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○第8回○開成野球部あるある(2)

 書籍『野球部あるある』(白夜書房)で「野球部本」の地平を切り拓いた菊地選手とクロマツテツロウが、「ありえない野球部」について迫る「野球部ないない」。
 前回から取り上げるのは、開成高校。全国トップの進学校にはどんな「野球部あるある」があるのか? 話題の書籍『弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー』(新潮社)の著者に「開成野球部あるある」を聞いてきた!

【開成野球部あるある4】
自分の技術のなさを論理的に説明できるが、向上する気配は薄い。


『弱くても勝てます』を読んでいて特に目を引くのは、開成野球部員と著者である高橋さんのやりとりの面白さだ。
 たとえば、打球が捕れないと悩むある外野手に、高橋さんは《苦手なんですね》と聞く。すると、その外野手は《いや、苦手じゃなくて下手なんです》と答え、「苦手」と「下手」の違いについて、解説を始める。
「彼らはとにかく論理的。正確さを求めるんです。『苦手』と『下手』、普通の人なら流すところじゃないですか。でも彼らはその違いを見逃せない。『苦手』というのは主観的な評価で、『下手』は客観的な評価だと。だから彼らへの取材は、論理を詰めていく作業になるわけです」
 論理を詰めていく作業とは? 高橋さんは具体的なエピソードを話してくれた。
「ある選手が『自分は打てそうな時と打てなさそうな時がある』と言う。打てそうな時は打てる。打てなさそうな時は打てない。じゃあ、打てそうな時と打てなさそうな時の違いは何なのか…と考えると、試験前とかで練習していないと打てなさそうな気がして、それで打てないと。じゃあどうすればいいかというと、打てそうな気がする状態に持っていかないといけない。そのためには、練習したほうがいいっていう…」
 少しの間を置いて、そのまま高橋さんが言葉をつなげる。
「それって、かなり迂回したけど、つまりは毎日練習するってこと? と聞くと、『そうですね』と(笑)」
 全国の野球部員が何の疑問も抱かず、当たり前にやっているであろう「毎日練習する」ということ。開成の野球部員はその重要性にここまで論理を積み重ねて、ようやくたどり着く。この「論理の迂回」こそ、『弱くても勝てます』という本の最大の読みどころなのかもしれないが、続けて高橋さんは身も蓋もないことを言った。
「でも、野球は言葉じゃない。うまい奴はまず体が動くじゃないですか」

【開成野球部あるある5】
瞬時の判断がいつもワンテンポ遅れる。


 高校野球指導者は「野球は教育」「野球は人間性」とよく言う。確かにその通りなのかもしれないが、最終的に勝っている選手は四の五の言わずに瞬間的に動ける奴、いや、「動けてしまう奴」なのではないかと思う。
 その点、開成の野球部員は完全に逆行している。
 瞬時の判断がいつも、ワンテンポ遅れてしまう。前述したように、いつも頭の中に「論理」がぐるぐると渦巻いていているからだ。
 高橋さんはこう語る。
「開成の野球部員にありがちなんですけど、もうすでに試合が始まっているのに『野球をしよう』とする。青木監督もよく『野球をしようとするな!』と怒鳴るんです。『野球しよう、野球しよう』と思うということは、論理的に言えば『今、野球をしてない』ってことですよね? つまり、野球をしてないから『野球をしよう』と思うわけです。自分が『野球をしていない』ということを確認するようなものですね。じゃあ、俺は今、グラウンドで何をしてるんだ…。という疑問に無意識のうちにさいなまれる。で、そこに打球が来るわけです。それで部員は『えっ、来た』と(笑)。そうなると出遅れるんですね、すべての状況に対して。だから監督は『出遅れるなよ!』と声を荒げるんです」
 高橋さんの筋道の通った話を聞きながら、吹き出しそうになるのを懸命にこらえていた。何より誰より、高橋さんこそが開成野球部員らしく見えたからだ。
 ここまで論理の迂回に付き合ってくれたら、開成の選手にとっても高橋さんの取材は苦ではなく、むしろ楽しかったのではと思える。しかし、高橋さんは表情を曇らせた。
「彼らはもともと理詰めなのに、僕との議論のなかでさらに彼らの『理詰め』を深くしてしまうような感じがありました。たとえば『なぜ打てないのか?』という課題に対してまず彼らの理詰めを聞き、『じゃあその解決のためにはどうすればいいのか』と理屈を詰めていくと、彼らの理詰めがさらに深まって、ますますバットを振れなくなっていくような…。そういう心配はありました。だからときどき『そんなこと考えてないで、振りゃいいんだよ、思いっきり!』と言いたくなることもありました(笑)」
 論理の渦に迷い込み、身動きが取れない開成野球部員たち。そんな部員の尻を叩く存在が青木秀憲監督だった。
(つづく)

今回の【開成野球部あるある】
やる気はあるのだが、周りがそう見てくれない。


坊主頭ではなく、威勢のいい声を出すわけではない。高橋さんも「基本的におとなしい」と語る開成の野球部員たち。闘志があまり表に出てこないため「やる気がないのか?」と疑ってしまうが、本人たちなりに秘めているのだろう。

『弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー』

著:高橋秀実/新潮社/1365円(税込)

高橋秀実(たかはし・ひでみね)
1961年横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、ノンフィクション作家に。主な著書に『にせニッポン人探訪記』『からくり民主主義』『おすもうさん』など。『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞を受賞。

文=菊地選手(きくちせんしゅ)/1982年生まれ。編集者。2012年8月まで白夜書房に在籍し、『中学野球小僧』で強豪中学野球チームに一日体験入部したり、3イニング真剣勝負する企画を連載。書籍『野球部あるある』(白夜書房)の著者。現在はナックルボールスタジアム所属。twitterアカウント @kikuchiplayer

漫画=クロマツテツロウ/1979年生まれ。漫画家。高校時代は野球部に所属。『野球部あるある』では1、2ともに一コマ漫画を担当し、野球部員の生態を描き切った。雑誌での連載をまとめた単行本『デンキマンの野球部バイブル』(白夜書房)が好評発売中。twitterアカウント @kuromatie

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