。それでは早速、振り返ってみよう。

◎15人の偉人で振り返る
〜甲子園九十年物語〈1996−2014〉


<嗚呼、阪神タイガース……暗黒時代の到来>

 1996(平成8)年、球団ワースト記録となるシーズン84敗を喫して、4年ぶりに最下位に沈んだ阪神タイガース。野球の聖地・甲子園球場を本拠地とするチームとしては、あまりにも寂しい成績が続く“暗黒時代”のまっただ中だ。

 選手との確執が噂された藤田平監督から翌1997(平成9)年にバトンを受けたのは、自身3度目の監督となった吉田義男監督。ところが主砲として期待された新外人のマイク・グリーンウェルが「神のお告げ」で途中帰国するなど、シーズン5位に終わる。

 1998(平成10)年はルーキーの坪井智哉が活躍し、藪恵壹は11勝10敗で、初めて勝利数が敗戦数を上回る。しかし、中日から移籍したアロンゾ・パウエルや大豊泰昭らが不振で、8月には球団ワーストの12連敗を記録。最下位に沈み、吉田監督は辞任した。

 この年のオフ、「猛虎再建」のため白羽の矢が立ったのが、ヤクルトで監督を務めていた野村克也だ。就任1年目の1999(平成11)年は野村フィーバーに沸き、前年にテスト入団した遠山奬志を松井秀喜キラーに育て上げるなど「野村再生工場」の手腕にファンの期待は高まった。ところが、9月には2年連続球団ワースト記録の12連敗を喫し、最下位に終わった。

 そして2000(平成12)年以降も、世紀が変わろうが阪神は変わらず。「F1セブン」として売りだした赤星憲広らの新戦力が台頭、選手の成長は見られるも、チーム全体としては、波に乗れず。結果的に、球団史上初となる4年連続最下位に終わってしまった。野村監督はチームの柱となる選手の獲得を球団に要請するも、金銭的な理由でアッサリ断られ、さらに夫人の野村沙知代が脱税容疑で逮捕された責任もあり、監督を辞任したのだった。



<“松坂世代”が煌めいた80回記念大会>

 こうした阪神の暗黒時代を尻目に、大いに盛り上がりをみせていたのが高校野球だ。記憶にも記録にも残る名勝負・名試合が数多く生まれた。

 1996(平成8)年夏の甲子園決勝では、松山商高が延長10回裏、矢野勝嗣の「奇跡のバックホーム」で熊本工高の走者を本塁封殺し、サヨナラ負けを阻止。その直後に勝ち越して、春夏を通じて「大正」「昭和」「平成」の3年号連続の優勝を達成した。

 80回記念大会なので全国から55校の代表校が集結した1998(平成10)年夏の甲子園は、なんといっても松坂大輔(現メッツ)、「横浜フィーバー」で盛り上がった。PL学園高との延長17回の死闘を制し、準決勝の明徳義塾高戦は6点差を、8回、9回で逆転サヨナラ勝ち。そして、59年ぶりとなる決勝でのノーヒットノーランを成し遂げて、京都成章高を撃破。史上5校目の春夏連覇とともに、この代は公式戦で一度も負けなかったという伝説も作った。


 この大会では、後に“松坂世代”と呼ばれる同学年選手の活躍も記憶に残っている。投手では鹿児島実業高の杉内俊哉(現巨人)や浜田高の和田毅(現カブス)、野手陣では松坂の同僚でもあった後藤武敏(現DeNA)、帝京高の森本稀哲(現西武)、敦賀気比高の東出輝裕(現広島)ら、甲子園を沸かせた後に、プロでも活躍した選手がズラリ。あの夏から16年経った今でも、年齢という壁と闘いながらも、彼らは現役選手として奮闘している。

<やっぱりタイガースが好きやねん!>

 そのプロ野球界に目を転じると、2002(平成14)年には阪神タイガースに待望の救世主がやって来た。野村監督の辞任を受けて、新監督に就任した星野仙一(現楽天監督)である。この年、オープン戦から勝ちを意識して戦った。シーズン後半に失速し、10年連続Bクラス(4位)で終えたが、チームは戦う集団に変わっていった。そして、翌2003(平成15)年、開幕から快進撃を続けて18年ぶりのリーグ優勝を果たしたのだった。

 2004(平成16)年からは岡田彰布が監督に就任。ジェフ・ウィリアムス、“松坂世代”でもある藤川球児(現カブス)と久保田智之(現阪神)の「JFK」を武器に、2005(平成17)年にはリーグ優勝を果たし、2008(平成20)年まで4年連続Aクラスを確保。暗黒時代を払拭した、岡田監督の功績は大きい。

<甲子園で活躍した原石たちは、プロの世界でも輝き続ける>

 再び、高校野球に話を戻すと、2006(平成18)年は、早稲田実業の斎藤佑樹(現日本ハム)が甲子園の主役になった。センバツでは関西高と、夏の甲子園では決勝の駒大苫小牧高と、春夏連続で延長15回引き分けを経験し、また再試合では両方ともチームに勝利をもたらす活躍をした。この夏の劇的な決勝で投げ合い、そして最後の打者として三振に仕留めたのは、ご存じの通り田中将大(現ヤンキース)である。

▲斎藤佑樹


 そして2年前の2012(平成24)年には、大阪桐蔭高が藤浪晋太郎(現阪神)を擁して史上7校目となる甲子園春夏連覇を達成。その藤浪はドラフト1位で阪神に入団し、プロ入り後も、甲子園のマウンドで戦っている。

 甲子園球場設立90周年にあたる今年の夏の甲子園は、その大阪桐蔭高が優勝して幕を閉じた。ちなみに今夏の入場者数は、7年連続で80万人に到達したという。阪神タイガースの観客動員数は、今年もすでに200万人を突破し、数多くの野球ファンが甲子園に訪れている。

 春夏に行われる高校野球でファンを魅了し、プロのシーズン中は球界トップともいわれる熱い阪神ファンが集い、熱狂の渦となる甲子園。また、甲子園で活躍した高校球児がプロ入りし、プロ野球ファンを沸かせることも多い。日本野球界の核であり、礎(いしずえ)になっているのは、阪神甲子園球場であることは間違いない。


【pick up!】
マイク・グリーンウェル、坪井智哉、藪恵壹、野村克也、遠山奬志、赤星憲広、矢野勝嗣、松坂大輔、星野仙一、ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之、斎藤佑樹、田中将大、藤浪晋太郎



◎Man of the period〈1996−2014〉
JFK

 あえて1人の人物だけでなく、3人セットで表彰したいのが「JFK」だ。ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之の頭文字のアルファベットを並べて呼ばれる救援投手ユニットは、間違いなく2000年後半以降のプロ野球に大きな衝撃を与えた。7回以降、1イニングを1人ずつ任せられる盤石な投手リレーは、「6回までリードすれば勝てる」という精神的優位さをチームにもたらし、同時に相手チームには焦りを与えた。この阪神の必勝パターンは他球団に大きな影響を与え、続々と同じ戦法をとるチームが増えた。

 例えば、ロッテでは薮田安彦、藤田宗一、小林雅英の「YFK」や、横浜(現DeNA)では木塚淳志、川村丈夫、加藤武治、マーク・クルーンの「クワトロK」など。そして、現在進行形で大活躍しているのが、オリックスの比嘉幹貴、佐藤達也、平野佳寿らで形成するストッパー陣が首位争いの原動力になっている。

◎Man of the period〈1996−2014〉
野村克也

 1989(平成元)年に野球殿堂入り後、1990(平成2)年にヤクルトの監督に就任。4度のリーグ優勝、3度の日本一に導くなど、輝かしい実績を引っ提げて、1999(平成11)年から3年間、阪神の監督を務めた。ところが、結果はご存じの通り、3年連続最下位の不名誉な記録を残した。

 しかし、野村監督の功績は大きかった。星野監督のもとで優勝した2003(平成15)年、中心選手だった桧山進次郎は「野村さんが監督だったときは、言ってることが理解できなかったけど、最近はわかるようになった」と語っている。野村監督がうるさく必要性を説いた、データ活用を含めた“無形の力”に選手たちが気付いたのが、野村監督解任後だったのは何とも皮肉なことだ。

◎Man of the period〈1996−2014〉
藤浪晋太郎

 「(甲子園球場は)近いようで遠い場所です」こう語るのは、2年前に甲子園春夏連覇を達成し、その年のドラフト1位で阪神に入団。プロ野球選手となった今も甲子園を本拠地にしている藤浪晋太郎だ。

 昨季は高卒1年目ながら、開幕当初から先発起用され、大事に起用されたこともあり、年間を通して活躍した。特に8月は4勝で負けなし、という強さを発揮し、また、甲子園球場での高校時代からの不敗神話はオールスター前まで続けていた。

 そんな“甲子園の申し子”にとっての原点は、高校2年時の大阪大会決勝戦だという。「(甲子園に)行ける!」と思った瞬間、自身の投球で5点のリードを守れず、試合にも敗れてスルリと逃げていった甲子園。その悔しさをバネに3年時には春夏連覇を達成し、プロ入り後も油断することなく、日々、精進している。

 藤浪にとって「近くて遠い場所」だった甲子園は、これからも自身に厳しさと優しさを与え、大きく成長させてくれる場所になるはずだ。



■ライター・プロフィール
鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

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