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第三回 侍ジャパンと日本球界のこれから

 現在発売中の『野球太郎No.002』で球団経営の視点からドラフト戦略について語ってくれた楽天オーナー代行、パ・リーグ理事長でもある井上智治氏。しかし、話はそこで終わらなかった。セとパにおけるリーグビジネスの違い、侍ジャパンの問題点、そして野球という競技そのものが抱える課題などなど、「野球ビジネスの現在地」について球界のキーマンが鋭く迫ります。今回は三週連続企画の最終回となります。

【今後アマチュア球界とどういう関係性を築くのか】
─── いよいよ「侍ジャパン」の活動が始まります。
井上
 「侍ジャパンを常設化してビジネス部門を日本プロ野球機構の中に作る」という話は、選手会にも確約してるし、世間に対しても宣言したに関わらず、9月頭に発表してから2カ月近くたった今(※取材は10月末)でもあまり進んでいない。一般的なビジネスとして考えれば「一体何をやってるんだ?」と思われても仕方がない。だから、パ・リーグの球団は「これはマズイ」ということでいろんな提案をしているんですけども、それらもなかなか前に進まない。
─── 提案というのは、例えば?
井上
 パ・リーグの提案としては、アマチュアとの関係性を戦略的に見直すべきだと。例えば、せっかく「侍ジャパン」を常設化するというのであれば、U-23やU-18といった、各世代のアマチュア組織を巻き込んで一緒にやることも真剣に考えるべきだし、その取り組みに対してプロ野球としてお金を投入するという形で対応すべきだ、という話をしているんです。
─── 年代別代表制は楽しみですね。
井上
 ちょうど今年の10月1日から日本野球機構が「一般社団法人」に移行したんですが、その前の社団法人時の残余財産が30億円強あるんです。このお金は公益支出計画を考えて、公益的なことに支出しなければならないんです。
─── そんなお金があったんですね。
井上
 アマチュア球界との関係に伴うのであれば公益支出にあたるから、今後アマチュア球界とどういう関係性を築くのかを戦略的に考えて、野球の裾野を広げる方向で議論をしましょう、という提案をしているんです。国際的な問題についても、国際野球連盟(IBAF)という組織があるので、MLBが完全に世界の野球を牛耳るんじゃなくて、IBAFとしっかり組んで日本でももっと主体的に国際的な野球のことにも取り組みましょう、という話もしているんですけども、なかなか話が前に進まない。
─── なぜなんでしょう?
井上
 やはり、まだプロ野球は、リーグビジネスという側面が強いという考えが共有されていない。、球団個別での取り組みが優先され、その先のリーグビジネスの展開は個別球団の利益を損なう可能性があると躊躇する。アマチュアへの施策だったり、裾野を広げようという話をしても、球団によっては自分のところでジュニア組織を作って独自にやろう、と考える傾向があるんですが、個別球団の問題としてじゃなくて、やっぱり球界全体で共通してやることが大事じゃないかと思うんですが。
─── そう思います。
井上
 例えば、義務教育で野球型の競技が授業で取り入れられるとすると、そういう球技を指導する先生方が必要になります。「そういう人たちに対してキチンと教室を開こう! 裾野も広げられるし一石二鳥になるからもっと真剣に取り組みましょう!」という話が出ても個別の事業協力で終わり、組織全体で戦略的に取り組む話にならない。何のために日本プロ野球機構という一般社団法人があって、予算を組んで事業としてやっていこうとしているのか、っていうのは、ちょっと見えなくなっちゃいます。

【球界のグランドデザインが必要】
─── ファンの立場からすると、WBCだけじゃなく、アジアシリーズも含めた国際的な展開を期待してしまいますし、それが野球人気の裾野を広げる上でも重要になってくると思うのですが。
井上
 IBAFでは今、2015年に「IBAFプレミア12」という国際大会をやろう、という計画があって、先日「日本開催を目指そう」という部分では合意がなされました。だから、それに向けてちゃんと「侍ジャパン」の常設化をどうするか、日本野球機構の事業部門をどうしていくのかを議論していかなきゃいけないんです。
─── でも、なかなか前に進まない。
井上
 そもそも今度のWBCはもう2013年の3月に開催されるし、12月にはキューバ戦もある。そうなると、もう9月・10月の段階できちんとした体制を組んでないと全然ダメじゃないですか。それなのに、「3月くらいまでにボチボチやればいいですなぁ」みたいな話をする人たちもいる。3月じゃWBCも終わっちゃってます。一体どういう風に持って行きたいのかが全くわからない状態ですね。
─── 球界をどうグランドデザインするのか、という話かと思うのですが。
井上
 そうです。球界のグランドデザインが必要なんですが、それができていない。日本野球機構で長期・中期・短期の課題出しをして問題点をまとめて戦略、実施計画等を立案すべきなんです。アンケート調査で「今、野球界がどうなっているのか状況分析をして、どういう施策を打たないといけないのか」を議論しようという話を進めています。でも、本来であれば、そんなの、パ・リーグが提案する以前に12球団で考える問題です。だから、なんのために日本プロ野球機構があるんですか、会長(コミッショナー)の役割はなんですか、事務局は何の仕事をする組織なんですか、という基本的な部分から真剣に考えないといけませんね。


■プロフィール
★井上智治(いのうえ・ともはる)/1955年生まれ、大阪府出身。1994年に弁護士からビジネスの世界に転身して井上ビジネスコンサルタンツを設立。2004年に楽天・三木谷浩史氏にプロ野球団設立を持ちかけ、東北楽天を創業し、楽天野球団取締役となる。2005年からはオーナー代行に就任し、また2008年からはパ・リーグ理事長を5期連続で務め、パ・リーグの発展を支えてきた。

★インタビュー=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。 ツイッター/@oguman1977

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