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第6回 あのプロ野球OBが母校を率いて甲子園に凱旋も?

 野球の旬な話題に鋭く踏み込んで紹介する「クローズアップ得点圏内」。今回は元プロ選手が高校野球指導者になる条件が大幅に緩和された「プロ・アマ規定緩和」のニュースに注目。引退時に母校の監督就任の夢を語った松井秀喜氏が近い将来、星稜高を率いて明徳義塾高と因縁の対戦が実現するかも!? といった見出しを掲げる気の早いマスコミもありましたが、実際のところはどうなのか…クローズアップします。

◎アマ球界の歩み寄り
 去る1月17日、プロ経験者が指導者になるための規定を話し合う「学生野球資格に関する協議会」が都内で開かれ、日本高野連は高校野球の指導者になるための必要条件である「2年間の教職歴」を撤廃し、教員免許がなくても高校野球を指導できるという大幅な「規制緩和」をNPBに提案しました。学生野球協会とNPBがそれぞれ主催する研修を受けて適性審査に合格すれば、高校や大学の野球部を指導できる資格を認める方針をまとめました。
 以前より条件緩和案として研修制度の設置を求めていたNPBと選手会に対して、それを学生野球協会側が受け入れた恰好ですが、両者間では5月を目標に研修内容などを詰め、来オフからの運用を目指すとのこと。教員免許を取らなくても高校野球の指導者になれるということは、あのPL学園高の監督に清原和博氏や桑田真澄氏が就任するかも…といった野球ファンの夢も広がるニュースでした。


▲桑田監督や清原監督が高校生と勝利の握手をする日もくるのだろう
(画像はイメージです)

◎「プロアマ関係の雪解け」の背景
 日本学生野球協会理事の西岡宏堂氏は「プロ野球関係者が高校野球界に恩返ししようと行動している。その思いを素直に受け止めた」とコメント。今回の件はプロ・アマの垣根を取り払うための活動を地道に続けてきたプロ側の思いがアマ側に届いた結果といえるでしょう。03年に始まった現役プロ野球選手が高校生を指導するイベント「夢の向こうに」は今年で10年目を迎えますが、こうした活動のほかにも、新井貴浩前選手会長(阪神)は事あるごとにプロ・アマ関係について「もはや段階を踏むという時期じゃない。完全解禁です」と訴え続けていたことが実を結びつつあります。
 さらに大学球界では05年から審査を経たプロOBが監督として指導できるようになり、11年からはプロと大学で練習試合を行うなど、アマ側も徐々にプロ側との「わだかまり」を解き始め、両者間の関係を修復しようとするチャンスを窺っていたはずです。
 キャッチボールすら禁止されているプロ野球選手と高校球児の間を隔てる壁。何がきっかけでこのような規定ができたかさえ、多くの選手は知らない程、長い間プロと高校球児が接点を持つことはタブーとされてきましたが、半世紀に及んだプロ側とアマ側の凍りついていた断絶状態がまさに「雪解け」しようとしています。

◎柳川事件とは
 では、そのプロ・アマ間の関係が断絶状態になってしまった原因は…というと「柳川事件」と呼ばれる騒動が挙げられます。当時の社会人野球協会とプロ側で、現在の社会人野球日本選手権大会が終了するまで選手をスカウトしないよう協定を結んでいましたが、1960年に社会人側がプロ退団者は退団1年後でなければ社会人野球に出場できず、さらには登録できる人数制限まで設けてしまいました。プロ側は退団者の死活問題だとして激怒。社会人側に条件緩和を求めるも話し合いは決裂し、無協定状態のなか1961年4月に中日が日本生命に所属していた柳川福三外野手と契約、入団を発表したのです。
 一方的なプロ側の行為に対し、今度はアマ側がプロ退団選手の社会人選手としての受け入れ拒否を決定。こうした選手の獲得合戦が過熱したことが原因で、プロとアマの関係に深い溝ができてしまったのです。

◎関係者の声
 NPBの下田邦夫事務局長は「思った以上の回答を得た。早く実現できるように協議したい」と積極的に協力することを約束。石川雅規投手(ヤクルト)は「すごいことです。自分も(指導者に)興味があるし、高校野球が原点ですから」と興奮気味。東京大学野球部の臨時コーチに就くことを発表した桑田真澄氏は「何より野球が好きで競技力を高めたいと思っている若いアマチュア選手のために素晴らしい決断」と元プロの技術力や指導力がアマに良い影響力をもたらすのでは」と推測しています。プロ野球の「勝負の世界」で生き抜いてきたOBならではの高等戦術、采配の妙が高校野球で堪能できるかもしれません。
 他にも宮本慎也選手(ヤクルト)は「フラっとその辺の学校に行って(野球を)教えることができたらいい」と味のあるコメント。今までのようにプロの技術を教えることができないことは、日本野球界の底辺拡大の妨げになっていると考えている関係者も多く、例えばプロ・アマの溝がない韓国では、プロがアマを指導することで短期間に世界的にみてもレベルアップしたのでは、という話もあります。近々始まるWBCやアマチュアの国際大会での近年の韓国の活躍が、それを物語っているでしょう。

◎体罰問題? 甲子園至上主義? 今後はどうなる高校野球?
 しかしながら警鐘を鳴らす向きも少なくありません。少子化が進むなかで生徒の奪い合いは学校経営者であれば必死にならざるを得ない状況であり、それが引き金となって大物OBの招聘がマネーゲームの発展につながる可能性もあるでしょう。さらに「甲子園出場高校」という根強いブランド力を求めるがゆえに、甲子園に出場することが至上命題になってしまうと、高校野球の理念である「野球を通じた人間形成の場所、鍛錬の場である」といった、アマチュアリズムの良き伝統が壊されてしまうケースも考えられます。
 また、プロOBが高校野球の指導者になるための制度がきちんと整えば、巷を騒がせている部活動顧問の体罰問題も解消されるかもしれません。例えばサッカーの場合、日本サッカー協会公認の指導者ライセンスを取得している監督はたくさん活躍しており、対話を大事にする指導方法なども普及していることから、選手側も「殴る指導者」がいる学校には進学しなくなっていると聞きます。昨年度の全国高校サッカー選手権では「ミスターグランパス」と呼ばれた元Jリーガー岡山哲也氏が母校の中京大中京高の監督として同校初のベスト8に導くなど、プロ・アマの垣根がないサッカー界のよい部分は、今後の野球界も大いに見習っていくべきです。

 そして最も忘れてはならないことは「主役は高校球児」ということ。監督ばかりに注目が集まる結果になってしまっては、まさに本末転倒。プレーをするのは選手であり、その一生懸命な、直向きなプレーこそが高校野球の醍醐味でしょう。せっかくのプロ・アマ間の「雪解け」が、時間をかけて「暖かな春」になるよう、野球ファン全体で、しっかりと見守っていく必要があると思います。




文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterアカウントは@suzukiwrite

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