週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

エースの球数制限を超えたが、残りは1イニング1点差。思い悩んだ時に後押ししてくれたのは子どもたちだった(第36回)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。


一番の理解者は子どもたち?


「よし、信念持って、決めたルールは絶対に守り通すぞ! どんなことを周りに言われても、もう気にするまい!」

 立花龍司氏より頂いた心強い言葉によって自分の中にあった迷いや葛藤は吹っ切れた。

 加えて、選手たちが球数制限、全力投球制限の意図、こちらの思いをきちんと理解し、当たり前のように納得してくれている様子が伝わってきたことにも相当救われた。

「あそこのチーム、ダブルヘッダーでも全部エースが投げてくるんやで。ほんで、またヒジ痛めて、ノースロー状態になってるらしいわ。そんな無茶させて、指導者あほちゃうか? うちのチームじゃ考えられへんな」
「先週、優勝したあそこのチーム、二日間でエースに4連投させて、合計球数、500球超えたんやて。なに考えとんねやろなぁ!? 誰か一人くらい大人で止められる人、いなかったんかいな!?」
「そこまで無理させないと優勝できないんなら、はなから優勝するに値するチームじゃないってことやんなぁ」
「おれは、あんな選手の体への配慮のないチームで野球なんか絶対にやりたくないで〜!」

 試合会場への移動する際に、車に乗せた子どもらが、交わすそんな会話が聞こえてきたりすると、無性にうれしく、ホッとしたものだった。

 しかし、ある時期、エースが球数を使い果たし、降板した後に二番手投手が打たれるという試合が続き、選手たちが最大の目標としていた、県大会出場を結果的に逃がしてしまったことがあった。

 一部の親の不満そうな態度もつらかったが、一番気になったのは、子どもたち自身が内心「こんな大事な大会くらい球数に融通利かせてエースを完投させてもよかったのに。そうしたらぼくたちの最大の目標が叶ったかもしれないのに」と思っているのではないか? という不安だった。

子どもらに結論を委ねた一戦


 県大会を逃した後にやってきた大きな大会で、同じような場面がやってきた。最終回を残し、エースの球数が尽きた。リードはわずか1点。エースをあと1イニング引っ張ったところで、増える球数はせいぜい20球だろう。うまくいけば数球で済むかもしれないし、ケガをする可能性はと問われれば、著しく低いだろう。だからといって、特例を設けたら、子どもたちは「いざとなったら、大人は大きな大会では約束を反故にするんだ。結局勝ちたいがために、無理させるんじゃん」と思いかねない。

 私は、子どもらを集め、交代すべきか、悩んでいることを正直に伝え、結論を選手たちに委ねることにした。もしも選手たちが続投を望むのなら、その希望を飲もうと思う、と。

 選手たちは一様にきょとんとしていた。その顔には「そんなわかりきったことをどうして聞くんですか?」と書いてあった。

「仮にそれで勝ったところで、嬉しくないしなぁ…」
「それじゃほかのチームと同じだよな」
「いつも通り、うちのやり方でやりたいです。それで負けたとしたら、うちの実力がそれまでだった、ということですよ」

 そんな言葉がポンポンと返ってくる。私は目の奥が熱くなるのを感じながら、球審にピッチャー交代を告げ、緊張のあまり、顔面蒼白になっている二番手の子をリリーフのマウンドへと送り出した。それは、それはすさまじいプレッシャーだろう。胸が締め付けられる思いだった。

 バックを守る選手、ベンチ、そして応援席。懸命の声援が飛ぶ中、もぎとった最後の3つのアウト。まるで優勝でもしたかのような騒ぎの中、仲間にもみくちゃにされながら、ゲームセットの整列に向かうリリーフの子の安堵の表情を見た瞬間、足の力がへなへなと抜けていくのがわかった。

少しずつ変わっていた周囲の目


 意外だったのは、試合終了後、観戦していた他チームの指導者や連盟の一部関係者から、次のような言葉をかけてもらえたことだった。

「信念の采配だったね! あんなことができるなんてすごいなぁっていう人、本部席でもけっこういたよ!」
「本当の意味での全員野球を見せてもらったような気がしましたよ」
「今の試合を見て『ああいうチームに自分の子どもを入れたい!』って思った人、結構いたんじゃないかなぁ?」

 気が付けば、周囲の目にも変化が生じていた。ダブルヘッダーで同じピッチャーを連投させるチームも、毎年、少しずつではあるが減っていった。

 しかし、一方では、エースがひたすら連投しまくるチームもあり、まだまだ主流はこちらだ。そんなチームを卒団した投手が中学でヒジを手術したり、高校で肩を痛め、投手を断念したという話が数年後に耳に入ってきたりする。卒団してからのことなので、少年野球時代の登板過多との因果関係は、もはやわからない。

 しかし、年間100試合以上をこなす、エース連投型のチームがあったとすると、エースの子が年間400イニング以上を投げていたりすることは少年野球の世界ではけっして珍しくない。プロ野球のローテーション投手が年間200イニングを投げただけで、「すごい! よく投げた!」と言われる今の時代。400イニングが子どもにとって許容範囲だと言い切れる人はいったいどれくらいいるのだろう?

子どもにタバコを吸わせるわけにはいかない


 エース連投型のチームの指導者陣と話す機会があると「どうしてあそこまで一人の子を投げさせるの?」と訊ねることが多かったが、答えはほぼ決まって、次のようなものだった。

「一番勝つ確率の高いエースの子で臨まないと負けた時に悔いが残る。負けるならエースで負けたい」

(うーん、言いたいことはわかるけど、その理屈でいくと、日本ハムはエース・ダルビッシュを日本シリーズくらいは4連投させないとおかしい、ということにならないだろうか? 子どもらよりもはるかに鍛え上げられ、結果を問われ、何億ももらっていたりするプロ野球選手がそこまで無理をすることもなくなってるのに、なぜ成長期の少年がそんな理屈で連投を強いられなくてはならないんだ? すごく言葉はきれいにまとめてるけど、結局は子どもの体に負担がかかろうが、手段を選ばず勝ちたいって言ってるのと同じなんじゃないか?)

 そんな思いが湧き上がる。実際、その思いを相手にぶつけることもある。すると、次のような答えが返ってきたりする。

「みんながみんな壊れるわけじゃない。うちのチームの出身者で、強豪高校のエースとして活躍した子は何人もいる」

 球数やイニング数に注意を払っている他チームの指導者と、その発言について話が盛り上がったことがあった。

 その方は、面白い例えを用いながら、「みんながみんな壊れるわけじゃない」発言を爽快に斬ってくれた。

「それってさ、ヘビースモーカーが全員肺がんになるわけじゃないのと同じ理屈だよなぁ? 毎日100本吸っても肺がんにならない人もいるし、毎日10本でもなる人はなる。でも、ひとつはっきりしてることはタバコは体に害を及ぼす可能性が高いということ。タバコ=登板過多とすると、連投を強いているチームは『すぐに肺がんになるわけじゃないんだから』と子どもにタバコを吸わせてるようなものだよ。もしも肺がんになったとしても、『同じ本数吸ってもなってないやつだっている。だからタバコのせいとは言えない』って言ってるようなもんじゃん。肺がんになるならないが問題なんじゃなく、タバコを吸わせてることが既に問題なんだけどな」

 この例え話を聞いて、「絶対に教え子にタバコは吸わせるまい!」と、改めて気が引き締まったことは言うまでもない。


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方