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第二十三回 「少年野球指導者に問われること」

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、練習通りに試合でプレーできない子どもたちに何を、どう教えたらいいのか、悩んだことを語ります。


練習でできたことの半分しか試合でできない!?


「練習ではできたことが、ここまで試合でできなくなるものか…」
 少年野球チームにコーチとして携わるようになってから強く思ったことだった。
 日頃の実力の半分も発揮できずに負け続け、試合後のミーティングのコーチたちのコメントも「練習通りの実力が出せていたら勝てた。練習でできたことがなぜできない」的な論調になってしまう。子どもたちも「緊張してしまった」「エラーしたらあかんと思ったら固くなってしまった」「練習通りにできなかったことが敗因だと思います」などと口にし、チーム一同、ただただ、うなだれるばかり。
保護者たちも「どうして練習ではできるのに、試合ではあんなことになってしまうんだろうね。練習のときのように気楽にリラックスしてやったらいいのに」とため息をついている。
 試合中も保護者応援席からは「練習通りね〜! リラックスリラックス〜!」という声が飛ぶが、子どもたちの表情は練習時とは異なり、固くこわばっている。ベンチからも「リラックス!」と声をかけるが、子どもたちは、ひきつったような笑いを見せるばかり。どこからどうみたってリラックスなどしていないのは明らかだ。

(そりゃあ練習通りに試合でやるというのは、高校生やプロでも難しいことなんだろうけど、うちの選手たちって、試合と練習の落差が激しくないか…? せめて練習の8割の実力が出せればいいところを狙えるチームになってきたと思うのに、5割くらいしかできなくなっちゃうんだもんなぁ…。子どもらは試合経験も少ないし、余計にゲームでは緊張しちゃうのかなぁ…。まぁ練習通りにできないことが実力だといわれればそれまでだけど…)

 少年野球の場合、自分の父親がコーチを務めているケースが多く、その場合は自分の子にはとてつもなく厳しくなりがちだ。お母さんたちも自分の子がミスをすると容赦ない罵声を浴びせることも少なくない。そういった子どもたちは家に帰っても、夕食時に、ちくちくと昼間の野球のことを突っ込まれ、怒られ続けていると聞く。「試合で結果を出せなかったら、また親に怒られる。ミスったらどうしよう」といった気持ちでプレーしていては本来の力はますます発揮されにくいだろう…。

分母を上げる作戦には無理があった


 気付けば「子どもたちは練習通りのことは試合ではできないもの」という前提の下で少年野球の指導を考えるようになっていた。
緊張や結果を気にする気持ちが入る分、試合では練習の半分くらいのことしかできないのだと思うようになった。
試合で練習の半分の力しか発揮できないのなら、分母を上げればいい。100の力が試合で50になってしまうのなら、練習で200の力を養えれば、試合で半分に減っても100の力を出していることになる。
しかし実際には、分母を劇的に上げることは、なかなか難しいことだった。毎日のように活動する高校球児ならいざ知らず、週末だけの活動では、分母を倍にするだけの練習量は確保できない。試合の消化に追われる週末も少なくない。ましてやグラウンドは狭く、できるメニューも限られているチーム。活動時間もほかのチームの半分にも満たないのでは、量をこなして分母を倍にするという発想にはどだい無理があった。
それに、たとえ毎日のように練習ができる環境があったとしても、分母の上昇と引き換えに、子どもたちがオーバーワークになってしまう可能性が高くなる。
(オーバーワークにならない程度に分母を少しでも大きくする努力は続けつつ、やっぱり練習でできたことを試合でも発揮できる割合を高める発想を軸に持ってこないといけないんだろうなぁ)
 ある少年野球チームのコーチにはこう言われた。
「たしかに子どもは大人の思うようにはなかなかいかない。練習と試合じゃ別人か? と思ってしまう子はうちにもたくさんいるよ。たしかに中には練習と試合の差が少ないチームもある。そしてそういうチームが少年野球の世界じゃ強いと言われがちなのも事実。でも、そういうチームは平日も当たり前のように練習していたりするし、練習量がやはり、なんだかんだで多いよ。平日に練習できる分、週末は試合ばかり組める。年間試合数がプロよりもはるかに多いチームだって少年野球の世界には珍しくないけど、そうなるとさすがに子どもらも試合慣れするよな。子どもらだって、自分たちがよそよりも練習量が多いということがわかってるから『これだけやってる俺たちが負けるはずがない!』という気持ちも芽生えやすいだろうし」
やはり練習量を増やし、試合の数を増やすことで試合慣れさせ、自信を持たせていく、という方法しかないのだろうか…。自分たちのように練習時間が極端に短く、試合も少ないチームはどうすればいいんだろうか。

少年野球は量で勝負するわけにはいかない


 そのコーチは私のジレンマを見透かしたかのように続けた。
「まだ体のでき上がっていない子どもを預かっている我々は子どもたちを量でうまくさせようという発想は捨てた方がいい。量ではなく、練習の質でうまくさせなければいけない。だから野球界の中で、少年野球の指導者こそがもっとも質を問われる。指導力のなさを量でカバーすればいいと考えている人は、少年野球指導者には向かない」と言われた。
同感だった。頷くしかなかった。



(次回へ続く)


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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