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解き明かされかけた攻略法。すぐに修正を施した清宮幸太郎(早稲田実)。秋を全国準優勝で締める


櫻井(日大三)が投じたインサイドへのスライダー


 衝撃の光景だった。寒空の神宮球場。秋の東京制覇をかけた日大三との大一番で、清宮幸太郎(早稲田実)はなんと5打席連続三振を喫した。

 序盤、日大三バッテリーは清宮のインサイドを攻めた。左腕・櫻井周斗の手元で鋭く曲がるスライダーは左打者の背中に向かいながら、急激な角度でストライクゾーンに入ってくる。清宮は左打ち。左打者から見れば、死球の恐れを抱かせるこのボールで、まずは清宮の腰を引かすことに成功する。

 清宮にはなす術がなかった。インサイドへのスライダーだけであれば、試合中に修正して対応できたかもしれない。しかし櫻井は、ここから多彩な攻めで清宮に襲いかかる。

 このインサイドへのスライダーをとっかかりに、外角高めのストレートでファウルを打たせる。決め球には膝元に落ちるボールと外角低めに逃げていくボール、この2つの変化球を用意。清宮のスイングは面白いように空を切った。
 日大三バッテリーはしたたかだった。清宮にインサイドへの意識を植えつけ、それ以外の球は全てボールゾーンで勝負した。対応に焦る清宮はその術中にはまり、すべての球を追いかけてしまった。

 試合は下位打線の活躍や野村大樹のサヨナラ弾で早稲田実が勝利、来春のセンバツ出場をほぼ確実なものとした。しかし、清宮本人にとっては悔いの残る試合となった。


リスクを回避した静岡


 日大三との激闘から1週間後、早稲田実は東京代表として明治神宮大会に臨んだ。各地区の王者が一堂に会する全国トーナメントであり、大会出場校のレベルは当然、春夏の甲子園に匹敵する。

 注目はやはり清宮に集まった。あの5打席連続三振で、清宮の攻略法が具体的に洗い出された。そこから短い期間でどのように修正してくるか。早稲田実は初戦、キレのあるスライダーを持つ左腕・池谷蒼大擁する静岡と対戦した。

 静岡バッテリーの攻めは日大三のそれを参考にしなかった。積極的に打ち取ることよりも、まずは長打の危険性を徹底的に避ける方向で、清宮に挑んだ。

 第1打席は外角への逃げる変化球中心の配球。清宮は失投で中に入った池谷のスライダーをライト前に運んだ。そして第2打席、池谷がインサイドに投じたストレートが清宮の体に当たった。死球で一塁に向かう清宮。静岡がインサイドを攻める変化球を使わなかったのは、池谷の制球を不安視していたからかもしれない。

 第4打席にはフェンス直撃の安打も放ち、この試合は3打数2安打。日大三戦での屈辱を引きずらず、清宮は見事に結果を残した。チームも勝利し、準決勝進出を決めた。

苦手意識を克服した清宮


 準決勝は右の好投手・三浦銀二がいる福大大濠との対戦となった。第1打席で四球を選んだ清宮は、第2打席ではインサイドへのストレートを上手く捌いて二塁打を放った。

 内角の制球に自信を持つ三浦の真骨頂、打者の体の近くに投げ込んだ一球。それに怯むことなく、軸を保ったまま放った一打に、インサイドへの苦手意識を払しょくしたように見えた。

 三浦はこれで清宮に投げる球がなくなり、結果は1打数1安打4四死球。6対4で早稲田実が勝利し、いよいよ決勝まで駒を進めた。

 決勝の履正社戦、清宮はもはや手がつけられない状態となった。第1打席、清宮は真ん中に入ってきたストレートを叩き、ホームランを放つ。履正社の左腕・松井百代は左打者に向かっていく軌道のカーブで清宮を攻めたが、清宮は動じなかった。清宮のインサイドへの苦手意識を再び呼び起こして、主導権を握りたかった履正社バッテリーは、いきなり出鼻をくじかれた。

 試合中盤、履正社のマウンドにはエースの竹田祐が立った。竹田は清宮に対し、内角高めのストレートや膝元に落ちる変化球を多投した。履正社バッテリーは日大三が見せた攻めを再現したが、それでも清宮の体は開かない。結局、竹田は清宮に対し有効な攻めができず、2四死球を与えた。

 試合は履正社が乱打戦を制し、秋の王者に輝いた。清宮は3打数2安打2打点。優勝はならなかったが、しっかり対策を講じてきた履正社の積極的な攻めに屈しなかった。


新たな攻略法は出てくるのか


 清宮は日大三戦でさらされた弱点を短期間で一気に修正してきた。一つの攻め方で抑えられるとすぐさま修正を施し、二度と同じやられ方はしない。その対応力こそが「清宮たる所以」なのかもしれない

 高校野球は明治神宮大会を終え、しばらくシーズンオフに入る。次の公式戦は来年3月に行われる春のセンバツだ。大きな問題が起きない限り、早稲田実はセンバツ出場校に選ばれ、甲子園で清宮のプレーが見られるはずだ。

 全国の強豪校は、また新たに清宮攻略に向けた策を練ってくるだろう。そのとき、清宮はどのような対処を見せるのか。ハイレベルな攻防の続きを甲子園で楽しめそうだ。


文=長嶋英昭(ながしま・ひであき)
東京生まれ、千葉在住。小学校からの友人が、サッカーのU-18日本代表に選出されたことがキッカケで高校時代から学生スポーツにのめり込む。スポーツの現場に足を運びながら、日本各地の観光地を訪れることが最大の生きがい。現在はアマチュアカテゴリーを中心にスポーツ報道の仕事に携わっている。

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