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第8回『グラゼニ』『砂の栄冠』『ラストイニング』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1


《意味》
どれだけ工夫して投げても、相手に自分の狙いを読まれていては意味がない。投手には、意識的に自分らしくない「例外」や「想定外」を演出し、打者を混乱させる技術が求められる。

《寸評》
かわすピッチングを得意とする投手が突如、居直ってド真ん中へ放る。針の穴を通すコントロールを持つ投手が、満塁のフルカウントから平然とボール球を投げる。「ここぞ」という場面での意外性≠ヘ、打者が投手の持ち味を知っていればいるほど大きな威力を発揮する。

《作品》
『グラゼニ』(森高夕次、アダチケイジ/講談社)第3巻より

《解説》
14年間、中継ぎ投手を専門に務める瀬戸内カーナビーツの原武裕美。大した決め球も持たず、身体能力にも劣る彼が、現役を続けてこられた理由は何か。同じ中継ぎ投手の凡田夏之介は、その秘密が「開き直り」にあると分析していた。
「原武さんは我慢してどこまでも慎重に投げる……! でもどこかのタイミングで開き直るときがある! このタイミングが天才的!」
凡田が所属する神宮スパイダースとの対戦でも、ノラリクラリと打者を抑えていく原武。同点で迎えた五回裏。途中登板した凡田が、そのまま打席へ入る。
「ヘロヘロと投げてきて 突如として開き直った甘いストレートがくると……それはものスゴク速い直球=i※9)に感じられるのだろう……ピッチャーは意外性≠演出できる技術も必要だが……先輩はそれを……天然でやっている……!」
打者・凡田が放った打球は、はるかライトスタンドへ消えていった。
※9・作中では「直球」に「まっすぐ」のルビ。


★球言2


《意味》
毎日どれだけ質の高いノックを受けているかによって、チームの守備力は決まる。守備が上手いチームは、まずノッカーの技術が高い。逆もまた然り。

《寸評》
ハイレベルなノックの例として作中に登場するのが、「伝説のノックマン」による「スリーバウンド」のゴロ。キレイな回転で鋭く弾み、すべて同じバウンド数で野手のもとへ届く。「グラブのポケット」で掴むという、守備の基本を学ぶ打球ほど、ノッカーの技量が試される。

《作品》
『砂の栄冠』(三田紀房/講談社)第4巻より

《解説》
樫野高を引っ張る中心選手・七嶋裕之は、超高校野球マニアの「小林さん」に普段の練習風景を見てもらう。
「やっぱり守備がマズいよねぇ・・・・選手の能力というより 根本的な問題があると思うな」
小林が漏らした感想に対し、さらなる説明を求める七嶋。小林が答える。
「こう言っちゃ悪いけどさ・・・・あの監督さん・・・・ノックが下手だよねえ 守備が上手いチームはまず ノッカーのノックが上手い 逆はまた真なりで・・・・下手なノッカーのところは 守備が下手なんだよ」
伸び盛りの時期にいいノックを受けたほうがいいと語る小林は、「伝説のノックマン」の存在を七嶋に教える。
「そのノックがね・・・・もうスゴいんだよ! まさに神業! あれは芸術だよ!」
小林の話を信用した七嶋は、「伝説のノックマン」を探し出し、お金で雇うことを決心する。


★球言3


《意味》
後ろに敵を背負う格好になるため、左投手は三塁に走者がいることを嫌う。無死または一死で走者が二塁にいる場合、左投手なら送りバントで三塁に進めるという戦法も効果的。

《寸評》
「江夏の21球」でもお馴染みのように、走者を三塁に置いたとき、左投手はスクイズの見極めが非常に難しい。走者のスタートが確認できないため、打者や捕手の挙動に注意しながらの投球になってしまう。たとえ二死でも、背中越しに走者を置く経験が少ないことから、右投手よりもプレッシャーがかかりやすい。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第34巻より

《解説》
甲子園の三回戦まで駒を進めた埼玉県代表・彩珠学院。優勝候補の一角である帝大一高を相手に、4点をリードして迎えた三回表。先頭の三番・日高直哉がツーベース。続く四番・大宮剛士が四球で歩き、無死一、二塁。彩珠学院の鳩ヶ谷監督は、五番・上福岡徹に送りバントを命じる。
しかし上福岡がこれを失敗し、一死一、二塁。打順は下位に続く場面ながら、鳩ヶ谷は続く六番・滑川順平にも送りバントのサイン。二死二、三塁の形を選択する。
鳩ヶ谷は、ベンチで自らの意図を次のように明かした。
「これでいい。左投手ってのは 本能的に三塁ランナーを嫌うからな」
その言葉を聞き、マネージャーの大宮詩織が「後ろにお化けがいるみたいな感じ?」と問いかける。鳩ヶ谷は「やな感じって意味じゃね?」と適当にあしらうのだった。

文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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