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第6回■熱球三十年〜紫紺の旗の下に(著者 島岡吉郎)



  いきなり野球と関係ない本の紹介から始まった今週のベースボールビブリオ。いやいや、必ず野球の話に繋がりますのでご安心ください。ビデオの冒頭で紹介した新書『明治大学という「武器」を持て』はその名のとおり、明治大学のブランド力が近年いかに注目されているかを、統計や数字を基に紹介しています。今や入試志願者数は早大や慶大を抜いてナンバーワン。この不況にも関わらず就職に強い大学として学生達には人気があることは間違いないようです(ちなみにビブリオ小野店長も私も明治大学出身ではありません。回し者ではないのでご安心を)。

 なぜ今の時代に明治大学は受験生や企業に人気なのか? その答えはズバリ、明治大学野球部の名物監督としてその名を馳せた島岡吉郎(通称:御大)にある! というのがベースボールビブリオの見解であります。
 その島岡監督の半生がまとめられたこの野球古本は、特に御大を知らない方にはぜひ読んでいただきたい一冊。島岡御大といえばそれはもう、明治大学×野球部=島岡吉郎という方程式が成り立つほど、明治大学とは切っても切れない関係を持ち、さらにはプロ野球界に在籍経験がないにもかかわらず野球殿堂入りしているほどの「野球人」なのです。
 この本の巻末にある明治43年から昭和53年度の「明治大学野球部在籍名簿」は圧巻のひと言。東北楽天ゴールデンイーグルスの星野仙一監督、現日本ハムGM・高田誠氏、古くは秋山登氏、土井淳氏の大洋ホエールズの黄金バッテリーが名を連ねており、名簿にはありませんが最近では武田一浩氏、広澤克実氏など蒼々たるメンバーが島岡監督の指導を受けているのです。

 そんな名門野球部に、昭和27年から監督として神宮球場のベンチに入った島岡監督の野球選手経験は、なんと小学生まで。大学では応援団長として活躍していたということは、野球に関しては言えば、ハッキリ言って“ド素人”。そんな監督だからこそ、今では笑えるキョーレツな采配内容も記されています。 
 例えば突然タイムを要求して代打にブルペンキャッチャーを起用。全速力でブルペンから打席に入る選手は既に息を切らしており、ゼイゼイいいながら打席に立つ始末。「これじゃあ打てるわけがないだろう」と他監督から非難されたり、その短気な性格から、選手がエラーをしたり打てなかったりするとすぐに交替させ、スコアブックが一杯になってしまうので「記者泣かせの監督」と呼ばれていたり。采配以外でも、気合が最高潮に達する試合前の整列時には、ジャンパーを脱ごうと勢い余ってボタンを引きちぎってしまったり…。四球で自滅した投手には試合後の夜中になんと500球の投げ込みを命じたり、時にはベンチで鉄拳を振りかざすこともあったようです。とにかく負けることが嫌いな熱血監督なのです。

 劣勢時の口癖は選手に向かって「なんとかせいっ!」。いやいや、そこを采配でなんとかするのが監督の仕事では(汗)というツッコミも跳ね返されてしまうほどの熱血ぶり。そこには最近の野球部監督が忘れているモノ、ひと言でいえば「無茶な厳しさ(笑)」があります。あ、元高校球児の私ですので、決してそんな無茶を肯定しているわけではありません、念のため。

 しかしながらその熱血ぶりと表裏一体の、しっかりした教育理念やスジが通った信念、類まれなリーダーシップみたいなモノを持っていたからこそ、前述した名選手達は今でも島岡御大を尊敬しているのでしょう。
 昭和43年前後の最も学生運動が激しかった時代には、他の大学から明治大学をぶっ壊そうとやってきた学生に対して、島岡監督は「生粋の明治人である私が、この状態に憤りを感じないわけがない」と毅然とした態度で対応。野球部をグイグイ引っ張っていきます。当時エースだった星野仙一や高田誠は、やはり同じ熱血漢としてウマが合ったようで、学園紛争を避けるためバリケードに仁王立ちして闘ったり、部員を学校に泊まり込ませて夜中に大声で明治大学の校歌を歌うなどして、結束を高めていきます。これこそ最近の若者達に必要な厳しさ、アツさ、情熱…この根底にあるのがズバリ「島岡イズム」なのでしょう。

 こうして紛争中も野球の練習に支障をきたすことなく、昭和44年春には見事、東京6大学リーグで優勝。天皇杯も8年ぶりに獲得するなど監督としても結果を出しています。ひと言では表現できませんが、現代の「ぬるい」若者に必要で、いわゆる「ゆとり世代」の学生達に足りない厳しさが、明治大学には脈々と生き続けている……。その根底にある「島岡イズム」こそ、明治大学の人気を支える秘密といえるのではないでしょうか。なんか明治大学の宣伝になってしまった感が……(笑)。
それでは次号!





■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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