週刊野球太郎
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第一回 「観客動員数をあげるために必要なこと」

 現在発売中の『野球太郎No.002』で球団経営の視点からドラフト戦略について語ってくれた楽天オーナー代行、パ・リーグ理事長でもある井上智治氏。しかし、話はそこで終わらなかった。セとパにおけるリーグビジネスの違い、侍ジャパンの問題点、そして野球という競技そのものが抱える課題などなど、「野球ビジネスの現在地」について球界のキーマンが鋭く迫ります。今回より三週連続でお送りします。

【広島の観客動員力】
井上
 DeNAの春田(真・球団オーナー)さんが、「こんなに野球ビジネスが大変だとは思わなかった」とおっしゃっていました。
─── ですが、DeNAの観客動員数は前年度よりも向上したという報道がされていました。
井上
 やるべきことをやった結果だと思います。ある意味、前が悪すぎましたから。それと「横浜」という都市は球場も含めて、本来すごくいい市場なんです。その中でDeNAさんはちゃんと施策を打ち続けましたし、何よりも監督が明るい!
─── DeNA以外で経営的に気になる球団はありますか?
井上
 セ・リーグの中では「広島恐るべし!」という感じです。楽天と広島を比べると、仙台市と広島市というのは人口は少し広島市のほうが多いですが、ほとんど同じくらいなんです。でも、観客動員数で比べると広島さんの方がかなり多い。特に、ビジターにおける観客動員力が非常に強いんですね。巨人さんや阪神さんがビジターでもファンが多い、というのはわかるんですが、広島さんも全国的にビジターでしっかり動員しています。これはセ・リーグに限らず、パ・リーグの球団に聞いてもそうおしゃっていますね。
─── 確かに、神宮をはじめどの球場でも、広島戦は赤く染まっている印象があります。広島球団の方にその理由を聞いたことはありますか?
井上
 広島の鈴木(清明・広島東洋カープ常務取締役球団本部長)さんに「動員力がすごいですね」という話をしたら、「歴史があるし、広島の方が全国に出て行っても、広島に対する愛着心が変わらずにあるから見に来てくれるんじゃないでしょうか」とおっしゃっていました。たぶん子どもの頃から広島ファンになっているのでしょう。ビジターに観客を呼べるかどうかというのは、パ・リーグのビジネス的な問題としては大きいテーマです。楽天の場合、クリネックススタジアムにお越しいただけるお客さんというのはほとんど楽天のファンで、ビジター球団のファンの方というのは限られています。でも、そういう方たちにも来てもらうための施策が必要なのかもしれないなという気がしています。

【CSと収益の関係性】
─── 観客動員、という部分では、クライマックスシリーズ(CS)や日本シリーズの盛り上がりは重要かと思います。ポストシーズンに関して、制度的な問題や経営的な観点からはどうお考えですか?
井上
 CSに関して個人的に考えるのは、ファイナルステージを1位球団の球場でずっとやるのがいいのかどうか、という点です。結構長い期間・多い試合数をひとつの球場で行うよりも、途中で相手側球団の球場にした方が盛り上がるかもしれない。また、ビジネス的な視点に立てば、現状の制度では2位球団の本拠地でファーストステージを行ない、1位球団の本拠地でファイナルステージを行ない、収入はその主催球団に入るというシステムを変更する必要はないのか。ファイナルステージで移動日を設けるとオフシーズンの日程が厳しくなる、という物理的な問題もあるわけですけども、球界全体のファンの視点からすると、それぞれの球場でやった方が喜ぶんじゃないだろうか、という気はします。その点以外は、今のところ安定的に動いている印象ではありますね。
─── CSで劇的に収入の変化につながるんですか?
井上
 やっぱりCSの主催試合というのは大きいですよね。もちろん、お客さんの入り具合にもよりますが、現状はそれなりに入っていただけますから。日本シリーズの場合は日本野球機構(NPB)の管理試合になるので、個別の収入は多く見込めないわけです。だからこそ、CSは追加の主催試合ができる上にお客さんも入り、テレビ中継もありと、球団にしてみたらかなりの収入になります。
─── パ・リーグはパ・リーグでCSのスポンサーを獲得したりと色々な工夫もされています。
井上
 はい。パシフィックマーケティング株式会社(PLM)を中心に努力しています。ただ、CSの収入配分も球団によって考え方が少しずつ異なります。今のように主催球団が収益をほとんど総取りする形がいいのか。もう少し下位球団に配慮をしたほうがいいのでは、という議論がないわけではない。
─── リーグの均衡化、という部分にもつながりますよね。
井上
 戦力の均衡化の議論になります。でも、セ・リーグではそういう議論はおこりにくい。以前、「パ・リーグではCSの収益をプールしてみんなで分けようか、という議論もある」という話をセ・リーグ球団の方にしたら、「とんでもない!」とおっしゃって、やっぱり考え方も違うなぁと思いました。いずれにせよ、ここのところ特にパ・リーグは戦力が均衡しているので、CSがあることによってレギュラーシーズン後半でも消化試合がほぼなくなってビジネス的にも機能していますし、ファンの方にとっても面白く機能しているんじゃないかなぁという風には思います。

■プロフィール
★井上智治(いのうえ・ともはる)/1955年生まれ、大阪府出身。1994年に弁護士からビジネスの世界に転身して井上ビジネスコンサルタンツを設立。2004年に楽天・三木谷浩史氏にプロ野球団設立を持ちかけ、東北楽天を創業し、楽天野球団取締役となる。2005年からはオーナー代行に就任し、また2008年からはパ・リーグ理事長を5期連続で務め、パ・リーグの発展を支えてきた。

★インタビュー=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。 ツイッター/@oguman1977

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