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「才能」とはなんなのか?そのヒントは“やくざ監督”野々村直通氏の言葉の中に!?

●「才能」の正体ってナンダ!?

「ちょっとちょっと! 今、テレビで面白い特集やってるよ! これ見たほうがいいよ!」

 日曜日の朝、妻にそんな理由で叩き起こされた。寝ぼけ眼状態でテレビの前に座ると、ある報道番組内でフィギュアスケートの羽生結弦選手の強さの秘密を探る特集が放映されていた。

 東京大学で遺伝子に関する授業を教える「遺伝子先生」こと石浦章一教授によれば、世の中でよく言われる「才能」とは遺伝子の世界では次のように解き明かされているのだという。

「才能とは集中する能力とか、あることを持続する能力のことなんです。大事な演技を覚えるのに集中して続けられるかどうか。努力する、という行動をどれだけ続けられるか。それは遺伝子が決めているんです」

 羽生選手には努力を絶えず続けられる能力、つまり「才能」がある。だからこそ他の選手を圧倒できる高い技術を身につけることができたのだと。

 石浦教授は言う。

「音楽の才能とか、サッカーの才能なんてものはないんです。つまり、それらは音楽やサッカーをいかによく学習したかということで決まります。つまり後天的な努力です。特にフィギュアスケートのような演技に関するスポーツは100パーセント練習で決まります」

 そして特集は次のように結ばれていた。

「チャンスは平等。誰もが努力を続ければ、高い能力や勝負強さを手に入れることは可能なのだ」

●松井秀喜の自室に貼られていた言葉

「はー、そういうことなのかよ。でも面白かった」
「面白かったね」

 特集が終わり、妻と同じ感想を漏らしていた。

「努力できることが才能である」

 松井秀喜(元巨人ほか)が父から贈られたそんな言葉が書かれた紙を自室の壁に貼っていたことは、わりとよく知られているが、まさか遺伝子レベルでも証明されていたなんて……。

 しかし、大いにうなずける話でもあった。野球ライターという仕事を通じ、多くの野球人の話を聞く機会に恵まれてきたが、聞けば聞くほど、トップレベルの世界で、一流と二流、成功者と失敗者の明暗をわけるのは「努力という行為を継続できる能力があったか否か」という説を支持したくなる。

「あなた、自分の二人の息子を比較して『お兄ちゃんのほうがいわゆる野球センスはあるけど、弟の方が努力する才能がある。最終的に勝つのは弟の方やろ』って昔からよく言ってたわよね」
「でも、それがまさか遺伝子レベルだったとはな」

「お兄ちゃんの方は昔から『おまえは継続する才能がない!』ってあなたによく怒られてきたけど、仕方がなかったんじゃん。遺伝子レベルなんだから」

「でも、この特集が言いたいのは遺伝子だから仕方がない、諦めろってことじゃないだろ!? 後天的な要素のほうが大きいんだから、たとえ努力できる才能が乏しかったとしても、努力という行動を実行に移すことさえできてしまえば、誰にだってチャンスはあるってことが言いたいんだろ?」

●継続をもたらすキーワードは「感謝」

 現在好評発売中の『野球太郎育児Vol.1』の「たくましい球児の育て方」という記事の中で、元・開星高校野球部監督の野々村直通氏は次のように述べている。


「『継続は力なり』である。持続していくにはまず“楽しさ”を自覚しなければならない。小学生の段階で楽しさを身につけさせ、そのことで『もっとやってみたい』と思うようになり、継続が可能となるのだ。そしてその後の『苦しさ』や『厳しさ』にも耐えることができるようになる。だから楽しさを自覚した段階から『頑張りぬく』ことの価値を教えていく。“才能とは繰り返せる能力”である」

 〈野球を好きになる〉→〈耐性ができる〉→〈繰り返しの努力が可能性と技を伸ばす〉という流れが大切。そしてこの過程の中で最も強くモチベーションをあげていくのは「感謝の心」だと野々村氏は力説する。

「ではどうやって“感謝の心”を育むのか? それは『野球ができない人』に思いを馳せることである。『できない人がいるのに自分はできる』ということを覚えた時、人間は格段に進歩し、『感謝の心』に満たされる。『感謝の心』が導く取り組みは、真剣でひたむきとなり、つらいことにも耐えうる驚くほどの強さを発揮する」

 「野球をしたくてもできなかった少年たち」に触れさせるべく、野々村氏は広島の海上自衛隊にある『教育参考館』という資料館で特攻隊員たちの遺書や遺影を見学することを春休みの恒例行事にしたのだという。

「その日から明らかに練習に取り組む姿勢が変わったのだ。母親の作る食事に感謝し、通える学校があることに感謝し、甲子園を目指して毎日野球ができることに感謝しながら生活しはじめたのである。『感謝からはじまる人間作り』。これから我が子にスポーツをさせたいと思っている親に私から最も希望するのはこのことである」

 考えるべきは遺伝子レベルの「才能」をも凌駕する後天的な指導。
 全てを「才能」で済ましてしまったら親も指導者も必要ないのだから。


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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