週刊野球太郎
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第十三回 ポジショニング

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回第5回開催の詳細をお知らせいたします)


個人の守備位置

キビタ:守備位置は重要なチェックポイントです。
久保:ポジショニングには必ず意図があるので、それが見抜けるようになると楽しいですよね。
キビタ:ただ打った、投げたではなく、1点をやらないためにどういう守備隊形を取るのか、個人の特徴なども踏まえて見ていくと、野球観戦が面白くなります。ちょっと懐かしい話になりますが、これから紹介するのは高木豊さん(現DeNAチーフ兼打撃コーチ)の現役時代の話です。
久保:1980年代後半の話になりますか。
キビタ:当時のセ・リーグのセカンド、高木豊さん、正田耕三さん(元広島)、岡田彰布さん(元阪神ほか)、篠塚和典さん(元巨人)の4人は、それぞれポジションニングに特徴がありました。
久保:どんな違いがあるのでしょう?
キビタ:まず正田さんは比較的オーソドックスな守備位置を取っていました。高木豊さんと岡田さんは肩に自信があったから、通常の位置よりも二塁ベース寄りに守っていました。
久保:なんでですか?
キビタ:一、二塁間のゴロは多少遠くなっても、送球の距離が短いから追いつきさえすればアウトにできます。反対に二塁寄りの打球には、初めから寄っておいた方が投げやすくなります。だから通常よりも二塁ベース寄りに位置を取っていたそうです。
久保:逆に一塁寄りに守っておいて、センター前に抜けそうな打球を追うというのもありかと思うのですが。
キビタ:ただし二塁ベース付近の打球は、捕った後に身体を切り返さないと送球できません。だから二塁方向の打球は地肩の強さで素直に投げられるよう、あらかじめ寄っておくのでしょう。その方が深い当たりにも追いつけます。反対に一、二塁間なら追いつきさえすれば、そのままの流れでアウトにできます。こうやって守備範囲を広げていたのだと思います。
久保:そして篠塚さんは?
キビタ:篠塚さんの場合はあまり肩が強くなかったので、通常よりも少し浅めの守備位置を取っていました。
久保:最近は「定位置」を表示してくれる親切なテレビ中継もありますけど、人それぞれ微妙に違うんですね。
キビタ:プロのレベルになると「自分の得意な打球方向をわざとあけておいて、そこに打たせてアウトにする」といった駆け引きも出てきます。その逆もあります。
久保:誘って捕りに行くなんて、ほとんどサッカーのゴールキーパーのような話ですね。
キビタ:いずれにしても、肩が強くて守備に自信のある内野手は深めに守ります。この基本原則は、どのカテゴリーでも変わりません。




連携を見る

キビタ:今度は内野の連携について、高木浩之さん(元西武)のお話を紹介します。高木浩之さんがセカンドを守っていたとき、ファーストはカブレラ選手(元西武ほか)でした。プロ野球ではキャンプから「ここの打球は誰が捕る」「この場合は誰がベースカバーに入る」といった連携を確認していきます。しかしカブレラ選手は気まぐれに動くので、隣にいた高木浩之さんがいつもフォローに動き回っていたそうです。
久保:それはひどい話ですね。
キビタ:高木浩之さんいわく「1人で2ポジションを守っているようなもの」だったそうです(笑)。一、二塁間に飛んだ前へのゴロで、ここは高木浩之さんが捕りに行く約束になっているのに、急にカブレラ選手が捕りにきたり…。
久保:そうなると高木浩之さんが一塁のベースカバーに行かないといけませんね。
キビタ:反対にカブレラ選手にやる気がなくて、ゴロを捕りに行く気配がないときは、高木浩之さんが前に出て捕らないといけません。何が言いたいかというと、セカンドは様々な状況に対応しないといけないから、難しいポジションだということです。ショートの方が身体能力を求められますけど、セカンドは逆回転の動きだったり、カバーリングだったり、細かい動きが求められます。連携やカバーリングがしっかりしているかどうかは、チームの守備力の指標になってきます。



久保:話は少しそれますけど、カブレラ選手は守備でちゃらんぽらんな割には、頑ななまでにDHを拒否していました。
キビタ:オリックス時代は、それで当時の岡田監督と衝突して、開幕スタメンから外されていましたね。
久保:守りが上手くない選手でも、守りたいんでしょうか?
キビタ:詳しいことはわかりませんが、やはりリズムがあるのでしょう。李大浩選手(オリックス)もDHよりもファーストを守りたいみたいです。

レベルに応じて守備位置も変わる

キビタ:チーム全体の守備位置の話もしておきましょう。ランナーを三塁に置いて、内野が前進守備を敷いているのか、内野でのゲッツーを狙っているのかは、試合の流れを見るうえでポイントのひとつです。
久保:前進守備は「もう1点もやらないぞ」という守り方。カテゴリーごとに守る位置が違ってきます。どのあたりに守るのが「前進守備」なんでしょう。
キビタ:どれくらいの位置に立つかというより、ホームに送球してアウトになる場所に守るというのが前進守備の基本です。もちろん大学、社会人、プロとなるにしたがって肩の強い選手が増えますから、守る位置は高校野球よりも後ろになります。
久保:なるほど。
キビタ:また高校野球の場合は精神的な意味合いも大きいですね。高校生だと試合の流れに飲み込まれることが多いので、「ここを守り切るぞ」という強い気持ちを持たせるために、あえて極端な前進守備を敷くケースが見受けられます。
久保:前に出るから、当然ヒットゾーンも広くなりますし、定位置のフライがポテンヒットになる可能性もありますが…。
キビタ:リスクは承知のうえで、それでも精神面で受けに回らないよう、前に守らせているのでしょう。
久保:「野球はメンタルなスポーツだ」なんてよく言いますけど、強豪校の高校球児でもミスが連鎖しやすいですからね。
キビタ:だから高校野球だと積極的に仕掛けて、相手のミスを誘うという戦い方が効果的になってくるのです。



久保:東海大相模高の門馬敬治監督も以前こんなことを言っていました。「足で動けば、試合が動く。試合が動けば、気持ちが動く」と。
キビタ:それが大学や社会人、プロにまでなってくると技術のレベルが上がってきますから、ちょっとした揺さぶりでは崩れません。基本的に高校野球は「積極的に仕掛けて、ミスを誘う」戦いで、プロ野球は「あまり仕掛けないけど、やるとしたら一発必中」で勝負をかけます。レベルが上がるほど、目に見える仕掛けや揺さぶりが少なくなり、表面的にはお互いに「知らんぷり」を決め込んだような試合になってきます。その代わりバッティングのレベルも上がってくるので、じっくり構えてヒットを待つことが多くなります。
久保:以前アナウンサーをしていたとき「高校野球とプロ野球では野球が違うから、しゃべり方も違ってくるんだ」と説教されたことがあったんですが、何がどう違うかがはっきりしなくて、ずっとモヤモヤしていました。
キビタ:そういう違いがあるんですよ。
久保:昔の自分に教えてあげたいです。


■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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