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第七回:内角をさばけるか

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。開催の詳細をお知らせいたします)


好打者の3つの条件


キビタ:前回は世間一般でいわれる「いい打者」像を整理しました。今回はさらに踏み込んで、ひとつ上のレベルで通用する好打者の条件を考えていきます。
久保:どういった要素がありますか?
キビタ:大きく分けて3つの条件があります。

@インコースがさばけるか?
A失投をひと振りで仕留められるか?
Bヒットになるセオリーがあるか?


今回は特に、@「インコースをさばけるかどうか」について説明していきます。


内角打ちは難しい


キビタ:プロの一流と呼ばれるバッターでも、インコースの厳しい球は打てません。20年以上も前の話になりますが、1992年のヤクルトと西武の日本シリーズ第1戦を覚えていますか?
久保:ヤクルトの杉浦享選手が代打サヨナラ満塁ホームランを打った試合ですよね。
キビタ:このときに打たれたのが、当時西武の鹿取義隆投手でした。その後鹿取さんと話をする機会があって、92年の日本シリーズの話題になったんです。私が「杉浦さんが内角の難しい球を上手く打ちましたよね」と言ったら、鹿取さんは「何を言ってるんだよ。あれは完全に失投。甘いボールだった」と言うんです。当時の記憶では杉浦さんがインコースの厳しいところを打ったと思っていたんですけど、鹿取さんは「そうじゃない」と。
久保:私もそういうイメージでいました。
キビタ:ところが、当時の映像を見直すと、そうではなかったんですね。動画を見てもらったらわかると思いますが、キャッチャーの伊東勤選手(現ロッテ監督)のミットの位置は内角のボールゾーンです。ところが打ったところはベースの上。ミットがストライクゾーンまで動いています。
久保:あぁ、ミットが中に移動しました。
キビタ:テレビ中継ではバッテリー間が斜めになっているから、インコースの厳しいところのように見えますけど、打ったのは高めの少し内寄り。甘いボールです。以前の復習になりますが、バッターがどのコースを打ったかは、キャッチャーのミットの位置で確認するとよくわかります。
久保:確かにインコース寄りですけど、そんなに厳しい球ではなかったんですね。
キビタ:何が言いたかったかというと、プロのトップレベルであっても、インコースの本当に難しい球を打っている訳ではありません。「インコースを打った」と言われている大半は、インコース寄りの甘い球を打っているのであって、ギリギリの球ではありません。
久保:それだけインコースを打つのは難しいのでしょうか。
キビタ:プロのレベルでは、真ん中から少し外の甘い球ならだいたいヒットにします。勝負の分かれ目になるのは、内側の球をどれだけさばけるか。ここが打てるかどうかで、バッターの格が違ってきます。
久保:だからプロ野球のスカウトはインコースを打てる選手を高く評価するんですね。
キビタ:ただし少年野球だったり、中学生、高校生の地方大会の序盤あたりまでは、インコースしか打てない選手がたまにいます。そういう選手には外に3つ投げておけば打たれませんから、上のレベルでは勝負になりません。最低限真ん中から外の甘い球は打てたうえで、どれだけ内側を打てるかが、プロで活躍できるかどうかの分岐点になってきます。


本当に内側をさばけているのか?


キビタ:「インコースをさばいた」という表現がありますけど、その内容をもう少し吟味した方がいいと思います。対応はしているけども、厳密にはさばけているとは言えない選手も多いのが現状です。
久保:「さばく」と「対応する」の違いを教えてください。
キビタ:あくまでも私の定義ですけど、「さばく」というのは、きれいなフォームでクルッと回る打ち方です。バットを体に巻きつけるように、回転で打つのが「さばく」打ち方です。


▲インコースを「さばく」例。腕をたたんで、体の回転で打っている


キビタ:「対応する」というのは、インコースへの対処方法を持っているけども、本当に意味でさばけていないということです。
久保:対応できていないと…。
キビタ:バットが折れてしまいますね。プロであれば、ピッチャー同士の対戦でよく見られます。対応をしていれば、そこまでバットは折れません。これは対応以前のレベルです。
久保:では対応というのは、具体的にどういう形のことですか?
キビタ:たとえば長野久義選手(巨人)だったら、ベースから離れて立ちます。そうすれば苦手なインコースでも、ある程度腕を伸ばしたスイングで対処できます。長野選手は腕を伸ばして打てるコースが得意なので、ベースから離れることで対応しています。
久保:その他のパターンはありますか?
キビタ:今年からメジャーリーグに挑戦する中島裕之選手(アスレチックス)は、インコースに多少詰まっても押し込んで打ち返します。決してきれいな打ち方ではないですけど、詰まってもヒットにすることで、インコースに投げにくくしています。他にも井端弘和選手(中日)だったら、インコースをファウルで逃げます。引退した小久保裕紀選手(元ソフトバンクほか)のように、インコースは苦手だけれども、少々甘ければ打ち返せる選手もいます。イチロー選手(ヤンキース)はインコースも打っているように見えますけど、実はインコースに投げられる前に別の球を打っています。


▲伸ばした腕をぶつけるようにして、インコースに「対応」している例


久保:そう考えると、本当の意味でインコースをさばいている選手は少ないですね。
キビタ:そうなんです。インコースを器用にさばける選手はプロでもごくわずか。内角打ちが上手いイメージのある坂本勇人選手(巨人)も、実際には長野選手のようにベースから離れて、インコースに対応しています。
久保:さばける選手と対応している選手とでは、バッテリーの攻め方も変わってきますか?
キビタ:ここはバッターの資質に関わるところです。根本的な組み立てから違ってきます。
久保:そのあたりを見分けるポイントはどこになりますか?
キビタ:バッターを横から見ると、よくわかります。スウェー(ピッチャーに向かって体重移動しながら打つこと)する選手は、インコースを苦手にしている可能性が高いでしょう。スウェーしない選手は軸でクルッとインコースをさばけます。


▲スウェーする打ち方。1、2番打者タイプによく見られる


久保:でも筒香嘉智選手(DeNA)は前に突っ込むような打ち方で、インコースを得意としています。
キビタ:筒香選手は腕とバットの重さをぶつけるようにして遠くに飛ばすタイプなので、「さばく」という感じではありませんね。ちょっと例外になります。
久保:ではインコースをさばける代表例は誰になるでしょう。
キビタ:昔の篠塚和典選手(元巨人)やカズ山本選手(元南海ほか)ですかね。カズ山本選手は長野選手と逆で、ベースギリギリに立って、外の球もインコースのようにして打っていました。カズ山本選手はインコースが得意だったから、そういう打ち方になったんだと思います。
久保:上げた右足がストライクゾーンにかぶるくらい、ギリギリまでベースに近づいていますね。
キビタ:ちょっと話が膨らみすぎましたが、インコースをさばける選手は打線の中でも要注意人物。バッテリーも細心の注意を払って攻め方を考えないといけません。格上のバッターと言ってもいいでしょう。
久保:次回は残り2つの条件について説明していきます。


※次回更新は2月12日(火)となります



■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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