神奈川高野連の“仕事”が熱すぎる！歴史と情熱が詰まった記念誌『球音』

2013/7/30

嗚呼、青春の“時空を超えた”甲子園！特集
神奈川県高等学校90周年記念誌～球音～

　毎年の事ながら、この時期になると続々と甲子園出場校が決定していきますね。やはり見応えがあるのは「勝てば天国、負けたら地獄」の地方大会決勝戦。勝者と敗者のコントラストはこの上なく分かりやすく、負けた方の悔しさや無念さが痛いほど伝わってくる試合といえるでしょう。

　北海道と東京都を除き、各都道府県から1校ずつ代表校が決まりますが、参加校数の違いによって、その決勝戦にたどり着くまでの試合数が異なるのは皆さんもご存じの通り。今夏の地方大会で、最小の参加校数は鳥取県の25校。逆に最も多いのは神奈川県の190校ですが、神奈川県大会を勝ち抜く厳しさは今に始まったことではありませんよね。

　今週はその神奈川県の高校野球界を支える、神奈川県高等学校野球連盟のお話。紹介する野球古書はその神奈川高野連が発行した連盟史『神奈川県高等学校90周年記念誌～球音～』であります。

　他県の高野連でも連盟史は発行されていますが、ほとんどが1冊出して終わり。続けて刊行している県でも、2冊目以降は薄っぺらの簡単な作りの本が多いのですが、神奈川県は違います。写真だと分かりづらいかもしれませんが、しっかりした箱に収められており、B5サイズで600ページを超える「超」ボリューム。1948（昭和43）年に初の神奈川県高校野球50周年史として発行されたのが始まりで、その後10年周期で発行されており、この号はその“最新版”です。

　神奈川県高野連に加盟している高校野球部の公式戦記録が詳細に載っているのはもちろん、加盟校の公式戦のユニフォームがカラー写真で掲載されているなど、マニアの間では有名な“神奈川県高校野球の記録本”なのです。例えば、この号は2008年発行の90周年号で、80周年号（1998年発行）や70周年号（1988年発行）もありますが、それぞれの10年間の記録がギッシリと詰まっているのです、はい。

　そもそも、神奈川県が単独の地方大会で代表校を出すようになったのは、学制改革で中学野球から高校野球に変わった1948年の第30回大会から。驚くのは最初の参加校で、全国最小の41校だったといいます。いまや出場校も強豪校、名門校も多く全国一の激戦区ともいわれている神奈川県ですが、意外なスタートだったのですね…。

　それが30年後の60回大会では首都圏のベットタウン化で新設校が急増し、参加校は115校に。2000年の第82回大会ではついに全国最多の207校を記録しました。そんな歴史を持つ神奈川県の高校野球界ですが、この本には神奈川高野連の歴史もキッチリと書かれています。

　1942（昭和17）年の文部省主催の全国大会を最後に野球の大会は中止されましたが、1945（昭和20）年に「神奈川県中等野球連盟」が復活。前述した1948（昭和23）年に神奈川県高等学校野球連盟と名前を変えて南関東より独立し、1949（昭和24）年にはあの保土ヶ谷球場（現保土ヶ谷・神奈川新聞スタジアム）が完成しました。

　面白いのは1964（昭和39）年の夏の大会で初めて京浜女子大横浜高と神奈川県立高校の吹奏楽連盟が合同演奏を行ったそう。これが神奈川県高校野球のブラバン応援のハシリだったことは間違いありません。1966（昭和41）年には参加校が70校を超え、1968（昭和43）年に『球音』の第1冊目が発刊されたのでした。

　数々の名勝負や個性的な野球部を生み出してきた神奈川の高校野球界。その陰の立役者として、神奈川県高野連の存在を忘れてはいけません。公式ホームページでは地方大会の組み合わせや試合結果など、ファンの求めている情報を素早く公開してくれています。こう言うとアレですが、他の都道府県の高野連よりも一歩も二歩も進んでいる印象を受けますね。その神奈川県高野連が発行するこの『球音』は、神奈川の高校野球ファンなら“必携”の一冊。次に発行されるのは今から5年後の2018年ですが、それまでにお金を貯めておきましょう！

■プロフィール
小野祥之（おの・よしゆき）／プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリングと、まだまだ謎は多い。

文＝鈴木雷人（すずき・らいと）／会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

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