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file#016 田島慎二(投手・中日)の場合

『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していただく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
新体制の二回目は東海地区を駆けまわる尾関雄一朗さんに書いていただきました!


最高峰のステージを渇望


 田島慎二が東海学園大4年春の試合後に、彼と初めて話したのだが、その純真でまっすぐな雰囲気、人懐っこい笑顔は今でも印象に残っている。

「(志望進路は)プロ一本です。社会人野球で何社かお誘いをいただいたんですが、どこも『“プロ待ち”はちょっと…』ということで、今内定はないですね」。

 自身がドラフト指名されるか微妙な段階から、田島は進路をプロ一本に絞っていた。このご時勢に、かなり勇気がいることだ。社会人チーム側にも採用計画があるため、内定枠はプロを志望しない学生でどんどん埋まっていってしまう。プロ志望だと内定ゼロのリスクもあるが、田島の思いは一貫していた(※後に『プロ待ちOK』を示したJR東海からは内定をもらっている)。また最近は、社会人野球チームを持つ企業から内定が得られず、秋になってプロ志望へと転向する選手もいるが、ここまで述べたように田島はその対極である。

「うまくプロで滑り出せて、そのまま勢いで最後までいっちゃった感じだね」(某球団スカウト)と田島のルーキーイヤーを評する向きもあるが、本人が心から望んでいたステージだからこそ、すんなりと溶け込め、思いきり腕を振れたのではと考える。



ケガに悩み、コントロールにも課題が


 しかし大学時代の田島は、今ほど気持ちのよい投げっぷりではなかった。まして、プロ1年目からチーム最多タイの56試合に登板するなど、当時からは予想もできなかった。

 その1つ目の理由は、肩やヒジのケガだ。ドラフト候補が最もアピールすべき大学4年時、春のリーグ戦ではほとんど投げていない。初戦こそ完封したが、肩の張りが深刻で早々に離脱。戦線復帰しても早々にノックアウトされていた。「無理せず、秋に向けてやっていくしかないですね…」と本人ももどかしそうな様子だったのを思い出す。

 ドラフト指名に際し、肩やヒジの故障歴を嫌った球団もあった。指名しなかった某球団のスカウトは「もちろん田島はスカウト会議で推しましたよ。秋には球速も147キロ出ていたし。ただ、肩ヒジに爆弾を抱えています、となったときに、やはり球団としては指名を見送らざるをえなかった」と話す。

 2つ目の理由はコントロールの悪さだ。特に下級生の時は球が荒れがちだった。昨季、田島は70回2/3を投げ、与四死球20と問題のない数字だが、大学2年春に唯一1部(愛知大学リーグ)で戦ったシーズンは57投球回でリーグ最多の与四死球40。今とは雲泥の差だ。腕の角度が上下するなど、フォームも安定しなかった。アマチュア相手にこれでは、プロを相手にどこまでできるのか、不安に思えた。

素材としての魅力はたっぷり


 ただし、素材としての魅力は輝いていた。まずは球のパワーだ。筆者が田島を初めて見たのは2年春だが、当時からスピードも威力も抜群で、スタンドをどよめかせていたほど。左打者のインコースを突くストレートは、打者はもちろん、ネット裏で見ている筆者ですらハッとさせられた。打者はスイングしても差し込まれ、ファールですら反対方向に飛ぶのみだった。

 体の柔軟性と地肩の強さも目を引いた。肩周りが柔らかく、テークバックが深く入る。そこからスリークォーターの角度で、球持ち長く強靭に腕をぶん回した。プロに入った今は多少洗練されたが、学生時代は馬力を前面に出して打者をのみ込んだ。

 メンタル面も含めた実戦でのタフさ・勝負根性は、現在の雄姿に通じるものがあった。素材型でありながら、接戦で粘りを見せる実戦型でもあったのだ。下級生時から、初回に失点してもその後立ち直り、平然とスコアボードにゼロを並べた試合もあったし、試合中盤にスタミナ切れのような素振りを見せても、結局延長12回を3失点で完投勝利したりもした。

純粋な姿勢はプロでも変わらず!


 冒頭で、田島のけれんみのなさが印象的だったと述べたが、プロで活躍してからも変わらないのがいい。関係者によると、田島は最近も「僕は偉そうなそぶりは絶対しないつもりです。活躍してテングになる人もいっぱいいると聞きますが、そういうのはかっこ悪い。偉ぶったりしないので、遠慮なく何でも聞いて下さい」と報道陣に話していたとか。

 権藤博・前中日投手コーチが、田島が降板した後でそれを忘れて「田島いけるか?」とブルペンに電話をしたことが何度かあった、という噂を聞いたことがある。実力はもちろん、情熱と爽やかさがほとばしる学生当時の田島を見ている者として、前コーチのそんな勘違いも、なんとなく分かる気がするのだ。




文=尾関 雄一朗(おぜき・ゆういちろう)/1984年生まれ、岐阜県出身。新聞記者を経て、現在は東海圏の高校、大学、社会人を精力的に取材。昨年は濱田達郎投手(愛工大名電高→中日)らを熱心に追い続けた。

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